こはんちかみち?


看板に従い『こはんちかみち』に向かって進んで行った一行。

しかし彼女らがたどり着いたのはこはんではなくドーム状の建造物だった。



「あれ、ここは…?人間がたくさんいますよレトリバーさん。」


みるとたくさんの人間が二列に並んでいた。みんな何かを待っているようだ。


「矢印の通りに進んだはずなのに...おかしいわね...一度戻りましょう。」


しかしレトリバー達が引き返そうとした先にはプリンセスが立ちふさがっていた。


「あら?あなたたちもこっちにきたのね!偶然!どうしたの?並ばないの?」


プリンセスは笑顔で言ったつもりであったがその目は笑っていなかった。


「いえ...『こはんちかみち』がこっちだって看板を見て来たんですけど...こっちじゃなかったみたいで...」

「ああそれなら問題ないわ!みんな『こはんちかみち』のゲートが開くのを待っているだけ!あなたたちも早く並ばないとこはんに行けないわよ!」


さあさあ早くとイエイヌ達を急かすプリンセス。彼女はそのまま3匹を列の最後尾に並ばせた。


「本当にここからこはんに行けるのですか?プリンセスさん」


はいいろはいぶかしげな顔で尋ねる。


「行けるわよ…えーと…割とすぐにね!」


プリンセスは右上を見ながら言った。

看板にこはんちかみちと書かれていた上に、保証してくれるフレンズがいる。イエイヌ達は信じるよりほかなかった。

プリンセスは自分に従い列に並ぶレトリバーを見て安心した表情に変わる。こいつさえ納得させれば後の2匹は勝手に付いてくる。楽なものだ。

プリンセスが油断したそのとき、列を管理していたスタッフが彼女の肩に手をやり声をかけた。


「出場するフレンズの方はあちらにお並びくださいね」


一瞬だけビクッと震えるプリンセス。表情が固まっている。不審に思ったレトリバーはプリンセスに尋ねる。


「プリンセスさん。出場ってどういうことですか?」

「えーと…うんと…。こはんにいくこと…?そう!こはんにいくことを特別に出場というのよ!」


レトリバーは明らかに怪しんでいた。プリンセスは焦って続ける。


「えーと…さばんなちほーは特別にじょう?って呼ばれることがあるのよ。それでそのじょうからでるから出場っていうの!あ、なんでじょうって呼ばれているかというと、じょうっていう人間が最初にここを見つけたからね。その人はとても偉くて、ジャパリパークで1、2を争うくらい偉いの!偉くて、とってもイケメンで、とっても優しくて、とにかく偉くて、すごい人間なのよ!優良フレンズの中では常識だわ!」


嘘を補完する嘘を重ねて、プリンセスの頭は軽くパニックを起こしていた。


「じょうさんってすごいんですね!優しいんだ…ちょっと会ってみたいな…」


とはいえはいいろは疑わなかった。彼女の中では深刻な優しさ不足の中での僅かな光に見えたのかもしれない。


「そういう人間もいるということね。あたしは興味ないけど!」


814番はなぜかはいいろに向かって言った。

どうやら小さい2匹には嘘だとは思われていないようだ。

しかしこの2匹で安心してはいられない。プリンセスは問題のレトリバーを不安そうに見てみる。彼女は口に手を当て、クスクスと笑っていた。


「な…なんで笑っているのよ!」


プリンセスは地面を強めに踏みこみながら叫んだ。これに対しレトリバーが答える。


「くふふ…いえ、プリンセスさんも『うそつき』なんだなって思っただけですよ。」


やはりレトリバーには嘘がバレていたようだ。困惑するプリンセス。その反応が想定と大きく異なっていたからだ。レトリバーは微笑んで言う。


「『うそつき』のフレンズさんは本当はいいフレンズだってこと、私は知ってますよ。協力してくれるんですよね。ね、はいいろちゃん、814番ちゃん。向こうの列に行きましょう。」


レトリバーは子犬達を連れてスタッフが指示した方へ向かっていった。

プリンセスはキツネにつままれたような顔でしばらく立ち尽くしていたが、そのうち三匹に続き列を移動していった。


~~~~~~~~~


プリンセスが並ぶと、ゲートが開き列が進んでいった。30名ほどのフレンズがドーム状の建物の中に次々に吸収されていく。最後尾に並んでいた彼女たちも後に続いて進んで行った。


「レトリバーさん...ほんとに大丈夫なのでしょうか?」

「なんか嫌な感じがしますよ?」


はいいろも814番も不安そうだ。無理もない。前に並んでいたフレンズたちがみんな緊張した顔をしていたからだ。


「大丈夫よふたりとも。『こはんちかみち』はこっちよ。看板にも書いてあったから間違いないわ。出場についてはよくわからないけど、プリンセスさんの顔を見る限り悪いことでもなさそうよ。」


レトリバーは子分を安心させるために言ったつもりであったが自身のしっぽも下がっていた。


それに気づいたプリンセスは三匹を激励する言葉をかける。


「心配ないわ!ちょっとした検査があるからみんな緊張しているだけよ。でもあなたたちなら大丈夫!余裕で合格よ!」


検査と言う言葉を聞いたレトリバーは急激に不安な表情に変わった。自分たちが研究所から逃げ出してきたフレンズだということがバレてしまえば一巻の終わりである。やっぱり引き返そうかと振り返ると、通過したゲートはすでに閉まっていた。


すなわちもう逃げられない。検査はどうにか通過しなければならない。レトリバーは子分たちに真剣な表情で忠告した。


「はいいろちゃん。814番ちゃん...なんか検査があるらしいわ...絶対に本当の自分のことはしゃべらないこと。わかった?」


切迫した様子のレトリバーに二匹とも無言でうなずくしかなかった。

かくして一行はドーム状の建造物の中に入っていったのだった。

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