はいいろの夢
「はいいろちゃんがそう言うなら、やってみてもいいんじゃないかな?」
レトリバーは優しく微笑み、はいいろに言った。はいいろの顔がぱぁっと明るくなる。
しかしここで横やりが入る。
「はぁ!?816番にできるわけないじゃん!バカじゃないの?!」
814番は抗議を続ける。
「レトリバーさん。そんなこと言っても、あたし達は追われる身ですね?アライさん
はどうする気なんですか?ここまで来てコイツのわがままに付き合ってられませんよあたしは。」
814番の進言に、レトリバーはハッと気づいた顔になった。どうやら優先順位を思い出したらしい。
「…814番ちゃんは言い過ぎだけど、確かに私達には別の目的があったわ…まずはそれを果たしましょう。」
言われたはいいろは唇を噛み、うつむいて地面を見た。レトリバーもうつむきつつスタスタと前へ進む。
「ほら!こはんに行くわよ!」
814番が腕を掴みはいいろを連行しようとすると、
「待って!」
プリンセスが声を上げた。
「アイドルおーでぃしょんは今日しかないのよ!あなた達の目的がなんなのか知らないけど!その子のユメが叶うかもしれないのは今しかないのよ!」
プリンセスの力説は続く。
「チャンスはもうないのよ!その子の夢は一生叶わなくなるのよ!」
今だけ限定と言われると、やらせないのはもったいないと感じるものだ。レトリバーは思わず振り返ってしまった。
もうひと押しだと感じたプリンセスは、ここで攻め方を変えてみる。
「あなた達の目的ってなんなの?仲間の夢をあきらめさせるほどのものなの?そうじゃなかったとしたらその子があまりにも可哀想じゃない?」
「…あなたには関係ないです」
レトリバーは毅然と対応するがプリンセスは引き下がらなかった。
「本当に!後悔しないのね!いいのね!」
プリンセスははいいろに念押す。
はいいろは恨めしそうにレトリバーを見上げる。これを見たレトリバーは、手をぎゅっと握りしめ、プリンセスには聞こえないほどの震え声ではいいろに語りかけた。
「はいいろちゃん…話を聞く限りアイドルはそうとう目立つわ…悪い人間に見つかっちゃうかもわからない…そしたらあなたは消えちゃうのよ?815番ちゃんみたいに…」
はいいろはサンドスターローを照射されたかつての知り合いの最後を思いだし、しっぽを下げた。
「わかりました…アイドルは…あきらめます…」
「うん。それがいいわ…ごめんなさいね。プリンセスさん。」
プリンセスに頭を下げると、レトリバーははいいろの手を引いて、先にいる814番の方へ歩き出した。
連れられるはいいろは至極残念そうな顔でプリンセスをちょっと見ると、手の引かれる方へ行ってしまった。
一匹ぼっちになったプリンセスは、おもむろに先ほどの端末を取り出すと何者かと電話を始めた。その表情は非常に深刻だった。
「ごめんなさい石動さん…あの子達と友達になれませんでした…」
端末を耳に当てるプリンセスの顔はみるみる青ざめていく。
「それだけはやめてください!お願いします!今日のために私は頑張ってきたんです!」
プリンセスは訴えかける。その思いが電話先の相手にも通じたのだろうか。
「わかりました……なんとか時間を稼ぎます…!」
プリンセスは電話を切るとすぐに走りだした。その表情は決意に燃えているようにも見えた。
・・・
「レトリバーさん!ありましたよ!」
イエイヌ一行は矢印看板の下にたどり着いた。
「ありがとう814番ちゃん。カラスさんが言うにはこの看板に従って歩けばそのうち目的地にたどり着くらしいけど…」
レトリバーは看板を読み上げる。
「えっと…左のが『じゃんぐるちほー』。右が『パークセントラル』と書いてあるわ」
イエイヌ達は困惑した。どこにも目的地が書いていなかったからだ。
「これじゃこはんがどこにあるかわからないわ…」
「またカラスにウソつかれたんじゃないの?!」
814番が憤慨すると、レトリバーがなだめた。
そのうちはいいろが看板の後ろに何かがあるのに気づく。
「これはなんでしょう?…あ!なんか書かれてます!」
レトリバーがはいいろの方へ駆け寄ると、小さい看板があった。そこには確かに汚いひらがなでなにかが書かれている。
「『こはんちかみち』と書かれているわ。」
レトリバーのセリフに814番はしっぽを振って喜んだ。
「やった!こっちへ進めばアライさんにあえる!早く行きましょうレトリバーさん!」
「え、ええ。行くわよはいいろちゃん」
3匹は『こはんちかみち』の方へ歩き出した。
しばらくして茂みの中からプリンセスが顔を出す。
「こんなにうまくいくなんて…!」
プリンセスは小さくガッツポーズをとると、『こはんちかみち』の方へ向かって行った。
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