作戦立案

「??タグなし?なんですかそれ?」


レトリバーは不思議そうな顔で尋ねる。


「いや、知らないのも無理はネェ。公にはされていないからナ...教えてやるよ。」

「なになに~?」


814番とはいいろもカラスの方へ来た。


「ついでにお前らにも教えてやるよ。よーく聞くんだナ。

まずジャパリパークでフレンズが生まれると、普通頭にタグっていうやつを埋め込まれるんダ。」

「そのタグがあるとどうなるの?」

「そうだナ...まずどこにいるのかが人間にバレちまう...」

「えぇ...!?なんで?」

「さあな。でも他のちほーとか人間専用の場所へ行こうとするとすぐに連れ戻されちまうんだ。キツ~イお仕置きも一緒にされる。」


カラスは服の端を捲り、痣だらけの腹を見せた。イエイヌたちは言葉を失うが、カラスは構わず続ける。


「だがお前らは違うみたいだナ。人間たちはお前らを探すのに苦労していたみたいだカラ。」

「じゃあ私たちは逃げられるということ?ひどいこともされない?」

「ああ...ほかのちほーにも行き放題だろうサ!うまく行けばこの地獄から抜け出せるかもしれないナ!」


抜け出せるかもしれない。この言葉はイエイヌ達に少なからず希望を与えた。


「カラスさん!どうやったら抜け出せるか教えて!」

「それは分からネェ。分かったらとっくにやってるしナ…そういえばお前らフレンズを探しているんだってな?」


イエイヌたちはアライさんについて知っていることを話した。カラスに何か手がかりがあるかを尋ねたが、カラスの反応は今ひとつであった。


「ゴメンな…アライさんは知らない。この辺の奴らは大体知ってるんだがナ…もしかしたらこのちほーの奴じゃないのかもな…」

「ええ!?別のちほーに行くとお仕置きされるんじゃないの?でも確かにここのちほーに来たはず…」

「そうなんだよそこなんだよ!むやみに動き回ることは普通できネェ。だがそれこそアライさんとやらに会ってみれば分かるんじゃないカー?パークのあちこちに行ってるということは少なくともタグの対策を知っているということだ。」

「でもどこにいるのかわからないのに…」

「いや、ウチは探す方法を知っている。」


カラスはレトリバーの目を見て続ける。


「さっきお前たちにインフォメーションセンターへ行けって言ったろ。あそこで人間達はお目当てのフレンズがどこにいるのかを見つけているらしい。それをうまく利用するんだ。」


814番は眉をひそめて言う。


「あんた…また私達を騙そうとしているでしょ!?さっきは助けて貰ったけど、魂胆はそういうことなんでしょ!また追い返されるところをみて笑う気でしょ!」


はいいろは思いだしただけで怯えていた。レトリバーも黙って床を見ている。


「いや、これはウソではないんだ。受付の奴は人間相手ならちゃんと教えてくれるんだ。つまりこちらが人間のふりをすればちゃんと教えてくれるはずだ。」


カラスは諭すように言った。814番はカラスを睨む。


「本当なのでしょうか?信じていいのでしょうか?」


はいいろはレトリバーに尋ねた。しかしレトリバーも悩んでいる。


「わからないわ…私もあそこにはもう行きたくないもの…」

「ウソじゃないんだよ!お前たちには人間共に一矢報いる可能性があるんだ!そうなったらウチはオモシロ…いや…えっと…応援したいんだ!お前らを!」


カラ巣は重たい空気に包まれた。しばらくの沈黙。

その沈黙を破ったのはキュルルという音だった。音のする方を向くと、はいいろが恥ずかしそうに下を向いていた。


「ごめんなさい…生まれてから何も食べてなくて…」

「はあ!?今そんな場合じゃないでしょ!それに私だってお腹空いてるし!我慢しなさいよ!」

「うう…ごめんなさい…」


814番に責め立てられたはいいろは、悲しげにレトリバーの方を見る。見られたレトリバーは庇護の目ではいいろを見返した。


「あらあら、石動さんにじゃぱりまん持ってきてもらいま…」


途中まで言ったレトリバーはハッとした表情に変わり、少し無言になると言葉の続きを言った。


「ごめんなさいはいいろちゃん…814番ちゃんの言うとおり、今は我慢して…」

「わかりました…」


イエイヌ達はさらに険しい顔に変わった。

そのとき、カラスがイエイヌの前にじゃぱりまんを差し出した。


「ウチの今日の配給だ。お前らにやるよ。」


カラスはそっぽを向いて言った。

目の前にある2個のじゃぱりまんをみて、はいいろと814番は鼻をひくひくさせ目を輝かせていた。


「た、食べていいの?」


814番が尋ねる。


「ああ、ウチはポップコーンでお腹いっぱいなんだ。全部やるよ。」


そう言われるや否や2匹はむさぼり食いはじめた。

あっという間に食べ終えた814番とまだ半分くらい残っているはいいろ。手がすいた814番はちょっかいを出し始めた。


「ねえ!816番のやつの方が大きかったと思わない?」

「ええ...?同じでしたよ…っあ!」

「ふふん。これで平等ね!」

「あああああーん!全部食べられましたぁー!」


はいいろは叫び声をあげ、レトリバーに泣きついた。困ったレトリバーはカラスに言った。


「あの...カラスさん...もう一個あったりします?」

「ネェよ。じゃぱりまんは一日2つしかもらえない。最近また減らされたんだ。」


カラスは相変わらずそっぽを向いて言った。

レトリバーは思った。自分が研究所にいた頃は一日5個は、もらっていた。それでも少し少ないと思っていたくらいだ。しかしカラスは一日二個しかもらえない。一日二個しかもらえない貴重で大切な食べものを信頼できない人にあげることなど自分にできるのだろうか。いや、できないだろう。レトリバーは心の中で結論を出すと、仲間たちに語りかけた。


「インフォメーションセンターに行きましょう。アライさんの場所を見つけるの。」

「ええ!?いくんですか?」


はいいろは仰天した。


「そうよ。カラスさん。人間のふりをする方法、教えてください。」


カラスはやれやれと言った表情でイエイヌたちを見ると、ため息をひとつつき話し始めた。


「ふぅ...まずはこれを見ろ」


カラスは部屋の隅にあった木箱からなにか円盤状のモノと紐を取り出すと、説明を始めた。


「いいカー?人間がフレンズを見るポイントは二つある。お耳としっぽだ。お耳としっぽがないものは人間。あるものはフレンズ。奴らはそれで人間とウチらを区別しているらしい。」

「つまりお耳としっぽを見せなければいいのですね。」


とレトリバー。


「そういうことだ。そこでこれを使う。」


カラスは先ほど取り出した円盤状の道具をイエイヌたちの目の前に突き出した。


「これは[ぼうし]といって頭の上にのせて使うんだ。こうすればお耳は隠れて見えなくなる。」


カラスはぼうしを自身の頭にのせた。なるほど確かにカラスの頭の羽は隠れて見えなくなった。


「しっぽはこの[ひも]を使って服の内側に留めるんだ。留め方はこう。外側からは見えなくなるだロ?ほら。」


カラスは見えやすいように服をはだけて実際にやってみせた。カラスの尻を見ても、そこにしっぽがあるとは思えない。どうでもいいかもしれないがパンツも黒だった。


「これならフレンズだってバレなさそうね。じゃあ私行ってくる。カラスさんありがとう。」


レトリバーは帽子とひもを受け取り立ち去ろうとするがカラスはこれを引き留める。


「まてまてまて。一番でかいの。お前ひと悶着したし顔バレてるだろ。帽子かぶってもバレちまうぞ。」


「う。確かに...でもどうするっていうの?」


カラスはレトリバーから帽子を取り上げてはいいろにかぶせ、その頭をポンと叩いた。


「コイツにやらせるんだ」

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