カラスの嘘


見つかってしまった。イエイヌ一同は冷や汗を流しそうになる。(犬には汗腺がないため)。

上から眺めていたハシボソガラスも緊迫した雰囲気を感じ取った。


「石動さん!いました!インフォメーションセンターの前です!」


研究員は応援を呼んだ。


「逃げるの!早く!」


レトリバーは子分たちの手を掴むと一目散に逃げ出した。当然追いかける研究員。手にはサンドスターロー照射銃を持っている。


「何だ何だ面白そうだナ!」


カラスは面白がって付いてきた。必死に逃げるはいいろの頭上に飛び、話しかけ始めた。


「おいお前ら!なんで逃げてるんダ?」

「それは…ハァ…生きるため!です…ハァ…」


カラスには事情が全くわからなかったが、このフレンズ達を助けた方が面白そうだという結論に至ったようだ。


「カカカ!やっぱ面白いなお前!そうだ!上から逃げ道を探してやるよ!」


カラスはサンドスターを振りまきながら上昇していき、下を見下ろした。

イエイヌたちは、人の多い大通りから、建物の間の細い路地へ走り込もうとしていた。


「おい!そっちは行き止まりだゾ!」


カラスが大声で叫ぶ。しかしレトリバーを先頭にしたイエイヌ軍団は構わず入っていった。カラスは思わず彼女らの頭上に飛んでいき、再び話しかける。


「そっちは行き止まりなんだヨ!早く引き返せ!」

「あなたの嘘は聞いてられません!」


ゴールデンレトリバーはイエイヌの中でも学習能力が高い動物であるため、これもカラスのウソだと思ったのだ。今回騙されたら死に直結する。

しかしカラスのいうことは本当だった。


「レトリバーさん!行き止まりです!」

「嘘…なんで…」


薄暗い路地に女研究員の足音がこだまして聞こえてくる。レトリバーは絶望の表情に変わっていった。


「だから言っただろ!ああもう仕方ねーな!」


ハシボソガラスは上へ飛び上がっていった。

そのうち女研究員の姿が見えてくる。やはり光線銃を構えている。さあ大人しくしろみたいなことを言っている。懲戒免職がかかっている彼女も必死である。銃をイエイヌに向ける研究員。

イエイヌたちに照準が合わさり、まさに引き金を引こうとしたそのとき、べちゃりという音がして、女研究員の顔が真っ白になった。


「わああああああ!!何よこれえええ!」


突然のことに悲鳴を上げ、銃を落としてしまう女研究員。


「カカカカカー!やっぱりウチのは百発百中!!これはもらって行くぜーー!」


ハシボソガラスは女研究員の持っていたサンドスターロー照射銃を拾い上げると大通りに向かって駆け出していった。一瞬戸惑ったイエイヌたちもカラスの後に続いて逃げ出していった。


余談ではあるがよく道に落ちている白い液体は、鳥の糞ではなく鳥の尿に当たるものである。鳥は窒素を尿酸(白色)に変えて排出するのだ。


ハシボソガラスに付いて行ったイエイヌ一行。

レトリバーは少々怪しんでいたが、やはり他に行くあてはない。怪しくてもここは付いていく以外になかった。


「いまからお前たちにはウチの巣に来てもらうゼ。ウチもいろいろしてやるからお前たちもいろいろ話せよナ!」


ハシボソガラスは若干ゃご機嫌だ。

レトリバーは不機嫌そうだったが、手に持っている照射銃を一瞬みると、すぐに真剣な顔に戻った。


「あの…なんで助けてくれたんですか?」


レトリバーが質問する。


「可哀想だと思ったからサ!それ以外に理由が必要カーッ?」


カラスは凛々しい顔でそう言ったが、本心ではそんなことは微塵も思っていなかった。なんと言っても面白いことなら人が嫌がることを進んでやるフレンズである。

しかしながらレトリバーはこの言葉を信じ込んでしまったのだった。

そうこうしながら進んで行くと、カラスの巣。略してカラ巣に到着したようだ。


「レトリバーさん!見てください!木の上に家が!」


カラ巣はツリーハウスだった。もちろんイエイヌたちはそんなもの見たことないのでテンション爆上がりである。中を一目見た一同はさらに驚愕した。内装がキラキラ光るものだらけだったのだ。


「すっごーい!なにこれ!なにこれ!」


はいいろと814番ははしゃぎ回る。これを見たカラスがすぐさま注意する。


「やめろ!床が抜けるカラ!」


2匹がしおらしく謝ると続けてカラスは内装について説明を始めた。キラキラ光るものはカラスが長年かけて集めたものであるという。ガラス玉からメガネ、どこかのナットのようなものまで多種多様なものが取り揃えてあるそうだ。カラスはなんでも自由に見ていいと言ったので小さい2匹は見物を始めることにした。

子分達が静かになったのを確認したところでカラスはレトリバーに質問を始めた。


「で、なんでお前たちは追いかけられていたんダ?配給のジャパリまんでもちょろまかしたのカー?」

「配給?いえ...私たちは...」


レトリバーはうつむくと、話し始めた。自分たちは研究用のフレンズであったこと。すんでのところで逃げ出したこと。アライさんを探していること。カラスは真剣な顔で聞いてくれた。話終わり、しばらく沈黙するカラス。レトリバーは自分の知っていることをすべて話したつもりだった。なにか引っかかるところがあったのだろうか。レトリバーが問いかけようとしたそのとき、カラスはしゃべりだした。


「ひょっとして...つまりお前ら...タグなし...なのか...?」


カラスはあの世のものをみたような顔で言った。

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