研究所の外へ

「嫌っ!離して!離してよお!」


はいいろは足をばたばたさせようとするががっちり掴まれた脚はピクリとも動かなかった。


「指宿さん、照射銃を。」


女の研究員は男の研究員に銃を手渡す。

そして手渡された銃ははいいろに向けられる。


絶対絶命だ。


「レトリバーさん!私は先に行っちゃいますよ!

あなたもこんなやつ放っといてさっさと行くべきです!!」


そう吐き捨てて、814番はさっさと上に上がって行った。


「コラなんてこと言うの!…かくなる上は…!」


レトリバーさんは爪にけものプラズムを集め始めた。

フレンズは個々の動物に備わった性質をもった技が使える。

イエイヌのフレンズも例によって技が使える。

イエイヌの場合はワンダフルスラッシュ。簡単に言えば、爪で切り裂く攻撃だ。フレンズの技としては威力は高くはないが、生のかぼちゃを粉砕する程度のパワーがある。もちろん人間が生身で受ければひとたまりもない。



「石動さん...その子を放さないと...いや...撃つなら...その...くらしますよ...」


レトリバーは震える声で爪を向け威嚇した。しかし心の中では、


(できるの...?私に...)


と不安でいっぱいであった。それに対し研究員は、


「できるのか?お前に。」


と言い放った。

事実できない。いままでとってもお世話になってきた人間に歯向かうことなどできない。

思わずけものプラズムを引っ込めるレトリバー。

研究員たちにはイエイヌの性質などわかりきっていた。ちゃんと世話をしてやれば恩義を感じて絶対に歯向かったりしない。食事中を除いては。

レトリバーの爪を確認した研究員は不敵に笑い、はいいろの頭に照準を合わせ、引き金に指をかける。

はいいろは目をぎゅっとつむった。


「すまんな。めいれエエええ!!!!」


急に叫び出す研究員は銃を落とし、はいいろを掴んでいた腕を離した。

何事だろう。と下を見るレトリバーとはいいろ。そこにいたのは、


「石動さん!足ケガしてますよ!舐めておきますね!」


研究員の足を必死に舐める秋田犬であった。


「ちょ、やめろ秋田犬。大丈夫!大丈夫だから!」

「そんなこといって!噛まれたんでしょ!入念にやりますよ!」


足をなめる秋田犬を振りほどこうとする研究員。はいいろは掴まれていた足をさすりながらポカンとしていた。


「はいいろちゃん!はやく逃げるわよ!秋田犬ちゃん...ありがとう...」


はいいろの腕を掴み階段を上るレトリバー。


駆け上がった階段の上には814番が待っていた。


「あれ?助かったの...」


不思議そうにはいいろをにらみつける814番。


「助かったの。さあこっち!」


レトリバー達は研究棟の出口の扉にたどり着いた。

ここを開ければ外へ出られる。3匹は期待と不安を胸に扉に手をかけた。そして。


「うわっまぶしい!」


真っ先に外へ出た814番が思わず声を出す。


「本当に明るいですね!レトリバーさん!...あれ?レトリバーさん?」


レトリバーの目は若干涙ぐんでいた。


「レトリバーさん...泣いてるの?」

「えぇ...こんなに明るい場所があったんだって...太陽がこんなにまぶしいなんて...アライさん達からは聞いていたけど、私の思っていたより...ずっと、ずっっと、ずぅっっっと!!素晴らしい!!!!」


レトリバーさんはしっぽをぶんぶん振り回して叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る