ヒトへの反逆

「秋田犬ちゃん!ごめんなさい!」

ゴールデンレトリバーは秋田犬の腕を掴むと、秋田犬の身体を銃の方へ向け盾にした。

「っく...こいつっ!人質を取りやがった!」

人間たちがどよめく。

「この子を助けたかったら、その銃を下ろしてあの子たちを解放してください」

ゴールデンレトリバーは人間たちに毅然とした態度で言った。

「どうします所長?」

研究員の男の方が偉そうな男性に尋ねる。

「とりあえず秋田犬ちゃんを解放させろ。ほかの奴らは後ですぐ処分する。」

「了解です。」

研究員は銃を下ろし、檻のカギを開ける。

すぐさまレトリバーが声を上げる。

「出て!814番ちゃん!はいいろちゃん!私もすぐ行くから!」

促された二人のフレンズはゆっくりと檻の外に出た。

このフレンズたちは産まれたてで状況をあまり飲み込めていない。

「右!右に走って!」

「右って何?」

「よくわからないけど、こっちじゃない?」

二匹は左に向かって走り出した。

「そっちじゃない!」

ゴールデンレトリバーは秋田犬を放りだし、鍵が開いた入り口に向かって走り出す。

「離れたぞ!撃て!!」

所長の命令を受けた研究員はレトリバーに発砲する。

しかし、ろくに訓練を受けてない者が動く標的をとらえられるわけがない。

弾は標的の後ろの床に着弾し、ゴールデンレトリバーは左に向かって走っていった。

「追いかけろ」

所長は命令した。研究員は命令に従うのみである。

先に逃げた二匹にレトリバーが追いつく。

「この先は行き止まり!そこの部屋に入って!」

突き当りの部屋に入っていく三人。

「更衣室に入った!もう逃げ場はないぞ。」

追っ手は勝利を確信したのか、部屋に向かって歩き始めた。


更衣室。

「レトリバーさん...私たちどうなっちゃうんですか...?」

はいいろは泣きそうな顔になっている。

「それは後!とりあえず階段を上がって地上にでないと...」

「なんとかしてよ!あたし消えたくない!」

814番が騒ぎ立てる。

「落ち着いて!当たらなければ問題ないわ!私の言うとおりに行動して!」

レトリバーは先ほどまでの温厚な性格からは考えられないような大声を出した。

状況が理解できていない二匹でも、なにかのっぴきならない事態が起こっていることがわかった。

怯える二匹に気づいたレトリバーは優しい声色に戻して言った。

「大丈夫よー。大丈夫...絶対消えたりしないから...」

なだめるその声はわずかに震えていた。


いよいよ研究員たちが部屋に入ってくる。

3匹のフレンズたちは並んで座って待機していた。

「イエイヌちゃんたち~。おとなしくしてれば痛い目には遭わないよ~」

所長は舌なめずりをしながら言った。

「本当ですか?」

レトリバーは質問する。

「うん。とっても楽になるよ。もうくだらないことに悩んだり、どうしようもないことにおびえたりせずに済むんだよ~」

所長はニタニタしながら銃を構える。

「そうですか...」

レトリバー達は床に四つん這いになる。

予想外の行動に困惑する人間たち。

「私たちは...消えません!!!!」

3匹は屈していた脚部を瞬発的に伸ばすと、人間たちの足に一斉に噛みついた。

「痛!」「何しやがる!」

銃を下げとっさに足をかばってしまう人間たち。この隙に三匹は走りだした。

「二人とも!私についてきて!」

レトリバーに続いて、灰色と814番は走りだした。

「くっそっ!逃がすな!捕まえろ!」

大型犬のフレンズに本気で噛まれた所長は痛みでまだ動けないようで、二人の研究員に命令を下す。彼らは痛む足を抑えながらもフレンズ達を追いかけて行った。


ついに階段までたどり着いた三匹。

「これを上がればここから逃げられるわ。二人共、あとちょっとよ!」

レトリバーは後ろを向き励ましの声を掛ける。20mほど後方には人間が迫ってきているのが見える。のんびりはしていられない。

レトリバーが階段をかけ上がる。2匹も続く。

タタタタタタタと軽快に駆け上がる音がする。しかし、不意にドタンと転ぶ音が聞こえた。

「キャン!」

「はいいろちゃん!」

どうやらはいいろが転んでしまったようだ。

「うぅ…痛い……」

はいいろは擦ったところをなめはじめた。

「何しているの!早くこっちへ!早く!あぁ!」

レトリバーが振り向くと、人間の影は目前まで迫っていた。そしてついに。

「はぁ…はぁ…捕まえた…」

はいいろの足はがっちりと掴まれてしまった。

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