実験動物の生き方

研究員達は所長と一緒に薄暗い廊下を歩いていた。

研究内容を見せるために用意しておいたフレンズ達のもとへ向かうのだ。

コツンコツンと足音だけが響いている。

そのうち研究員のひとりが不安そうに所長に尋ねた。


「あの...私達これからどうなるのでしょうか...」

「安心しなよ。クビにはしないから。そうだな...ジャパリまん製造工場にでもいってもらおうかねぇ。」

「そ...そんな。」


研究員達は明らかに不満そうな顔になった。それに気づいた所長は続けて言う。


「嫌なら辞めてもいいんだよ?ジャパリパークではみんな自由に生きていけるからねぇ...あぁ!そうだ!『ヒト』のフレンズの展示なんて面白そうじゃない?誰にやれとは言わないけど。ねえ?」


そんなことを話しているうちに、5匹のイエイヌを収容してある檻に到着した。

所長が檻を覗きこむと、すぐに一匹のフレンズが近づいて来た。


「所長さん!お久しぶりです!ずっと会いたかったです!撫でて!撫でて下さい!」


尻尾をフリフリさせながら快活に振る舞うそのイエイヌの頭を檻越しに撫でながら所長は言う。


「君、名前は?」

「秋田犬です!!撫でていただきありがとうございます!光栄です!」


撫でられた秋田犬は恍惚の表情を浮かべて言った。

それを見た所長は檻越しに手の平を伸ばして言った。


「お手」


秋田犬はお手をした。続けて所長は言う。


「おかわり」


秋田犬はおかわりをした。続けて所長は言った。


「うん。この子でいいや。」


所長のひと言で展示用のフレンズが決まってしまった。もちろん研究員達は反論する。


「そんな適当な決め方でいいんですか!?」

「ちゃんと他の子達も見て比較して検討した方が...」


研究員達の意見など所長はもとより聞く気はなかった。


「うるさいなあ。どれも似たり寄ったりだよ。犬なんてどれも同じ。もう秋田犬ちゃんに決定したの。他のはもういらないから元に戻しちゃって。」


研究員は所長から手渡されたサンドスター・ロー放出銃を手に取った。研究員は檻の方へ銃を構える。しかし、その手は小刻みに震えていた。


「石動さん?どうしたんですか?元に戻すとか聞こえましたが...様子がおかしいですよ?」


そんな研究員・石動に檻の中から声をかけたのはレトリバーだった。とても心配そうだ。まだ銃を構えていることには気づいていないのだろう。


「レトリバー...俺は。」


そう言った石動は銃をレトリバーの方へ向けた。向けただけだ。引き金を引いてはいない。このレトリバーは彼がこの実験で初めてフレンズ化させた個体で、研究も手伝ってもらったし、話し相手にもなってくれた。この個体とは思い出がたくさんある。

しかしそれよりも石動を躊躇させたのは、この檻のフレンズ達を元に戻してしまえば、自分の研究が終わってしまい、二度とここにいることができないと言う事実であった。


「どうした?やれ。」


所長が冷徹に言う。


「ああああああ!!」


研究員は叫びながらサンドスター・ローを発射した。

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