1話


忘れることができない・・・

そこで僕は目が覚めた。そうか僕は母方の実家に行く電車で寝ていたのか。そこで意識が完全に覚醒した事を自覚した。僕の名前は清胤優紀。今年で17歳である。僕が今見ていた夢は幼いころの記憶、僕は昔田舎にある母方の実家に夏は毎年訪れていたのである。そこで僕はある少女に出会い、約束を交わしたのである。

しかし、その約束は果たすことができなかった。約束を交わした翌年、僕は重い病を患い5年の闘病生活を送ってきたのである。そして、完治したその年の夏に僕は約束を果たすために訪れてみたがその少女に合うことはできなかった。当時の僕と同じ年だったと思っていたため容姿もそれなりに成長しているとは思い、現地の知り合いなどにも聞いてみたが、皆知らないと言っていた。もちろん翌年も、その翌年も通ったが未だに会うことはできていなかった。もちろん今こうして母の実家を訪れようとしている目的は、あの少女に会うためである。でも、今年は去年までとは違う点が一つあった。

もし今年の夏に会うことが叶わなければ来年からはもう来ないと心に決めていたのである。

「今年が最後かもしれないな・・・」

僕は少し悲しさを感じため息をこぼした。

「次はー、○○駅―、○○駅―」電車のアナウンスが聞こえ、僕は考えるのをやめ、降りる支度をした。

電車を降り、改札を抜けると僕が住んでいる都会とは別世界であった。見渡す限り田んぼが続き、緑あふれる場所。都会の空気とは違い、本当に空気がおいしく感じる。毎年駅を降りるたびに深呼吸をしてしまう。

「なんだか僕の実家のように感じてしまうくらいこの街には懐かしさや安心感を覚えてしまうな。」僕は子供の時から変わらない入道雲のある空を見つめた。

少しすると、祖母の良枝さんが車で迎えに来てくれた。祖母は生まれもこの街でずっとこの街で過ごしてきた。祖父は僕が生まれる前に他界しており、会うことができなかったが母や祖母には祖父に似ているといわれるため、生きていたら僕を老けさせた顔なのだろうと思っている。

「優紀君、今年もこんな遠いところまで来てくれてありがとう。私は一人で暮らしているから、あなたが来てくれてうれしいわ。今年はいつまでいるのかしら?」

祖母は話すことが好きみたいなので毎年、僕が来るのを楽しみにしてくれている。が、それも今年で終わるかもしれないと思うとやっぱり来年も来てもいいかもと思ってしまう。もちろん少女のことは置いておいてだ。

「そんな、僕も良枝さんに毎年会うのを楽しみにしています。今年も夏の間は当分ここにいるつもりなので今年もよろしくお願いします。」僕は素直な気持ちを良枝さんに伝えた。

「もしかして今年も例の少女さんを探すのですか?優紀君が幼いころに会ったという少女さんに。今年こそは会えるといいですね。」祖母はぼくが毎年来ている理由を知る数少ない理解者である。僕は小さいころに両親にもこのこと伝えたが信じてもらえることはなかった。

「ええ、今年も探そうと思います。しかし、探すのは今年までにします。毎年通っても見つけられないんです。もしかしたらどこかに引っ越しているかもしれませんし、約束を守らなかった僕に今更あってもどうしようもありませんしね。」

そうだ。約束を守らなかったのは僕だから会いたいというのは、虫がいいのかもしれないのだ。

「そんなことはないと思いますよ。約束をした次の年に病気になったことは私から優紀君のお友達には伝えていたからその子もきっと知っているはずです。だから何も心配しなくていいんですよ。」


良枝さんはそう言って微笑んだ。

「そうですね、僕も頑張ります・・」ぼくも良枝さんに微笑んで答えた。

 その後は、良枝さんの家まで世間話をしつつ向かった。

良枝さんの家は一人で住むには広すぎるくらいの家で、親戚が集まっても余裕で全員泊まるだけの部屋がある。その家の中で僕がいつも使っている部屋は決まって縁側のある部屋を貸してもらっている。毎年お邪魔しているため、僕の服や、日用雑貨はそのまま置かせていただいている。

僕は少ない荷物を部屋まで運び、すぐに良枝さんの所へ向かい遅めの昼食を二人で食べることにした。

食事を済ませ、食器を洗い終え何をしようか迷っていた。

「まだ今日は着いたばかりだし、少しゆっくりしようかな。」良枝さんに淹れてもらったお茶を飲みながら今日の計画を立てていると、「せっかくですから、こっちの友達に顔を見せに行くとよいですよ。みんな優紀君が来るのを待っていたと思いますから。」

確かにそれが一番いいかもしれない。

「そうですね。僕も友達に会いたいのでそうします。では、帰りはちょっと遅くなるかもしれません。」

そういうと、僕は支度を早急に済ませ家を出た。


外はちょうど昼下がり、外に出た僕はまず誰に会いに行くか迷っていた。

「近いところから周るにしてもどこも同じくらいの距離を歩くことになるだろうし・・・」

そういいつつ僕は少しずつ歩みを進めていた。立往生しても意味がないと思ったからである。

しかし、どうしたものか・・・

「・・・おーい、・・おーい、・おーい、」考えて歩みを進めていると、後ろからこちらにむかってくる声に気づき後ろを振り返るとこっちに向かってくる人影に気づいた。

「やっぱり優紀だ!後姿が何となく優紀っぽいと思って声かけたがほんとに優紀でよかったよ。」

そういって近づいてきた男は、僕の友達である笹本幸助。幸助とは僕が初めてこっちに来たころからの付き合いで親友である。今日こっちにつくことを事前に伝えていたので多分会いに来てくれたのだろう。

「久しぶりだな、一年でまた大きくなったな。元気にしてたか?」僕も一年ぶりに会う幸助に挨拶をした。

「元気も元気だ、優紀も元気そうで何よりだよ。」

「まーね、今からみんなの所に行って顔見に行くつもりなんだが、幸助も一緒にどうだ?」

「いいぜ。そのために来たんだからな。それにお前はよく道に迷うからな、俺がついて聞かなきゃ迷子になるだろう?」

そうなのだ、僕は何年もこっちに来ているが方向音痴でよく迷子になりそうになるのである。

「助かるよ、じゃあ誰の家に行こうか」

「まずは、恭子の所に行ってやれよ。あいつ、今年もお前が来るって伝えたら大喜びしてたぞ。あいつは完全にお前に惚れてるぜ。」

「何を言ってるんだ、恭子は俺の友達だ。恭子も友達として喜んでるにきまってるさ。」

松本恭子、同い年で幸助と同じく幼いころからの付き合いである。美人で学校でも人気があるらしい。そんな女の子と友達でいるのは誇らしかった。

「じゃ、恭子の家に行くとしようか。幸助、案内をよろしく。」

「おう、行くか」

そういって幸助は恭子の家への案内を始めてくれた。

恭子の家へ行く間に幸助に恋人ができたこと、これからの進路などを話し、僕も近況報告と今年も田舎に来た理由を話した。幸助は呆れていたが一応興味はあるらしく、例の少女らしき人を見かけたら教えるとのことだった。

その後も何気ない話をしていると、幸助は一軒の家の前で歩を止めた。

「ほら着いたぞ。俺はここにいるから行ってこい。」

「ありがとう、じゃあ行ってくる。」

僕は松本と書かれた表札の隣にあるインターホンを鳴らすと、聞きなれた声で返事が返ってきたので名前を名乗ると家の中から玄関のほうへと足音が近づいてきた。

すると中から部屋着のままの恭子が出てきた。

「やあ、恭子。久しぶりだけど元気にしてた?」

僕が軽く挨拶をすると、恭子も

「うん、元気にしてたわ。そっちこそ元気そうね。優紀は一年前から変わってなくてよかったわ。」

「そうかな?一年で身長とか伸びたと思うけど。」

「そういうことじゃなくて・・・。まあいいわ。」

ん?身長の事じゃないなら何のことだろう。

「僕は変わってないのはいいとして、恭子はなんだかまた可愛くなったよね。高校でも人気だとか。」

「そんなことないわよ。別にそこらの男の子に好かれてもうれしくないわ。だって・・・」

そういうと恭子は下を向いて口ごもって何か言っていたが、僕には聞こえなかった。

「そういえば優紀、ここまで一人で来たの?あんた方向音痴だったわよね?」

「う、うん。だから幸助に案内されてきた。呼ぼうか?」

「げっ、あいつに案内してもらったの?寄りによってあいつか・・・。あいつ私の事何か言ってた?」

そういうと恭子はいかにもいやそうな顔をして僕に尋ねてきた。

「うーん、恭子が僕の事をす・・」

き、といいかけると恭子は遮るようにして

「幸助!!!!」

「へっ?」

恭子は、ぼーっとしていた幸助のほうへ駆け寄ると思いっきり、見事な右ストレートを放った。

不意を突かれた幸助は、もろに右ストレートを食らってしまった。

「ぐはっ、な、なにすんだよ!!」

「あんた優紀に変なこと吹き込んだでしょう。私が優紀のこと好きだって」

「おいおい、それはほんとの事だろう!?」

「余計なお世話よ!あんたが優紀に言わなくても、今年こそは自分で言おうって思ってたのに」

「まー、あいつは冗談として受け取ってると思うぜ」

「冗談だと思われるのもなんかショックだけど・・。まーいいわ・。次口を滑らせたらどうなるかわかってるでしょうね?」

「わ、分かったから、そんなに睨むなよ。」

「それでいいのよ。」

二人の言い争いにも決着がついたようだった。何を言い争っていたのかわからないが、二人は昔からそうだった。仲がいいのか悪いのか本当にわからないが、幼馴染ということもあってお互い遠慮はしてないようだった。

「恭子、そろそろ僕は幸助と次の人の家に行くけど、恭子も行くかい?」

僕が話を切り出すと恭子は思い出したようにこちらを向いて、

「んー、行かないわ。どうせみんなとはよく会うし、幸助が案内してるみたいだし遠慮しとく。」

「そっか、じゃあ夏の間よろしく。」

「うん。またね。」

そういって、恭子の家を後にした。

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真夏の陽炎 ちりぽんぬ @tikama

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