真夏の陽炎

ちりぽんぬ

第0話

零話

「うふふ・・・、こっちよ。」

青い空に緑の木々、ミーミーとうるさいセミの声に夏を思わせる大きな入道雲。その景色の中、白いワンピースを着た黒髪の少女。そんな光景を幼いながらに僕は美しいと感じ、ただ見とれていた。「どうしたの?」と、その美しい少女は僕のほうを向いて尋ねてきた。

「いや、なんだかとてもきれいだなと感じていたんだよ。」僕がそう答えると、少女は少し照れくさそうに笑い、僕の手を引っ張り歩き出した。僕は少女に抵抗せずに歩みを進めた。

「今から私しか知らない秘密の場所に連れて行ってあげる。でもその場所のことは二人だけの秘密よ。」彼女は嬉しそうに僕を秘密の場所へと連れて行った。

僕の身長よりも大きな茂みを抜け、人気のない山道を進み、一人では絶対に来ることのできないなと僕は感じていた。「まだなの?そろそろ来た道も分からなくなってきたけど・・・」ぼくは不安げに質問してみた。

「もう少しで着くわ。ほら、見えてきた。」少女は目的の場所へと指をさした。

そこは言葉では言い表すことができない程に幻想的な景色であった。木々の間から漏れる太陽の光ですら神秘的なほどに、風や川のせせらぎはまるでメロディーであるかのようだった。そんな中一際大きな木が立っており、その周りにはきれいな草花が咲いていた。

少女はこっちと、僕を大きな木の下まで引っ張っていった。

「すごい場所だね。でもなんでこんなきれいな場所を僕だけに見せてくれるの?」ぼくは連れてきてもらいながら考えていたことを尋ねてみた。それは、ぼくが今日初めて少女に出会ったからそんな質問をしてしまったのである。「ぼくははじめて君に会ったはずなのに、そんな僕にこの場所を見せてくれるのはなんでの?」ぼくは続けて質問した。

少女は悲しそうな笑みを浮かべながら答えた。「それはね、あなただから。」

答えの意味が分からなかった。僕だから?僕は答えの意味を考えてみたがやはりわからない。

「そう、あなたは覚えてないのね」やはり少女は悲しそうに笑った。ぼくはその悲しそうな顔から目を放すことができなかった。

「いまはそれでもいい、でもいつかは・・・。」

そう少女はつぶやくと僕の額に少女の額をつけて、「また来年の夏、私を見つけてくれたならあなたのことを教えてあげる。だから、また私を見つけてね。約束よ。」

彼女は額をくっつけたまま目を閉じて僕の返事を待っていた。

「わかった。来年も必ず君の所に行くよ。約束。」僕も目を閉じ、少しの間僕たちの間には心地の良い沈黙が生まれた。

“必ず君を見つける”僕はこの言葉を今でも忘れることができない。


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