第182話 悪夢


 思い出す。


 あの作戦の最終戦のことを。


 僕は自分では、全力を、最前を尽くすことができたと思っている。


 だが、結果としては……大切な仲間を数多く失ってしまった。


 結界都市は湧いている。作戦は成功したのだから。


 でも手放しで喜ぶことはできない。


「ベルさん……」


 分かっている。これは夢の中だと。


 暗闇の世界の中で、僕はボソリと呟く。


 あの時の戦いで、僕がもっと早く敵を片付けて、ベルさんのもとへ向かうことができたら。


 その後悔が何度も頭を過ぎる。


 先輩やシェリー、それに他の仲間たちには責められることはない。


 むしろ、よくやってくれたと僕は褒められる。

 

 褒められてしまう。


 でもそれでいいのか?


 大切な人を失って、僕は褒められていいのか?


 すでに仲間の死を数多く経験している人たちには、いずれ慣れると言われた。


「本当にこれは……慣れるの? 僕は、僕は一体……」


 呪詛のように自分に刻む言葉。


 後悔。


 それしか僕の心には残っていない。


 時折思い出す、この感覚。


 まるで自分が自分でないような……そんな感じ。


「ユリアくん」

「ベルさん……」


 夢だ。


 夢だと分かっている。


 だが目の前にいるのは、僕がずっと見てきたベルさんだった。


「ユリアくん。リアーヌ様を、頼んだよ」

「そんな! 待って、待ってください!」

「バイバイ。私はあの青空の先で待っているから」

「そんな! 行かないで、行かないでください!」


 手を伸ばす。


 懸命に走る。


 僕がいるのは、黄昏に支配された赤黒い世界。


 一方でベルさんは、目の前に映し出されている青空の世界へと向かっていく。


 僕の足が届くことはない。


 どれだけ懸命に走っても、たどり着くことはない。


 明確な隔たり。


 黄昏と青空。


 生きる世界がもう違うのだと言わんばかりに、僕はそのことを否応なく認識する。


「そんな……どうして、どうして僕は」


 こんなにも無力なのかと。


 強くはなった。


 特級対魔師の中でも、序列零位という地位に抜擢された。


 だがどうだ?


 僕は本当に、成し遂げることができているのか?


 わからない。


 わからないから懸命に進むしかない。


 この黄昏の世界を、ただまっすぐと。



「……はっ」


 目が覚める。


 いつものベッドで起きる。体をガバッと起こすと、周囲に映るのはいつもの景色。


 だがそれは、妙に現実感がないというか……。


 窓越しに外を見る。


 照らしつける黄昏の光。


 変わることのない光。


 周りの環境は変わっていく。人が死に、自分が生き残り、変化の中に残される。


「僕は……」


 ボソリと呟くと、ベッドから出ていき……シャワーを浴びる。


 熱いシャワーを浴びることで、自分の意識を覚醒させる。


 気がつけば、この震えは止まっていた。


 いつか僕は……この震えがなくなる時が、くるのだろうか?

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