第181話 研ぎ澄ませる心


「……」


 瞑想。

 

 アルフレッドは、いつものように簡素な部屋の中で、じっと瞑想をしていた。


 もうどれほどの時間が経過したのか、彼には分からない。


 ただただ、己が精神を集中させるために……心を研ぎ澄ませる。


 だが、今のアルフレッドには揺らぎがあった。


「……」


 数十分に一回。


 彼は、ベルとの戦闘を思い出す。


 あれほどの死闘を繰り広げたのは、本当に久しぶりだった。


 それにベルの剣戟は間違いなく、一番彼女に近いものだった。


 カトレア。


 彼が追い求め続けるその剣の影が、ベルには確かに残っていたからだ。


 正直に言ってしまえば、アルフレッドが勝利したのは技量では無い。知識の差だ。


 彼は、ベルの秘剣の全てを知っていた。


 最後に出してくる秘剣も、すでに熟知していた。


 だからこそ、それを完封することができた。


 一方で、アルフレッドはもう一人の人間のことを考える。


「……ぐ、やはりまだ集中が足りないか」


 瞑想を解く。

 

 そして彼は思い出す。


 ベルの元で涙を流していた、一人の少女を。


 似ている。本当によく似ている。


 シェリーは、カトレアという人間に酷似していた。


 何の因果だろうか。アルフレッドは、彼女の生写しを見ている気分だった。


 故に、剣がわずかに鈍ってしまった。


 あの時、アウリールの助けが入っていなければ……ユリアによって討たれていたかもしれない。


「……もう、百年も経つのか」


 震える手をじっと見つめる。


 彼の右手は、震えていた。


 それを左手で無理やり押さえ込むと、魔剣を取り出す。


 それをいつものように、月明かりの元で研ぐ。


 武器を研ぐのは、心を研ぐことに似ている。


 そんな言葉を言ったのは、カトレアだった。その言葉を思い出しながら、アルフレッドは淡々と研ぎ続ける。


 そして彼には、予感があった。


 それは間違いなく、自分はシェリーと相対することになるだろう……ということだ。


 彼はすでに悟っていた。


 シェリーこそが、ベルの弟子であると。

 

 それはあの憎悪した目に、剣戟を見れば一目瞭然。


 その因果は間違いなく、収束する。


 ベルの次は、シェリーと戦う。カトレアの剣を受け継ぎ、その容姿までもが酷似ている彼女と……戦うことができるのか。


「いや、俺ならできる」


 敢えて声に出すことによって、自分の覚悟を改めて心に刻む。


 己を奮い立たせる。


 そうすることで、アルフレッドは迷いがなくなっていく。


「よし……」


 研ぎ終わった魔剣を見て、それを月明かりに照らす。

 

 反射する光は、しっかりと室内を照らし出す。


 その魔剣を鞘に収めると、立ち上がり、部屋を去って行く。


 確かな覚悟を持って、アルフレッドは遠く無い未来に、シェリーと相対することになるのだった。

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