第180話 先輩と二人


「むぐむぐ……」


 依然として、サンドラ女王は食を満喫していた。

 

 そんな様子を、僕と先輩は少し離れたところから見守っていた。今は、リアーヌ王女と仲睦まじく話しているようだ。その声までは聞こえていないが、概ね順調に進行しているようでよかった。


「ねぇユリア」

「はい」


 ベンチに座っている僕たち。


 リアーヌ王女はサンドラ王女と話があるから、今は少し距離を取って欲しいと言われたのだ。そして僕らは、出店で食事を購入するとベンチに二人揃って休憩をする。


 隣を見ると、桃色の髪が風で微かに靡く。その際に先輩の髪からは、柑橘系の匂いが鼻腔を抜けた。


 そして、先輩と二人で雑談をする。


「何だか平和ね」

「……そうですね」

「でもさ。これは、多くの犠牲の上に成り立っているのよね」

「……はい」


 喧騒。


 今日は人が多いようで、様々な人が行き交う。


 その姿を見ながら、先輩はふとそう言った。


 平和。でもこれは、束の間のものだ。


 僕らはそれを知っている。戦いはまだ、続いている。


 大規模な黄昏の攻略は、成功したと言ってもいいだろう。でもこの世界は、依然としてこの赤黒い黄昏に支配されている。


 空を見上げる。


 今日はいつものように、黄昏の空が広がっている。


 生まれた時から、死ぬ時までこの空だけしか見なかった人は、どれだけいるのだろう。


 いつか僕らは、本当にどこまで透き通る青い空にたどり着くことができるのだろうか。


「ねぇ。ユリアは、戦いが終わったらどうしたい?」

「……どうでしょうか。今は何のイメージも浮かびません」

「私も。結局のところ、私たちは戦うことしか知らない。この魔法も、戦闘技術として磨いているに過ぎないわ」

「そう、ですね」


 魔法をインフラなどに組み込んでいる試みは本当に素晴らしいと思う。もともと技術はこのように発展していくべきだ。


 一方でも、僕らの魔法はあまりにも血で塗れ過ぎている。


 自分の手は、仲間と敵の血で塗れている。


 僕が特級対魔師になってから、本当に色々となことがあった。人の死も、多く見てきた。大切な人も、失った。


 それでも僕らは進まないといけない。


「さて、と」


 先輩はベンチから立ち上がる。


 エイラ先輩は器の大きな人だ。でも、その体はこんなにも小さい。この小さな体で、黄昏と戦い続けている。


「先輩」

「なに?」


 振り向く。


 左右に結んでいるツインテールが、ふわりと浮かぶ。


 僕は彼女の瞳をじっと見つめると、こう告げる。


「これからも一緒に戦っていきましょう。そして、戦いが終わったら二人でまた探しましょう。そこから何をしていくのかを」

「……そうね。そうしましょう」



 僕らはベンチを後にする。


 仲間の意志を背負って進み続ける。

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