第52話 第四結界都市
あれから、ギルさんとエリーさんと別れ僕たちは第四結界都市へとやってきていた。今の所は何も起きていない。至って順調だ。でもだからこそ、油断してはならない。
「さてと。行こうかシェリー」
「えぇ」
ちょうど都市の中に入った瞬間、僕は自分の右側に誰かが立っているのに気がついた。
「……イヴ、序列11位。よろしく」
「えっと……ユリアです」
「シェリーです……」
僕たちは唐突な挨拶に答え、彼女の後についていく。
序列11位のイヴさん。身長は僕と同じくらいで、髪は胸にかかる程度に長い。またその色は色素が薄いが、微かに緑色が含まれているのが見て取れる。それとさっきの挨拶で思ったが、どうやら寡黙な人のようだ。
そして宿舎に荷物を置くと、僕たちはブリーフィングルームに向かう。今回は到着してからすぐに黄昏に行くようで、僕とシェリーはすぐに準備をする。
「どうも、ユリアくん。こうして挨拶をするのは初めましてだね。僕はレオ。序列は8位。よろしくね」
「レオさん。こちらこそ、よろしくお願いします」
ブリーフィングルームに入ると、そこにいたのは一人の男性。黒髪短髪で顔つきもまた、若々しい。僕とそれほど歳は変わらないのかもしれない。身長は僕よりも低いけど、その体には確かな厚みがあった。
「イヴには会った?」
「はい」
「イヴは寡黙だけど、いい子だから仲良くしてほしいな」
「そうですね。こちらとしても、いい関係が築ければと思います。あ……それで、少し疑問なんですが、その口ぶりからするにイヴさんも若いんですか?」
「イヴは19歳だね。僕は25歳。イヴは若いのに、すごく強い。将来有望な対魔師の一人さ」
「なるほど」
「ユリアくんにも期待しているよ。後続の特級対魔師はみんな強いから僕はそれほど心配はしていないけどね、ははは」
そう話していると、シェリーとイヴさんがやってきた。
「みんなきたね。じゃあ、今回の任務を話すよ」
◇
「ねぇ、ちゃんとコミュニケーション取らなくていいの?」
「……シェリーがいきなよ」
「えー、同じ特級対魔師のユリアの方がいいでしょ」
「いやここは女性のシェリーの方が。同性だし」
「もう仕方ないわね」
今回は黄昏危険区域、レベル2で狩りをすることになった。現在、第四結界都市では何人かの軍人が死亡してしまい、人数が足らないそうだ。その補充の間、僕とシェリーが穴埋めをするらしい。と言っても、今は僕とシェリー、それにイヴさんの3人で進んでいる。確かにレベル2程度なら、この3人でも戦力は十分すぎるけど、問題はイヴさんとどう接するべきかということだった。ちなみに、レオさんは念のために結界都市に残っている。
もちろん、作戦概要は全て共有しているし、フォーメーションも僕とシェリーが前衛でイヴさんが後衛ということも決まっている。彼女は魔法に特化している対魔師らしく、絶対に役に立ってくれるとレオさんに言われた。でも3人で進んでいる間に、ずっと黙って後ろをついてくるのはちょっと……思うところがあり、僕たちはコミュニケーションを取ろうと試みる。
すると、話し終わったのかシェリーが僕の方へと戻ってくる。
「どうだった?」
「ユリアと話したいって」
「え……」
「別に怒られるわけでもないし、早く行きなさいよ。私を差し出したんだから……」
じーっとこちらを睨んでくるシェリー。う……そう言われると、立つ瀬が全くないのだが……でも、イヴさんが呼んでいるのだから行くしかないか。ベルさんに少し似ているけど、彼女は話すのが苦手なだけで寡黙というほどではない。一方のイヴさんは完全に寡黙だ。必要なこと以上は話さないみたいだ。だからこそ、どう話していいのか分からないのだが……。
僕は後ろの方に少し下がると、彼女に話しかける。
「えっと、イヴさんその……」
「……ユリアくん、心配しなくてもいいよ。私はちゃんとやれるから」
「あ、はい。その……よろしくお願いします」
イヴさんはそう言うと無表情のまま親指をぐっと立てて僕の方に見せてくる。
「……こちらこそ、よろしく」
ちょっと変わっている人だけど、彼女なりにコミュニケーションをとってくれているようだ。
「二人ともッ! 敵よッ!!」
シェリーがそう言うのと同時に、僕たちは戦闘態勢に入る。目の前にはウルフの群れが広がっていた。おそらく僕たちを待ち伏せでもしていたのだろう。ホワイトウルフに比べて、こちらの個体は肉質が硬い。そのため、群れで来られるとそれなりに厄介なのだが……。
「……任せて」
前衛である僕とシェリーが飛び出そうとした瞬間、イヴさんが前に出ると彼女は両手を広げるようにして……一気にそれを薙いだ。
そして……目の前にいた百匹近いウルフの群れは爆ぜていった。
爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。
その光景はまさに圧巻。魔法に特化した対魔師はエイラ先輩なども見てきたが、イヴさんはまた先輩とは違った方向に優れているのだと僕は知った。
それと僕はその現象が少し気になって、
「すごい……火属性の魔法でこんなにも……」
「いや……これは……」
僕とシェリーは出る間も無く、ただただこの光景を見つめていた。
「……終わった」
胸を張って、キメ顔? をしているイヴさん。どうやら、全て片付けたようだ。僕は思い切って、今の魔法について尋ねてみることにした。
「今の魔法、火属性だけど……ちょっと違いますよね?」
「……よく分かったね」
「液体を一気に気化させて、その圧力で炸裂させているけど……最後の瞬間にだけ火属性を混ぜているんですか?」
「うん……生物には血液があるから、それを気化させてる。でもそれだけだと致命傷にならないから……最後に爆発も加えてる。実は、魔法はなんでも得意。えっへん」
「そうですか……すごいですね」
今の話から、これは火属性と無属性魔法をミックスした魔法だと理解した。それにしても液体を一気に気化させる魔法か……一見すれば、派手な火属性の魔法にも思えるが……こんな使い手がいるなんて世界は広いのだと改めて知るのだった。
◇
「お疲れ様」
「いえ、イヴさんのおかげでだいぶ楽でした」
あれから僕たちはしばらく狩りを続け、といってもイヴさんの魔法でほぼ駆逐していたが、基地に戻ってきていた。イヴさんとシェリーは二人で大浴場に行ってしまい、僕は今回の件を報告していた。
「イヴさん、すごいですね」
「あぁ見たんだね。イヴの二つ名は、
「情報としては知っていましたが、多種多様な魔法を使うんですね」
「何を見たんだい?」
「液体操作の魔法でした。それを火属性と混ぜて使っていました」
「あぁ、あれかぁ……派手に炸裂するやつだろ?」
「はい。ものすごい勢いで、炸裂していました。でもあの魔法は
「うん。でもイヴは
「そんなことが可能だなんて……凄まじいですね……」
エイラ先輩でも、
だからこそ、分かる。イヴさんは対魔師の中でもおそらく、トップクラスの魔法を使うことができるのだと。百聞は一見に如かず、という言葉の意味を僕は改めて理解した
「それでだけど……」
「はい」
そして僕はその後もレオさんと話し合いを続けるのだった。
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