第二章 Find out traitors
第31話 帰還
「では僕はこれで失礼します」
「第七結界都市を頼んだよ、ユリアくん」
「はいっ!!」
あれから数日。僕たちは第七結界都市に帰還することになった。
第一結界都市の警備はかなり強化され、特級対魔師の配置も色々と変更になった。裏切り者の件もあるが、通常通り都市を守るという義務を果たす必要があるからだ。それにもともと、特級対魔師が一つの都市に集中するのはよくない。
また、あれから特級対魔師、王族、軍の上層部などに調査が入ったが、流石にそれで分かるわけもなく裏切り者の件はそのまま調査を継続する……という事になった。それは主にサイラスさんや序列上位の人達、それに軍の上層部、諜報部が担当するらしい。
さらに今回の件を通じて、僕、シェリー、ソフィアは対魔学院から対魔軍に籍を移すことが決まった。もともと対魔学院は本格的に魔族と戦える人間を育成するためのもので、僕たちは今回の件で既に実戦投入可能と判断されたようだ。ちなみにエイラ先輩も今回の件で、軍属になるらしい。今までは色々と理由があって学生だったが、それも終わりだと言っていた。
今回は第一結界都市は大混乱で対魔軍はまともに機能しなかった。陣形を組む暇もなく、ただただ混沌とした戦場。それを踏まえても、僕を含めて
「ねぇユリア、もう1人の特級対魔師って誰なの?」
「さぁ……僕もまだ聞かされていないんだ」
「遅いよねぇ……一体いつまで待てばいいんだろう……」
「ソフィア、待つのも仕方ないよ。相手にも色々と準備があるらしいし」
そう。そして今回は第七結界都市にもう一人、別の特級対魔師がやってくるらしい。それは誰か聞かされていないので、まだ分からないのだが……。
「やほ、ユリア」
「エイラ先輩!? まさか……!?」
「そう。私も第七結界都市だから。宜しくね」
「……驚きました。縁ってやつですかね」
「そうね。と言うことで、またよろしくね、ユリア」
「はいっ!!」
そして最後にサイラスさんが近寄ってきて、僕とエイラ先輩にこう言った。
「裏切り者の件……そっちでも探ってほしい。頼んだよ。僕たち、それに諜報部も動くけど、君達も気をつけてほしい」
「……了解です」
「……分かったわ」
僕たちはそれから馬車に乗り込み、第七結界都市に帰っていくのだった。
◇
僕は馬車の中で隅っこの方に縮こまって、ボーッと外の景色を見ていた。
終わった。あの怒涛の日々は本当に一瞬のようだった。特級対魔師になって、そのあとに襲撃。さらにはダンと戦い、最後には
黄昏での日々も過酷だったけど、この結界都市での日々も苛烈を極めていた。でも今は……少し休めるかもしれない。過去と決別し、前に進むと決めた僕。この先に何が待っていようとも……僕は……。
そうして揺れる馬車の中で僕は睡魔に身を任せるのだった。
「ユリア、ユリア……起きてッ!」
「……ん?」
「着いたわよっ!」
「え? シェリー、また冗談を……」
「本当よっ!!」
そして外を見ると、そこには見慣れた都市が広がっていた。あれからどれだけ寝ていたのだろうか……僕は気がつけば、第七結界都市に戻ってきていたのだ。
「みんなもう行ったわよ。私たちも行きましょう」
「うん」
荷物を背負って、馬車から降りる。
街並みを見ると、ここはとても平和だった。未だにあの第一結界都市での出来事が脳裏にちらつく。僕にももっと……できたことがあるはず。けれども、後悔しても、それを今後に活かしていく必要がある。もう立ち止まるのは、終わりだと決めたのだから。
「ユリア……大丈夫?」
「シェリーこそ、もういいの?」
「私はそんなに戦っていないし、ユリアに任せっきりだったから」
「……」
「強くなりたい。人類のために戦い……でも、どれだけ想いが強くてもできないことはある。ユリアが戦ってきたのは、あんな世界だったのね」
「……あんなに酷くはないけど……近い感じではある。ずっと生きるか死ぬかの瀬戸際だった。懐かしいって言ったら言葉はよくないけど、あの感覚はずっとあったね」
「……決めたっ!! 私、もっと強くなるッ! 今度は多くの人を守れるように、もっと多くの人のために……私は強くなりたいッ!!」
強い心だ。僕は素直に感心していた。あれだけのことがあって、まだ前に進もうという意志がある。あの出来事で心が打ち砕かれていてもおかしくはない。僕の場合は黄昏での二年間があったから、多少はマシだが……それでも人の死には慣れていない。しかしそれを含めて、僕たちは強くなるべきだ。いや……強く在るべきなのだ。
ダンの件、今回の襲撃の件、裏切り者の件、それらを全て乗り越えて……僕たちはさらに黄昏を無くし、大地を取り戻すという目標を成し遂げる必要があるんだ。
「帰ったら特訓だね、シェリー」
「軍に入るし、きっと過酷な訓練が待っているんでしょうね」
「そうだね。でもシェリーなら乗り越えられるさ」
「ふふっ、ありがと」
ニコリと微笑む彼女を見て、僕はまだ人間も捨てた者じゃない……そう思った。
◇
「でさぁ〜、こっちで寮暮らしするって言ったら父さんがさぁ〜」
「……はい」
「なんかぁ? 特級対魔師とはいえ、他の都市に行くのは心配だーとか言ってさー。でもユリアもいるから、お母さんは了承してくれてー」
「……はい」
「それでぇー」
時刻は夜の11時。あれから僕たちは軍の宿舎に移動となり、荷物をまとめて部屋の整理をしている間にこんな時間になってしまった。
ちなみに、今度はちゃんと男子寮だ。シェリー、ソフィア、エイラ先輩は女子寮だが、建物は隣り合っているので距離は近い。そのため確かに移動は簡単にできるが……なぜかエイラ先輩が僕の部屋にやってきているのだ。
いや、別に来るのはいい。今後の予定とかなんとかで話があると言っていた。でも、話が進むにつれて愚痴になっていき……先輩はまるで酔っているようだった。
え? あれお酒じゃないよね? 僕も飲んでいるけど……ただのジュースだし。一体どうなっているんだ……そう戸惑っているとさらに話は続く。
「はぁ……私もね、こんな小さくなかったらなぁーって思うこともあるのよ? クローディアみたいに、ボンキュボンっ! って感じだったらなぁ〜なんて……」
「は、はぁ……」
「でもほら、私って可愛いじゃない? それでカバーできないかな?」
「可愛いというよりも、美人だと思いますが」
「もうっ! お世辞が上手いわねっ!」
「……痛ッ!」
バシンと肩を叩かれる。いや、痛い……普通に痛い。力加減してよぉ……先輩ぃ……。
「で、そろそろ結婚しろってうるさいのよぉ……」
「早いですね」
「うーん。でも、特級対魔師の遺伝子は重要ーとか言って。私の感情も考えろってのッ!」
「そうですか……」
このあと2時間ほど、先輩は愚痴っていった。女性の愚痴は長いんだな……と僕は新たな発見をするのだった。
と、色々あったがこうして僕たちは軍属となり本格的に魔族と戦っていくことになる。
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