第32話 第七一特殊分隊



 翌朝。僕はいつも通り目を覚ました。



「う……ううううん……」



 黄昏の光は依然として、この世界を支配している。それを見た僕はいつも通り、学院に向かう準備をしようとするが……。



「そうか……僕はもう……」



 そう。今日から軍人としての生活が始まるのだ。僕、シェリー、ソフィア、エイラ先輩は黄昏機動部隊に配属が決定。黄昏機動部隊とは、軍の中でも黄昏で戦うことを主としているかなり過酷な部隊だ。



 そして僕とエイラ先輩はいきなりその中でも、第なないち特殊分隊に所属することになった。黄昏での戦闘は基本的に分隊で行動する。小隊から大隊ほど規模での行動はほぼしない。それは黄昏での戦闘がそれだけ過酷で、人数が多いと統率が取れなくなるからだ。少数精鋭、それが黄昏の基本。そのこともあって、分隊と言う小規模でも佐官などが指揮官になることもある。過去には、佐官の人はもっと大規模な軍隊を引き連れていたそうだが、現代戦でそうすることはほぼない。大規模な作戦とかが殆どないためだ。




 ちなみに僕とエイラ先輩は軍での階級は少佐からスタートする。これは特級対魔師だからこその特別な措置だ。



 また一般の人には勘違いされやすいが、特級対魔師は戦闘力が著しく高いことの証明であり、別に軍の中でも最上位に位置しているわけではない。ベテランの人たちは軍の階級もかなり上だが、僕やエイラ先輩はまだ軍人としては新人なので、少佐相当である。戦闘力が高いだけでは、魔族に対抗はできない。色々な人の支えがあってこそ、僕たちはその力を発揮できるのだ。



 そして……本当の意味で魔族と戦うのは、ここから始まるのだ。もう学生ではない……ということを肝に銘じる必要がある。



「あ……そういえば……」



 と、その前に僕は早朝にエイラ先輩とある件について話すことにしている。僕は手早く準備を整えると、そのまま先輩と合流する。




「で、誰だと思うユリア?」

「うーん。どうでしょうね……先輩はどう思います?」



 もちろん話す内容は『裏切り者』についてだ。今もこうして、裏切り者は暗躍しているかもしれないのだ。通常通り仕事をこなすのもそうだが、僕たちはこの件を無視するわけにはいかない。人類の要である第一結界都市……中でも結界を維持するために機能している王城は特に厳重な警備になったらしいが、それでも安心はできない。別に、第一結界都市にいる特級対魔師、王族、軍の上層部の人間を信頼していないわけではないが……誰かが裏切り者であるのは間違いないのだ。



 ちなみにこの件はすでに軍にも広がっており、要警戒という風になっている。皆も考えたくないだろうが、僕たちは様々な人を疑う必要があるのだ。



「私とユリアはないでしょうね」

「あぁ……まぁ、そうかもですね」

「第一結界都市を墜とすなら、特級対魔師とその他の優秀な対魔師が邪魔だった。だから結界の中に閉じ込める……合理的ね。でも私とユリアが偶然早く外に出たらから、結界を逃れて……あの襲撃を撃退できた。本当なら私たちを含めて、全員閉じ込めたかったでしょうね」

「でも、わざと僕たちを逃したとか?」

「それこそ不確定要素が多すぎるわ。あの場所で誰が先に出るかなんて分からないし。それに解せないのは、なぜあのタイミングだったのか……ということよ」

「確かに万全を期するなら、会議が始まった瞬間にするべきでしたね。そうすれば、全員閉じ込めることができたはずですよね」

「特級対魔師が束になっても解除できない結界。発動条件はかなり厳しいのかもね。もしかしたら、あのタイミングがギリギリだったのかも」

「事前に準備すればいいのでは?」

「痕跡が残るから嫌だったからとか、かしらね。それにしても誰にも気が付かれずにあの結界を敷く技量は……人間で考えるなら、特級対魔師かそれとも王族の誰かか……そうとしか考えられないわね」

「第三者はどうですか?」

「可能性がないわけじゃないけど、ちょっと微妙ね。会議はおおっぴらに公開されていたわけでもないし。あの場所に特級対魔師が集まるのを知っていた人間は限られてくるわ」

「……特級対魔師の中にいるんでしょうか?」

「可能性としてなら、ないわけじゃ……ないわね」



 唖然とする。もし、特級対魔師の中にいたとすれば……それは貴重な戦力を失うと共に……それが、敵に回るのだ。最悪という以外、言葉が見つからない。


 でも相手はミスをした。それは僕と先輩を中に閉じ込められなかったことだ。そうして、僕と先輩が中心になってあの襲撃を退けた。


 しかしやはり……計画を以前から練っているなら、あの結界の件は絶対に成功させるべきだったのだろう。でもなぜ、僕と先輩だけが外に出れた? 偶然なのか? それとも、僕と先輩にだけ何かあるのか?



 そう考えるもまだ答えは出ない。僕たちはまだまだ、後手に回っているのだ。そしてここで裏切り者の行動が終わるとも思えない。その存在が認知されただけで、僕たちはまだ奴の手のひらで踊っているのかもしれない。



「さてユリア、そろそろ行きましょう」

「第七一特殊分隊ですよね?」

「そうね。ま、やることは変わらないわ。黄昏で魔族を殺す、それだけよ。それに私たちは特級対魔師。遅れると示しがつかないわ」



 ◇



 集合場所にやってくる。ここが第七結界都市の黄昏機動部隊、第七一特殊分隊。特殊分隊という名前なのは、この分隊は黄昏であらゆることをするためらしい。危険区域の魔物が結界都市に来ないようにその数を削ったり、偵察部隊の役割なども果たす。敵情把握、地形偵察、威力偵察、それら全てを最前線で行う。常に黄昏の危険区域で戦う何よりも過酷な分隊なのだ。



 そのため、第七一特殊分隊はかなりの実力を必要とされる。一級対魔師なのは当然。その中でも限りなく特級対魔師に近いものが選抜されているらしい。



 それでこの会議室でブリーフィングを行い、作戦を把握し、黄昏へと出ていく。そして中にいたのは、4人。女性1人に、男性3人。そして僕たちが入ってくるなり、じっと目線をこちらに向けてくる。




「子どもだな」

「情報通りじゃない?」

「でもな……」

「しかし、この2人が中心になって襲撃を防いだのは確かですよ。間違いない情報です」

「お前ら黙れ……さて、話をしようか。新しい隊員たちよ」



 リーダー格であるのは、そう言った初老の男性。身長は180センチ近くあり、それに体格もいい。髪はすでにグレーになっており、ヒゲもわずかに白い。それでも、風格からしてとても年老いているとは思えない人だった。



「私はロバート・エイベル。一応、この分隊の隊長を務めている。階級は大佐だ」

「ユリア・カーティスと言います。よろしくお願いします」

「エイラ・リースよ」

「先に言っておくが、私は別に年齢で差別をする気は無い。2人ともに優秀で、その年齢で特級対魔師になったのだから。ようこそ、最前線へ。君達と共に戦えることを誇りに思うよ」



 歓迎されているのだろうか……?


 でもこの人を含め、他の人も僕たちを少し疑っている目で見ている気がする。



「……気にくわないわね。本当にお前たち子どもが強いのか? って顔に書いてあるわよ」

「おっと……お気に召しませんでしたか、レディー」

「ふん。まぁでも……あんたたちもそれなりに強そうね。雰囲気が違うわ。一級対魔師にも色々といるけれど、あなたたちは限りなくこちらに近いってわけね」

「なるほど。これは失礼をした。君たちの実力は、この目で確かめていないのでね。ではどうだろう。早速、今日も危険区域に行く予定なんだ。しかしこれは安全圏でパーティーを組んで狩りをする学生とは違う。気を引き締めてほしい」

「私はまだ若いから、実戦経験は少ない。危険区域での戦いもまだ足りていない。でも、足手まといにはならないわ。伊達に特級対魔師じゃないのよ。そこのユリアも同様よ」



 え……ここで振ってくる? と思いながら僕も毅然とした態度で応じる。黄昏機動部隊、第七一特殊分隊という最も過酷な部隊に所属することになったのだ。僕もその一員としての自覚を持つ必要がある。



「……僕は2年間黄昏にいました。危険区域のこともそれなりに分かっているつもりです」



 そういうと、他の隊員が口を開く。



「これが、あの黄昏で2年も生きてた奴か……そうは見えねぇけどな。しかも少佐だから、俺よりも階級が上かよ。流石、特級対魔師様は違うな」

「ちょっと、スコット。喧嘩売るのとかやめてよね。恥ずかしいし」

「別に売ってねぇよ、ルナ」

「二人ともそこまでに。子どもの前で恥ずかしいですよ」

「……相変わらず、カールは真面目だな」




 このあと自己紹介をしたが、他の人の特徴はこんな感じだった。



 口がちょっと悪い人。名前はスコット・ベイツというらしい。僕と同じくらいの身長で、体も細めだ。金髪の髪を刈り上げて、目つきも鋭い。


 女性の人はルナ・グレイというらしい。黒髪ショートで、身長は僕よりも少し低いくらい。170センチくらいだろうか。スラッとしていて、体に厚みはなくとても細い。


 最後の男性はカール・ハント。眼鏡をかけて、知的な感じだ。髪は茶髪で、男性にしては少し長め。七三分けをしている。身長は180センチ近く、結構高い。



 僕とエイラ先輩はこうして、第七一特殊分隊の所属となるのだった。

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