第29話 新たなる始まり
「う……ここは……」
意識が覚醒する……目を開けると、そこには知らない天井があった。それに外からはいつも通り、黄昏の光が室内に入り込んでいる。あぁ、外はいつもの景色だな……と思っていると僕はちょうど室内のドアが開くのに気がついた。
「あら? 目が覚めたの?」
「シェリー。そうか、終わったのか……」
彼女の姿、そして自分の今置かれている状況を理解すると僕は第一結界都市を守り抜くことができたのだと安堵する。
「あなたのおかげよ、ユリア」
「街は……街はどうなったの?」
「……ひどい状況だけど、今は対魔軍も機能していて復興が進んでいるわ。一ヶ月もすれば、かなり良くなるって」
「そうか……あ、そういえばあれから何日経ったの?」
「一週間よ」
「長いね。そんなに経っていたのか」
「えぇ。ユリアがなかなか目が覚めないから……本当に心配したのよ?」
そう言って袖をぎゅっと握ってくるシェリー。そして彼女の目には涙が浮かんでいた。確かに僕は死を覚悟していた。だというのに、生きている。それに僕が生きていることを喜んでくれる人がいる。それだけで僕は報われる気がした……。
「あー!! ユリア! 目が覚めたの!?」
「ソフィア……なんだか久しぶりだね」
「よかったああああ! 本当によかったよおおおおおおお!! うわあああああああああああああああああああああああん!!」
「……はぁ、騒がしいわね」
「エイラ先輩も。どうも」
「体、大丈夫なの?」
「はい……でも……」
僕はすでに完全回復している。でも一つだけ懸念事項があった。
「……やっぱり、侵食は進んでいるみたいですね」
上半身の服を脱ぎ去ると、僕は右腕の刻印を確認、するとそれはすでに肩を超えて、右胸にまで到達しそうあった。
「
「はい。でも害はないので、大丈夫ですよ」
「だといいけどね……」
その後は、3人にあの後のことを色々と聞いた。
僕が母体を倒した後、雑魚たちは統率を失いそのまま一網打尽。あの後すぐに沈静化したそうだった。でもそれを聞いて僕は安堵というよりも、怒りを覚えていた。どうして……どうして、こんなことに……。多くの人が死んだ。あの戦いで、罪のない人が大勢死んだのだ。僕は特級対魔師として守れる命もあったけど、守れない命もあった。この手からこぼれ落ちるものは、確かにあったのだ。
「先輩、今回の件ですけど……」
「それは後で話があるわ。特級対魔師たちはすでに解放されているから。それに軍の方でも動きがあるみたい」
「そうですか……」
「実は会議はユリアが起きてから、それも体調がいいならすぐにでもまた開くらしいけど……どうなの?」
「……体はそうですね。大丈夫です。後遺症もなさそうですし」
「医者曰く、ありえない……そうよ。人間離れした回復力だって」
「……はは、そうですか」
やはり僕の体は人間よりも魔族のそれに近いみたいだ。でもこの力を振るえるのなら、別にいい。異形となっても、この心を失わなければ大丈夫だ。
それにしても……やはり今回の件……おかしい、おかしいことだらけだ。
ダンの言葉、そして特級対魔師が破ることができなほどの結界。それらを総合して考えればやはり……人為的なものを感じずにはいられない。
特級対魔師が全員に仮に閉じ込められていれば、あの地獄はもっとひどいことになっていた……いや、この都市は墜とされていたかもしれない。もちろん、対魔軍が無能という訳ではないが、それでも苦戦を強いられていたのは間違いないだろう。
もし仮に、人間の裏切りによって起きたことなら……到底、許せるはずもない。それにこれは……新しい大戦の始まりでもあるのかもしれない。
「じゃあ、ユリア。また後で。上には私が伝えておくから」
「分かりました」
そうして先輩は去っていった。そしてその後、シェリーとソフィアもまた部屋を出ていく。
こうして、今回の第一結界都市の襲撃は終わりを迎えた。でもこれは……新たな始まりであったことを僕はすぐに知ることになる。
◇
あの後、僕は軍の諜報部の人に今回の件を話した。ダンの件や、その他に気がついたことなどを。そして僕の情報や、そのほかの情報を整理して再び会議が開かれることになった。
「さて、全員集まったね。今回はユリアくんの話なども含めて、襲撃の件について再び話そうと思う」
以前とは別の会議室。そこには特級対魔師の
そしてサイラスさんが会議を進行していく。
「まずは、ユリアくんにエイラくん。2人には最大限の感謝を。君たちが筆頭になって、ことはなんとか収束した。ありがとう」
「いえ……当然ことをしたまでです」
「そうね。ユリアの言う通りだわ」
僕と先輩は口を揃えてそう言う。そして次には、核心に入っていく。
「それで、ユリアくんの話と今回の結界の件についてだけど……裏切り者、内通者はいるんだろうね。それもかなり人間の内部に通じている。しかも後で分かったことだが、私たちだけでなく、上位の一級対魔師もまた結界の中に閉じ込められていたことが分かった」
裏切り者? そんな……そんなことがあっていいのか……? それに特級対魔師以外の人も……? と言うことは完全に戦力を削ぐ狙いだったのか……どうりで対応が遅れていると思った……。
「なぁサイラスよぉ……それってマジにいるのか?」
「分かっているだろう、ロイ。今回の件、あまりにも人為的すぎる。我々を閉じ込め、その隙に第一結界都市を襲撃する。あまりにも合理的だ。そして何より……都市の結界は内部からしか解除できない。これが何よりの証拠だ。間違いなく、ユリアくんの話の件でもあったが人類に裏切り者はいるようだ。そしてこの条件で考えるならば、我々の中にもいる可能性はあるし、軍の中も同様だ。全ての人間に可能性はあると言いたいが、結界の件なども考えると……特級対魔師、または軍の上層部、さらには王族……という風に絞られるだろう」
「そりゃあ、ヤベェな……」
「それと結界の件を王族の方々に聞いたが、急に解除されたらしい。誰か不審な人物がいたと言う報告もない。ただただ私たちは完全にやられた……ということだ。不甲斐ないことにね」
許せない……絶対にその裏切り者を許すことはできない。その気持ちはみんな同じなのか、全員その視線がかなり鋭いものになっている。
そして、人間の中に裏切り者はいるのだ。疑心暗鬼になりながらも、僕たちはこれから一緒に戦って行かないといけない。それがどんなに困難なことか僕は僅かながら、実感し始めていた。
「それで、これからどうするの? 軍、それに諜報部は動いていないの?」
「クローディアの言う通り、諜報部もすでに動いている。これからいつも通り、各都市の防衛を行なっていくが第一結界都市だけはかなり厳重にする。ここは全ての都市の結界を維持しているからね。さらには軍備の強化……だね。我々は少し平和ボケしていたようだ。もっと戦力を強化する必要がある。それと君たちも、他の人間に目を光らせていてほしい。そして裏切り者を発見した時は……出来るだけ生きて拘束するように。ただし、緊急時は殺すのもやむなしだ」
全くわからない状況。おそらく、150年前の人魔大戦以来の出来事だ。僕たちは思い出す必要があった。この世界は黄昏に支配され、魔族がそれを成しているのだと。
そしてとうとう、人類に対して明確な行動が示された。僕たちは完全に油断しきっていたのだ。人類に裏切り者など出るはずがないとそう思い込んでいた。でも、実際のところダンのような人間のせいで、実害が出ているのだ。放っておけるはずもない。
「さて、ここからは私たちの番だ。絶対に裏切り者は見つける。絶対にだ。私の命にかけても、それは約束しよう。そしてこの世界に光を取り戻す。もう停滞する時期は終わりだ。人類は進まなければならない」
義憤を露わにしてそう言う、サイラスさん。他の人もそうだった。皆、怒りを表面に出している。もちろん僕もだ。ふざけるな……こんなことふざけたことは、終わらせないといけない……。
だが僕たちは気が付いていなかった。今回の襲撃は序章。ただの始まりに過ぎないことを。そして、この先にこそ魔族との
こうして特級対魔師を巻き込んだ、最悪の事件が始まることになる。
特級対魔師、残り13名――。
◇
一章 Twilight World-黄昏の世界 終
二章 Find out traitors-裏切り者を見つけ出せ 続
一章終了です。ここまでの物語は如何でしたでしょうか? 少しでも楽しんで読んで頂けたのなら、嬉しい限りです。また、もし良ければここまでの物語の評価を「★で称える」という箇所からしてもらえると幸いです。一人3つまで星を入れることができるので、是非とも宜しくお願いします。
それでは、また二章で!
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