第22話 13人目の特級対魔師



「ちょっと、サイラスさん聞いてませんよ!」

「え? 言ってなかったかい?」

「……言ってませんよ!」

「まぁまぁ、軽く挨拶するだけだから。それに君は人類の希望の1人になるんだ。これぐらい仰々しくてもいいだろう?」

「……分かりました」



 厳密にはまだ納得していないが、僕はサイラスさんからマイクを受け取るとステージの真ん中に立って挨拶を始める。



「えーっと、皆さん初めまして。ユリア・カーティスと言います。この度は13人目の特級対魔師に選ばれて非常に嬉しく思います。これから人類のために粉骨砕身尽くしていこうと思います……」



 ちょっと硬いか? と思いつつも僕は言葉を続けようとしたが……ん? なんか目の前に人の塊ができていて、なぜかマイクを持っている。


 えっと……もしかしてこれって……。



「おめでとうございます。13人目の特級対魔師の就任、きっと全人類が嬉しく思うはずです」

「あ、ありがとうございます」



 なんか記者会見みたいになってるー!? マスコミもいたの!? どうりで人が多いはずだ! え……もしかしてこれって、全部の質問に答える感じ?



「さて質問なのですが……」



 あ、やっぱり質問きたぁ……。



「13人目の特級対魔師が選ばれる。これはすでに知っていた人も多いと思うのですが、おそらく一番の関心は……あなたの経歴です。その中でも、黄昏に二年間もいたという噂は本当でしょうか?」



 リークされてるー!? ちょっと、個人情報どうなってるの!? 完全に漏れてるじゃん! 別に絶対に隠したいわけでもないけど、大丈夫なの!? というか、13人目の特級対魔師が選ばれるのはみんな知っていたの!? 


 もう、訳がわからん……そう落ち込んでいると、サイラスさんがニコニコと微笑んでいる。あの人……絶対にサドだ。間違いない……。



 さてどうしたものか。ここで嘘をついてもいいが、やっぱり……正直に答えるべきだろう。それにこの事は別に誰に秘密にしろとも言われていない。僕自身が勝手に言わないほうがいいだろうと思っていただけだ。



「……事実です。僕は二年間黄昏にいました。結界都市に帰ってきたのもつい最近です」

「噂は本当であるという事で……?」

「間違いないです」



 その瞬間、「特報、特報だッ!」そう言いながらこの会場から出ていく何人かの姿が見えた。


 え……もしかしてもう記事になるの? これってもしかして……やばい?


 僕はあまり目立ちたくはない。それはきっと生来の性格だ。内向的なのは変えようがない。だからこそ、少し怖気付いてしまうが……顔には出さないようにする。急とは言え、僕は正式に特級対魔師になったのだ。ならば毅然と振る舞うべきだろう。



「黄昏ではどのような生活を……?」

「それは……」



 そこからこの会見は二時間にも及んだ……。



 ◇



「疲れたぁ……」

「ま、よくやったんじゃない?」


 ステージから降りて近くにやってきたのはエイラ先輩だった。こんな時に声をかけてくれるなんて、やっぱり先輩は優しい。


「サイラスさんっていつもあんな感じなんですか?」

「まぁちょっと天然入ってるわね。でも、それで起きたことも楽しんでいるというか……」

「最悪じゃないですか……」

「さて、行くわよ」

「行くって?」

「会議よ。特級対魔師の。今回は珍しく全員いるからね。でも、他の結界都市のことを考えると特級対魔師をここに集めるのは良くないわ。多分、一時間もしないうちに終わるわ」

「今度は会議……」

「多分、自己紹介させられるわ。私もそうだったし」

「そういえば、エイラ先輩はいつ特級対魔師に?」

「一年半前よ」

「あぁどうりで知らなかったはずだ……あれ、でも数は僕が知っている時と変わっていませんが?」

「私は序列12位だけど、前任が死んだの。だから補充って感じね」

「そんなホイホイ補充できるんですか?」

「無理ね。私の場合はタイミングの問題かしら」

「なるほど……」

「じゃ、行きましょう」

「はい」



 僕はエイラ先輩の後を追った。そしてこの会場を出て行く際、ちょうど出口付近にダン、レベッカ、アリアの3人がいた。みんな信じられない……という感じよりも、僕に敵対心を持っているのは間違いなかった。


 どうしてあいつが? どうして落ちこぼれだったあいつが?


 そんなことを考えているに違いない。それに会見ではなぜ黄昏に二年も? という質問は適当に濁しておいた。ここで断罪しても良かったが、彼らとは直接話すべきだと思っているからだ。もう僕はあの頃の僕じゃない。特級対魔師のユリアなのだから。自分の過去には、自分で始末をつける……そう、覚悟を決めたから。


 そして僕は敢えてその視線を無視して、その場を去るのだった。



 ◇



 会議室に到着。そこには大きな円卓が中央に置かれていた。そして右側から序列順に座って行くらしい。僕は序列13位なので、とりあえず一番最後。と言ってもエイラ先輩の隣なのでちょっと安心だ。



「先輩、僕……先輩と知り合えて良かったです。本当に頼りになります」

「な、何よ唐突に……」

「あー! エイラってば、照れてる〜。ユリアくんと仲良くなったのぉ〜? いいなぁ〜、いいなぁ〜」

「げ、クローディア……あんた早いわね……」

「ユリアくんが来るんだもーん! そりゃ、早く来るよ!」



 そこにいたのは第七結界都市で出会ったクローディアさんだった。



「改めて自己紹介ね。私はクローディア。序列は7位よ、よろしくね?」

「はい。よろしくお願いします」



 握手をするために近づくとふわっと香水の香りが僕の鼻腔をくすぐる。大人の女性……というのがぴったりの印象。身長は僕よりも少し高く(ヒールを履いているためだろうが)、髪は長髪のブロンドを縦に巻いている。そして何よりも、物腰柔らかいというかフレンドリーな人だ。



 それにしても、エイラ先輩はデリックさんといい、クローディアさんといい苦手な人多いんだな……。


 そうしていると、さらに別の人が近づいて来る。



「よ、ユリア」

「これはギルさん。ご無沙汰してます」

「俺は序列3位だ。改めてよろしくな」

「はいっ!」


 ぺこりと頭を下げる。ギルさんもまた、兄貴分という感じでとても頼りなる印象だった。どうやら僕は手厚く歓迎されているようだと、思った。



「はいはーい。みんな席について、会議やりますよ」



 そう言って残りのメンバーとサイラスさんが入ってきた。でも、その他の特級対魔師の人とは挨拶をしなかった。僕は一人一人に挨拶回りをしようとしたのだが、「やめときなさい。時間の無駄よ。特級対魔師はそりゃあ化け物みたいに強いけど、クセの強い奴が多いのよ」とエイラ先輩に言われたので断念。


 そして僕を含めて13人が円卓に揃う。知らない顔の方が多いが、それでもその雰囲気だけでただ者ではないことが分かる。分厚い殺気を幾重にも重ねてコートのように着込んでいる感じだ。なんだかこの部屋の空気は重い。そう直感的に僕は感じていた。



「では新しい特級対魔師のユリアくんに挨拶をしてもらいましょう。どうせ君たちのことですから、さっきのパーティに出ていたのは数人でしょうからね。では、ユリアくんお願いします」

「はいっ!」


 僕は立ち上がって全員の値踏みをするような視線をもろに浴びながら、自己紹介をする。



「ユリア・カーティスと言います。特級対魔師に選ばれて、光栄です。皆さんのように人類に貢献したいと思っているので、よろしくお願いします」



 そう言ったと同時に、僕は自分の目の前にナイフが飛んできていることに気が付く。速い……というよりも、意識の外を縫うようにして放たれた感じだ……でも……。



 僕はすぐに不可視インヴィジブルを壁にするように発動。そしてその壁を包み込むように変化させ、僕はナイフの勢いを殺し掴み取った。殺意はなく、ただ試す様な一投。それでもかなりの技量があるのは、すぐに理解できた。



「なるほどな。サイラス、ギル、クローディア、エイラが推すだけある。まぁまぁ出来るみたいだな。ちなみに俺はロイだ、よろしくな」



 そう発言したのは、サイラスさんから4番目の席にいる人。髪はツンツンに立ち上がっていて、その色も青とか緑とか黄色とかが混ざって奇抜そのもの。それにサングラスもしている。ずっと気になっていたけど、序列4位の人はどうやらかなり好戦的で派手な人のようだ。



「それで、黄昏に二年もいたってのはマジか?」

「は、はい……本当です」

「レベルは?」

黄昏症候群トワイライトシンドロームですか?」

「それ以外ねぇだろうが」

「レベル5ですが……腕を見てもらえば……」



 僕は右腕を完全にさらけ出す。すると、全員がまじまじとそれを見つめる。



「はッ、ハハハハハ。こりゃあ化け物だな。ここまでのやつはオメェが初めてだな。認めてやるよ、ユリア。テメェも最前線で地獄のような戦場で戦うんだ、これからまぁ……頑張れや」



 そして次はサイラスさんが口を開いた。



「さて、恒例のことも終わったようだね。では改めて……ようこそ、特級対魔師へ」



 そして全員の視線が改めて集まると、僕は実感する。自分は特級対魔師になることを認められたのだと。


 僕は、人類最後の希望と評されている特級対魔師の一員になるのだった。

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