第21話 パーティー



 あれから宿に戻ってきた僕たちは、正装に着替えていた。と言っても別に用意されたスーツに着替えるだけだ。でもソフィアが妙に張り切っているようで、僕は顔のメイクはさすがに遠慮したが……どうやらヘアメイクをしてくれるらしい。



「うーん、こんな感じかなぁ?」

「……別にいいのに」

「だめ! ちゃんとカッコよくしていかないと!!」

「そういうもの?」

「そうなの!」



 ということで、僕の髪は今少しだけラフにまとめられていた。しかしそこにはオイルを使ったために艶があり、そして僅かに崩してある。確かにそこには可愛らしさといよりもラフな感じが男らしさを演出していた。


 前髪の横にある触覚もヘアアイロンで軽くウェーブをかけて、なんだかすごい気合の入れようだ。



「これって……変に目立たない?」

「大丈夫だってッ! うーん、我ながら完璧かな!!」


 

 そして僕のヘアメイクが終わると、シェリーが部屋に入ってきた。ちなみに今は僕の部屋でヘアメイクをしてもらっていた。



「……」

「え? 変かな?」

「……見違えたわ。まさかここまで、化けるなんて……」

「そんなに違うかな?」

「違うわよ、ていうよりも別人っ!? ってレベルよ」

「へぇ……髪の毛って意外と重要な要素なんだねぇ……」

「そりゃ坊主と髪があるのじゃ、訳が違うわ」

「それは極端だね……」



 その会話を聞いていたソフィアは、何やらウンウンと頷いている。



「うん! 完璧だね! 私の作品は最高だよッ!」

「さ、作品?」

「そう。作品! ね、ユリアもっとよく見てよ」

「うん……」


 鏡を渡されて自分をもう一度改めて見てみる。


 後ろに結ばれている髪は少しラフに崩されており、さらには前髪も綺麗に流してあり軽いウェーブもかかっている。さらにはそこに艶感も加わって、確かにこれは今までのものと比べると別人なのかもしれない……。



「さて、行きましょうか!」

「ソフィアは元気だね」

「当たり前よ! ユリアとシェリーはなんだか緊張気味?」

「そりゃそうよ! こんなパーティーに来るなんて……うぅぅうう……」



 ちなみに、ソフィアとシェリーはドレスだ。ただの2人とも背中の方がパックリと開いているかなり扇情的なドレスだ。シェリーは赤で、ソフィアは青。それに髪もアップにまとめていてとても可愛い……いや、美人って言った方が適切かもしれない。



 そうして僕たちは王城にあるパーティ会場に向かうのだった。



 ◇



「大きい……それに、広いね……」

「じゃ、私とシェリーはちょっと挨拶があるから〜」



 そう言ってソフィアとシェリーは去って行く。シェリーは学院長の娘だし、ソフィアは特級対魔師の娘、だから色々と挨拶回りがあるらしい。ソフィアは慣れているらしいが、シェリーはこういうのは苦手らしくかなりガチガチに緊張していた。


 そして僕はまたしても1人になってしまった。こういう時に自分はやっぱり、ぼっちなんだよなぁ……と思っていると向こうの方から歩いて来る小さな少女がいた。あれは……。



「エイラ先輩、これはどうも」


 ぺこりと頭を下げる。


「あーだる。マジでだるいわ。挨拶回りとか、誰が決めたのよ……」



 そう愚痴を言う彼女もまた、ドレスに身を包んでいる。今は桃色のツインテールをグルグルにまとめて、それを左右に留めている。でも胸は……うん、胸はない。かすかな膨らみがあるけど……これはまぁ、未来に期待だね!


 もう希望はないかもしれないけど……。



「先輩、希望はありますよ!」

「? そう?」

「えぇ……常に可能性というものは追及すべきです!」

「……まぁそうだけど。で、あんたは1人なの?」

「友達は挨拶あるとかで、今はぼっちです。僕には挨拶する人もいないので」

「……なら私に付き合いなさい。ユリアでも役に立つでしょうから」

「? どういうことです?」

「このパーティは色々と面倒なのよ。婚約とか、求婚されることもあるわ」

「え!? マジですか!?」

「そりゃあ都市中の優秀な人材が来てるんだから、当然よ。それにやっぱり遺伝子は優秀なものを掛け合わせたいでしょ? 今後の人類のためにも」

「なんだか身もふたもない話ですねぇ……」

「でも遺伝を無視することもできない。実際王族はそうだし、貴族も代々強い対魔師がいる。残念だけど、仕方ないわよ」

「そうですか……大変な世界ですね」

「……そういえば、あなた妙にキマっているわね。自分でやったの?」

「いや友達がやってくれて」

「ん? 友達って男よね?」

「……男友達いないんです。女友達が2人だけで……」

「うわ……私よりも酷いじゃない」

「そうなんです。僕も男友達とワイワイしたいのに……」

「ま、人生そういう時もあるわよ。ユリアの場合は黄昏に二年もいたから、仕方ないわよ」


 ポンと肩に手を置かれる。


 うぅぅうう……優しい。先輩はとても小さいけれど、とても器の大きい人だ。この人に出会えて本当に良かった。


「先輩。僕、先輩に一生ついて行きます!」

「え、うん……急にどうしたの?」

「先輩の偉大さに気がつきました! 本当にエイラ先輩は大きな人です!!」

「そ、そう?」

「えぇ……とても大きいです!」

「え、えへへへ。そうかな、かな?」

「もちろん!!」



 と、先輩は褒めて讃えていると……やって来たのは見知らぬ男性だった。



「エイラ、君がそんなに機嫌がいいなんてとても珍しいね」

「げ、デリック……」


 身長はかなり高い。僕よりも10センチ以上は上だから、180センチ後半。髪は短髪で、顔は美形というよりも……中性的な感じだった。柔らかな物腰だけど、そこには大人の気品というものが感じられた。


 一体この人は? エイラ先輩の知り合いだろうか?



「僕はデリック。初めまして、ユリアくん……」


 

 握手を求められるので、僕は手を握る。分厚い。この手は、何万回と剣を握りしめて来た人間の手だ。


「どうして僕の名前を?」

「そこのエイラに聞いたのさ。僕たちは仲がいいからね」

「どこがよ! 私はあんたが嫌いなのっ!!」

「ははは……相変わらず、エイラは可愛いね」

「むきいいいいいいいいいいいッ!!」



 先輩はなんとか殴ろうと試みるも、リーチ差が激しすぎて頭を完全に押さえつけられている。うわぁ……あのエイラ先輩をこんな雑に扱うなんて……と思っていると、デリックさんはにっこりと微笑み自己紹介を続ける。



「僕も特級対魔師の1人なんだ。これからよろしくね」

「……特級対魔師!? これはこれは……宜しくお願い致します……」



 僕はさらに頭を丁寧に下げる。すると、デリックさんはぽかんとした顔を浮かべる。


「そういえば、あの件は聞いてる?」

「何の話ですか?」

「このパーティーのメインだけど、またか……」

「? そういえば、何か催しがあるんですか?」

「いつもは特にないね。王族の方と、サイラスが特級対魔師代表として挨拶をするくらいだけど」

「……その言い方だと、今回は何かあるんですか?」

「あら、ユリア。あんた聞いてないの? まぁ……サイラスっていつも話すの遅いからねー。こりゃあ可哀想に。なんの準備も出来ていないでしょうに」



 なんだか2人に同情されている……? そんな感じだが、意味が分からない。一体何があるというのか。



「さてでは今回の主役である、13人目の特級対魔師であるユリア・カーティスに来てもらいましょう」



 壇上ではサイラスさんがマイクを持ってそう告げている。え……あのステージってそういうためのものなの? 誰かが挨拶をすると思っていたけど、まさか……。


 ちなみに、特級対魔師になる件はすでに了承したと伝えていた。ダンたちの件を踏まえて、彼らに見せつけるわけではないが……其れなりのポーズは必要だと思ったからだ。それにこれ以上、彼らにバカにされるのも……もう嫌になってきたのもある。形として色々と示す必要があるのだろう。


 もちろん理由はそれだけではないが、僕は前に進むことに決めたのだ。彼らとの過去も、自分自身の立ち位置も明確にする必要がある……そう思っていた。


 でも流石にこんな形になるとは予想もしていなかったので、当然戸惑ってしまう。


「さ、ユリアくん。どうぞ」


 

 こうして僕は正式に特級対魔師になるみたいだが……まさかこんな形とは夢にも思ってなく、ガチガチに緊張しながらステージへと向かうのだった……。

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