第7話 不可視刀剣の本質
「ねぇ、ユリア。あなた本当に2年も生き残ったの? あの黄昏で」
「うん……シェリーさんは疑っているけど、本当だよ」
「シェリーでいいわ。それで……私は、あなたが黄昏に出て頭を打った唯の妄想癖の人間と思っているわ。その立ち振る舞いから、表情、全てが強さを物語ってはいない。私の知っている特級対魔師は一目で強いと分かる。でも、あなたにはそれがない。私……自分の目は信じているの。それに、私は黄昏の戦闘時間が五十時間を超えているのよ?」
試合前。向き合っている僕とシェリーさん……じゃない、シェリー。すでに夜ということで、演習場に人はあまりいない。いるのは学院長と、あとは数人。僕のことは極秘……と言っていたので、それなりに地位のある人だと思うが見られていると少し嫌な感じだが……確かに、僕が唯の妄想癖のある人間だというのも理解できる。
お金の面もそうだけど、色々な意味で僕はここで自分の力を示す必要があるのだと思った。
「シェリー。僕はこの二年、死ぬ気で生きて来た。明日には死ぬんじゃないかって、毎日思った。でも、生きて生きて生きて……生き抜いて戻って来た。君の目を疑うわけじゃないけど、今回勝つのは僕だよ」
「ふーん。言うわね」
それは驕りじゃない。純然たる事実だ。僕は負けない。負ける気がしないし、負けるわけにもいかない。
それはプライドからくるもの? それとも金銭的な面で?
自問自答するも、答えは出ない。そして僕は彼女と向き合う。
「では……試合開始ッ!」
学院長が今回は審判をしてくれるようで、彼女がそう言ったのを合図に僕たちは戦い始めた。
「……」
瞬間、僕はそのまま一気に距離を詰めるとナイフを突きつけた。
「しょ、勝者……ユリア……」
「え……は……?」
彼女は唖然としていた。なんだこれは、一体どうして? という風な顔をしている。だが徐々に冷静さを取り戻したのかは分からないけれど、急に大きな声を上げる。
「も、もう一回よっ!!」
「えっと……再戦ってありなんですか?」
僕はそう学院長に尋ねた。
「……君が了承するならいいだろう」
「分かりました」
その後、僕は彼女と何度も戦い続けた。だが僕が敗北することは一度もなかった。
「……もらったッ!!」
「……くッ!!」
最後の一戦。彼女はすでに9連敗を喫し、これが最後だと言って始めた試合。流石に慣れてきたのか、彼女は僕のナイフ捌きに対応できるようになっていた。でも、それでも……僕は
「……もらったッ!!」
彼女は僕のわずかな隙を狙ってくるが……やはりまだ遅い。だが流石に避けるのも手間なので左手から発動した
「は……あ……え……!!?」
「……勝者、ユリア」
10回目のコールが告げられる。
彼女は慌てている。それもそうだろう。何もない空間にいきなり、剣戟を受け流されたのだから。その真実はこうだ。
僕の
起点はなんでもいい。棒状のものであれば僕は
「負けたわ……完敗だわ……」
シェリーはやっと敗北を認める。でもまぁ……その負けず嫌いな部分だけはすごいものだと思った。負けても負けても向かってくるその精神。それは僕にはないものだ。素直に賞賛に値する。
圧倒的な実力差があると分かっているのに、何かを盗み取り……そして成長しようという意志。
純粋に羨ましいと思った。僕にはそんなものはなかったし、今も持っていないから。
「ユリア……あなた、本当に強いのね」
そう言って握手を求めてくるシェリー。もちろん、僕はそれに応じる。
「まぁこれしか取り柄がないだけさ」
「謙遜ね。それだけ強いのは、本当に誇るものだわ。私なんか、足元にも及ばなかった……」
「でもシェリーも強かったさ。最後の方はいい線いってたと思うよ」
「……お世辞はいいわ。自分の未熟さをただただ痛感するだけだった。また一からやり直しね……」
「……シェリーは強いね」
「何、嫌味?」
「いや精神的な意味で」
「ま、この負けず嫌いな部分だけは誰にも負けないわ」
「ははは……確かに10回も試合したのは、中々に負けず嫌いだね」
そうして、僕はシェリーに勝ったと同時にこの学院に特待生として入学することが決定した。
何はともあれ、諸々のお金が
「では、ユリアくん。君を一級対魔師として登録するが……いいかね」
「え?」
「一級対魔師に勝ったのに、一級対魔師にならないのはおかしいだろう。特級対魔師になるには色々と条件があるが、今回は私の裁量で一級対魔師にしておこう。サインだけもらえるかね?」
「……は、はい」
黄昏で二年彷徨っていた少年が戻ってきて、第七結界都市の学院で最強のシェリーを倒し、一級対魔師になった。そのニュースは翌日、学院中に広がることになるのだが……僕はそんなことを知る由もなかった。
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