黄色いニワトリと尾のあるカエル

恋するメンチカツ

黄色いニワトリと尾のあるカエル

 午前4時ーー



「コケコッコー」



 ニワトリ小屋から、高らかなニワトリ達の鳴き声が響き渡る。



 そんな中、黄色いニワトリだけは、今日も鳴かなかった。



 寝ているとか、鳴けないとかでは無く、鳴かないのだ。



 しかし、何もしていない訳でもなく、ただバサバサと羽を動かしている。



 同じニワトリ小屋のニワトリ達は、そんな黄色いニワトリの事を揶揄する様にこう呼んでいる、「大きいヒヨコ」と。



「おい、大きいヒヨコさんよ!」



 一羽のニワトリが、突っかかる様に黄色いニワトリを呼んだ。



「なんだい?」



 黄色いニワトリは羽を止め、呼びかけに答える。



「おめー、今日も鳴かなかったみてーだな? まさかまだ、子供ヒヨコみてえに『ピヨピヨ』としか鳴けねえんじゃねーか?」



「うーん……僕は鳴きたくないから鳴かない。それに、他にやる事もあるし」



「ハハハハ、なんだそれ? やる事って、羽をバサバサする事か? 外見の色も中身も子供ヒヨコじゃねーか」



 その会話を聞いている周囲のニワトリ達もクスクスと笑っている。



「じゃあ、君はどうして毎朝同じ時間に鳴くんだい?」



「どうしてって……ニワトリは朝に鳴くもんだからだよ!」



「それは、どうして?」



子供ヒヨコから大人ニワトリになったら、鳴かないといけねえの!」



「やらなきゃいけない事をやるのが大人? やりたい事をやるのが子供? それって、大人になるにつれ選択肢が増えていく中で、出来る事だけを選択する様になった言い訳じゃないの? なら、僕は子供ヒヨコのままでいいや。この羽を使ってどうしても、飛びたいからさ」



 呆れた顔をする周囲のニワトリ達を余所目に黄色いニワトリは、また小屋の片隅で羽をバサバサと動かし始めた。



 黄色いニワトリは、今日も周囲に染まらない。自分の色で、いつか大空を羽ばたく、その日を夢見て。





 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 ここは、ニワトリ小屋から遠く離れた小さな池のほとり。


 この池には、一匹だけ他とは違う歪な姿をしたカエルがいた。


 尾のあるカエルだ。


 尾のあるカエルは、今日も池の中で尻尾をゆらゆらと揺らしながら懸命に泳いでいる。


 後ろ脚をピンと伸ばして、尻尾に沿わせるカエルらしからぬ独特の、その泳ぎ方はむしろオタマジャクシそのものだ。


 すると池のほとりで、そのカエルを見下す様に見ていた他のカエル達が、


「早く上がって来いよ」


「おーい、子供オタマジャクシちゃーん」


「恥晒しー」


 等と罵声を浴びせ始めた。


 今日も容赦ない罵声に嫌気が差して、渋々と陸へ上がる尾のあるカエル。


 尻尾が邪魔でピョコピョコと上手く跳べない尾のあるカエルは、ズリズリと尻尾を引きずりながら歩く。


「おい、どこ行くんだよ子供オタマジャクシちゃん」


 歩みを止めない尾のあるカエルに、一匹のカエルが突っ掛かった。


「海へ行ってきます」


 と、いつもの様に一言だけ返す尾のあるカエル。


 それを聞いた周りのカエル達はゲコゲコと笑い合い、笑いの輪唱が湧き上がった。


「また、波に返されるに決まってるだろ」


「本気で沖に出れると思ってんのかよ」


「むしろ、今度は波に呑まれて沖に流されるかもな」


 口々にからかうカエル達を尻目に尾のあるカエルは振り向く事無く、口を紡いで海へと向かった。


 諦めによる心地よい順境より、拘りを持ち波へと挑む逆境を求めて。




 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 空を夢見る黄色いニワトリ。


 海を夢見る尾のあるカエル。


 場所は違えど、求め探すは自分の居場所。


 子供ヒヨコ大人ニワトリ子供オタマジャクシ大人カエル


 この一羽と一匹がいつか、偶然? 必然? 的に出逢うのは、また別のお話。

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