111話 イカ大王

 城の門をくぐった俺たちは、美しい庭を素通りして城の内部へと到着した。


「ようこそ、タルサ城へ。私は今回の案内役を陛下より賜われましたミースと言います」


「よろしくお願いします」


「では陛下の元へ案内いたします。付いてきてください」


 ミースと名乗った女性、メイドさんへと俺たちはついていった。

 ……それにしても至る所で執事やメイドさんが見かけるが、いつも大体こんな感じなのか?とてもせわしなく見える。


「ここの従業員はそこまで沢山いるわけではありませんからね。同じ人が連続して働かなくてはいけないんですよ」


 へぇ……大変だな。その分お給料とか良いんだろうけど。


「それではこの先に陛下とがおられます。では、ごゆっくり」


「はい」


 そして案内役の人は去っていった。

 ……俺はずっと思ってたんだけど、この世界の人の案内役ってクールな人が選ばれる決まりでもあるのか?

 俺が出会った案内役の人はほとんどクールだった気がするんだが……?


「お~~い!」


「ちょっ!?それ大丈夫なの?ここ一応お城なんだよ?」


「いいんだよ。意趣返ししたかったし、ギルバートはこの程度でキレるタマじゃねぇよ」


「……そうだといいんだけど」


 そして相手の返事を待たずに俺は扉を開け放った。


「あ!お兄ちゃんとみんなだ!」


「お~!久しぶりだな」


「うん!」


 そう言ってミリアは俺に抱きついてきた。


「やあ。待ってたよ」


 奥の椅子にギルバートは座っていた。


「これは随分乱雑な訪問だね」


「別にこれぐらいで怒りはしないだろ?さっきイラっとしたからこれでお返しだ」


「やり返したらダメって習わなかった?」


「え?何のこと?」


 あえてとぼけるようにする。


「……まあそれで君に話があるんだけど」


「何ですか?」


「連合のことなんだけど……そろそろ顔を出してもいいんじゃないか?」


「確かに……そろそろ出しておいた方がいいかもしれないな」


 全然こちらに来れてなかったから少しくらいは目を瞑ってほしいものだ。


「じゃあちょうど明日に会議があるから、そこで何かするといいよ」


 ……急にそんなこと言われてもなぁ……。


「今は何が欲しいんだ?」


「……今は東の海洋が危ないかな」


「何があったんだ?」


「魔物が出たんだよ。クラーケンという上位種の魔物だ。そのせいで物流の一部がストップしている」


 クラーケンか……つまりはイカに苦しめられているということだな。


「……ならそれはもう行ってくるか。ちょっと待っててくれよ」


 俺はミリアを地面に下ろし、俺は東へ〈霊脈移動〉を用いて一瞬で移動した。


 東の街へ着いたものの……人っ子一人いないんだが……。


「どこかへ逃げたのか?」


 クラーケン……イカ大王に襲われているということは避難も迅速に行ったということか?


「まあ今はそれよりもイカ大王だな」


 俺の目と鼻の先……海の中に巨大な反応があったのはすでに確認済みだ。


「よいしょっと」


 俺は携帯型の記録保存用の魔導具をその場に設置し、海が見えるように配置する。

 この魔導具は拡大機能が付いているので、ちょっとぐらい遠くで戦っててもバッチリ写っている。しかも防水だ!


「じゃあ行きますかね」


 俺は録画状態にしてから海へ飛翔で飛んだ。


『グルァァァァァァァッ!』


 叫び声が獣であるそれと俺は対面した。


「おうおう!イカ大王が!人様の領土荒らしてるんじゃねぇよ!一撃でぶっ飛ばしてやるわ!」


 そして俺は久しぶりに二刀流を解禁した。

 何でかって?こいつに血が流れているからだよ。


「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」


 俺は現状出せる全力をイカ大王に向かってクロスに撃った。

 そしてクロスに斬撃が飛び、見事イカ大王を撃破した。


「よいしょっと」


 俺はイカ大王を撃破し、その死体をアイテムボックスの中へ入れた。


「カメラ取れてるかなぁ……っと」


 そして俺がカメラを確認してみると、何と記録が残っていなかった。

 Why?!何故!?

 よ〜く見ると、俺が押していたのは録画再生ではなく終了の方を押していた。


「オーノー!」


 俺はそんな叫び声を上げ、地面へ倒れ込んだのだった。

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