87話 スプリガン
「早速で悪いんだけど、オークションの件、日取りが決まったよ」
「そうですか」
俺は今冒険者ギルドにいた。
魔導演武祭の後はしばらく休暇が取られるため、暇つぶしに冒険者ギルドに行こうと思ったらこうなった。
「オークションはここから東の……勇者君は知ってると思うけど東諸国連合に加盟しているタルサ王国で行われるんだよ。日付は今から10日後。馬車で行くのは2日後だから準備しといてね。2日後の朝にこっちに来てくれたらいいから」
「学園はどうすれば?」
「もう理事長に話は通しているよ。だから安心していいよ」
……なるほど。
それだっだら無断欠席にはならないし、堂々と学園をサボることができる口実を理事長が作ってくれたというわけだ。
あの時はクソとか言ってごめんなさい!
「それじゃあ依頼を受けるのかい?」
「そうですね。まだなんの依頼があるのか見てなかったですし、これから決めようと思っていたところです」
「なら……君に指名依頼があるんだけど」
そう言ってゴソゴソと机の引き出しを漁り、依頼書を机の上置いた。
俺はそれを取る。
〈キラースプリガンの討伐依頼。最近キラースプリガンがちょくちょく町の付近までやってきて襲いかかってきます。どうか私たちを助けてください!
指名:カネヤマ トオル様
報酬:我が村に伝わる神器〉
「……なんかパチモンみたいな話ですね……」
「そうなんだよ……。他の人に依頼を頼もうとしても指名と書かれている時点で無理だし、報酬がねぇ……」
「ですよねぇ……」
「「はぁ……」」
お互いため息をつく。
「なら行きましょうか。俺なら怪我することなんてないと思うし」
「それはいいんだけどもう一つ問題があってね……場所の話なんだけど、そこはここから南に約300キロも離れた森の中に立つ村なんだ」
「300キロですか……」
思ったより遠かった……。
長くて100キロぐらいだと思っていたのに……。完全に予測が外れたな。
「で、どうする?はっきり言ってやめといたほうがいいと思うんだけど」
「そうですね……やっぱり行きます」
「どうして?」
「伝説の神器ということも気になりますが何よりスプリガンというものをこの目で一度見てみたいものだと思っていたんです」
「……変わってるね……」
まあ向こうの世界からしたら興味はたくさん沸くと思うな。
だって伝説上の生き物とされているからな。
余程のことがない限り珍しいからな。
「じゃあお願いするね」
ガルドさんは了承のサインを依頼書にした。
「じゃあ今すぐ向かう?」
「そうですね。万が一ということもありますし」
「分かった。移動は……大丈夫だね」
「はい。空飛んでいきますから」
ガルドさんはとっくに俺が飛べることを知っている。
ていうか俺のことをよく知っている人ならこれぐらいのことでいちいち驚かないだろうしな。
「じゃあ気をつけて」
「はーい」
そして俺はギルドを出て、すぐさま飛び目的地へと向かった。
俺は今ものすごい勢いで空を飛んでいる。
時速で言うところの500キロオーバー。
まさかの新幹線の最高速度という320キロを余裕で追い越していく。
「……あれか」
本当にポツンとその村は立っていた。
……こういう村ってどういう生活してるんだろうな?
やっぱり自給自足で頑張っているのかな?
俺は急停止し、森の中へ入る。
……めっちゃ茂ってるな……。
まあ森なんだから当然なんだけどな。
「ここが……」
そう言えばどうやってやればいいんだろうな?
スプリガンって言うモンスターの特徴もよく分かっていないわけだし、無闇に捜索するのは時間がかかる。
「〈索敵〉」
俺はスプリガンなるものを検索し、居場所を特定する。
……結構いるね……。
俺の索敵に映ったのは100匹以上のスプリガンの群れだった。
「じゃあ行くか」
俺は会話が通じる一縷の望みを信じてスプリガンの元へと向かった。
俺は物陰からどう言う生き物なのか伺っていた。
……結構可愛いな。
スプリガンは少し黒ずんでいたが、目はクリクリで背丈も2、30センチぐらいと愛らしい感じだった。
……本当にスプリガンが人を襲ったのか……?
まあ話が通じたらそれを聞くとしよう。
「あの……すみません。ちょっといいですか?」
俺は物陰から出て行き、相手と話をするために近寄った。
「何奴っ!?」
妖精の一人が俺の接近に気づき、大声で確認する。
「私、旅の者ですが……。何かお困りなことがあったりしませんか?」
「貴様……!私たちが何の種族か知って聞いてきているのか!?」
若干逆ギレ的な要素も含みながらも、こちらに対応してくれている。
……これは何かありそうだな。
「おやめなさい!」
男ばかりのスプリガンの中から女性の声が聞こえてきた。
「申し訳ありません、旅の者よ。私の名前はイーシャ=スプリガン。スプリガンの女王です」
やっぱりこれは一悶着ありそうだな……。
そう思い、話を伺ってみることにした。
スプリガンの女王との出会いはある国へと喧嘩を売ることになるのだが、今はそんなこと知る由もなかった。
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