86話 ダンスパーティ
グースカ寝た後、俺は叩き起こされた。
「…………ル!ちょっとトオルっ!」
揺さぶられて眼が覚めると、ルーナが目の前にいた。
「…………おやすみ……………」
誰にも会いたくない気分だった俺は布団を被り、再び眠ろうとした。
だがしかし。
「こらぁぁぁぁっ!」
まるで子供を叱りつけるような声を出し、ルーナは俺が寝ているシーツごと宙へ放り出した。
「……ちょっ!?」
突然のことに俺は何もすることが出来ずに地面へと着地した。
それはもうどんくさく、いかにも雑魚敵がやられた時のようなポーズになった。
「……どうしたんだよ……?」
「結果を伝えようと思って。結局トオルが一位ということは変わらなかったけどね」
「……どういうことだ?」
第六競技までのポイントは俺が60点。
Sクラスが35点だったはずだ。
俺の予想では大血闘で最高が30点、Sクラスが一位を取ったと考えていた。
「本選に出ていなくても全クラスポイントはもらえるんだよ?そして私たちが30点。そしてトオルチームが20点だから、結果は80対65になるんだよ」
「俺って勝ってたのか……?」
「そりゃあね。それまでの六種目を全て一位で、大血闘も本選出場していたら負ける方が採点がおかしいってみんな思うよ?」
「……ははっ、そうだな」
俺は恥ずかしくてルーナに顔を向けることができない。
……いや、負けたと思って萎えて帰ってきたらまさかの勝っていたなんて……。
誰が想像できるんでしょう?
まあしっかり考えていれば分かっていたことだろうけどな。
「それじゃあもうすぐ閉会式だから行こう?」
「……そうだな」
若干気分が乗り気じゃないが、流石に優勝チームが無断欠席は良くないだろうしな。
「じゃあ行こう!」
そう言って俺の手を掴んでくる。
「……これでどうしろと?」
「飛んでいってよ!」
「……仕方ないな」
俺は窓を開け放つ。
そしてルーナが俺の背中に乗るようにする。
……今気づいたんだが、わざわざルーナが来なくても良かったんじゃ……?
楓だったら一瞬で転移してこれただろうに……。
「それじゃあしっかり掴まってろよ!」
俺はルーナを背負い、開けた窓から外に出る。
「ひゃっほ~~~っ!!」
なんて能天気なんだろうな?
この高さは怖くないのか?
俺が今いる高さは100メートル以上。
高所恐怖症の人なら速攻失神レベルだな!
「ねぇ、もっと早くしてよ!」
……こいつっ!
「いいぞ。なら落ちんなよ!」
俺はそこからさらにスピードを上げ、学園へと向かった。
まあもちろん手加減はしたけどな。
だって全力だったら人体が残らないと思うし。Gで。
しかも……大切な恋人にそんなことしたくないしな。
……やっぱり言ってて恥ずかしくなってきた!
スピードを上げたおかげか、学園までは五分未満で到着するのだった。
「よっと」
俺は闘技場付近へ足から綺麗に着地した。
「大丈夫だったか?」
「うん!全然平気!むしろ楽しかったよ!」
「それはよかったかな……?」
楽しませることができたのだろう、ルーナは空を飛んだことに興奮しているように感じた。
「じゃあ行こ!もうみんな待ってるよ?」
「……ちょっと待て!それどういう……」
「まあまあ!行ってみれば分かるよ!」
そう言われて背中を押される。
……これはそのままにしといた方がいいかな……。
そう思った俺はルーナに流されるまま、前に進んだ。
『わぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!』
俺が闘技場に入るととてつもない声援が送られていた。
……何これ??
あまりの光景に俺の思考は一瞬停止した。
「えー、それでは!優勝者と今魔導演武祭MVPの発表を行いたいと思います!!」
理事長がそんな宣言をすると、会場はまたもや大いに歓声に包まれる。
「一年優勝Sクラス!二年優勝Eクラス3!三年優勝!同率でAクラス1とSクラスです!
そしてMVPはもちろん……今大会異例の80点を叩き出したカネヤマトオル選手です!!」
優勝も盛り上がっていたが、何故かMVPの方がもっと盛り上がっていた。
何故に?
「それでは各チームの代表者は前へ出てきてください!」
そして3人の生徒は前へ出る。
俺とあの子、Sクラスの子と、知らない男だった。
「それでは順に表彰します!ーー」
そんなこんなで俺も表彰され、表彰状を渡された。
「では次にMVPの表彰に移ります!えー、
カネヤマトオル殿。貴殿は第158回魔導演武祭において、輝かしい成績をここに収めたことを評します。理事長レイナ=チャールド」
理事長にしては真面目な表彰を行い、俺には表彰状と純金のトロフィーを渡された。
……学園でこんなの用意するなんて流石だな……。成金だぜ!
「それとトオル選手には食堂タダ券一年分が送られます!」
俺は近くに立っていた係の先生からたくさんの紙を渡された。
ここの一年は向こうの世界とあまり変わらないから、365×3で1095枚分のタダ券だ。
……正直言ってこんなに要らないんだが……。
まあ要らなくなったらばら撒けばいいんだしな。
それに食いつく人は結構いると思うし。
「それではこれにて魔導演武祭を閉会します!!」
すると、過去一番の歓声が届いた。
「それではご来場の皆様。お怪我には気をつけてお帰りください。それと生徒は体育館に集合してください」
理事長じゃない人の声が聞こえてきた。
……体育館か……。
一体何するんだろうな?
「「一緒に行こう!」」
「えっ??」
俺は何故か楓とルーナに手を掴まれて、体育館の方へと連れ去られてしまった。
「人集まってんなぁ……」
俺たちも結構早く来たと思ったのに体育館の中にはすでに100人ぐらいの人数がいた。
「これから何やるのか分かってるのか?」
「「ダンスパーティ!」」
二人のセリフがハモる。
「……………は?」
思わず素の疑問を口にしてしまう。
まさかこれからダンスを踊るんじゃないんでしょうね?
「「私と踊ってください」」
二人とも手を俺の方に出してくる。
「え?ごめんなさい……?」
「なんでそこで断るの!?」
「しかも疑問形だし!」
息ピッタリだな。
そして俺は踊りたくない!
「いやだって……俺踊れないし、しかもこのメンツだったらみんなに俺の恥をさらしているようなもんだろ?」
「じゃあみんなが見てないところだったらいいんだよね?」
「よし!ルーナちゃん!透をすぐさま中庭まで直行!」
「ラジャー!」
「え?ちょっ!」
何かをする前に一瞬で景色が入れ替わった。
「……ここは……中庭か?」
「ピンポーン!」
楓が何故か離れたところに出てきた。
「あれ?楓が俺をここまで運んだのか?」
「違うよ」
「え?てことは……」
「カエデちゃんに教えてもらったの」
マジか……。
「転移って教えてもらうだけで習得できたものだったっけ?」
「違うけど、それに似たようなことを魔法だけで再現したんだよ。それだったら色々な制限はあるけどね」
「そんなことより今はダンスをしよ!」
ルーナが俺の前に来て、手を取る。
すると、タイミングを見計らっていたかのように遠くから音楽が流れてきた。
「……これどうやってやるんだ?」
ダンスの超素人な俺はここからどうすればいいのか皆目見当もつかない。
「私の動きに合わせて……!」
ルーナは俺の両手を持ち、ゆっくりとステップをしている。
俺もその動きに合わせていく。
「あ、うまいね」
「そうか……?」
クソッ!こんなことならダンスのスキルを取っておくべきだった!
今取れって?
あんまり疑問に思われたくないのよ。
だって無知の素人だったのに、いきなり完璧に踊り出すってちょっと引かない?
「じゃあ次は私ね」
流れるように交代した楓と次は踊る。
「もうちょっとテンポ上げていい?」
「お願いしますそれだけはやめてください」
「あははっ、冗談なのに」
「あんまり虐めないでくれ……」
「ふふっ」
結局俺は二人と交代交代で踊りながら、曲が流れなくなるまでひたすら同じステップを踊るのだった。
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