88話 超簡易な携帯電話
「最近、人の町付近にいるって言うのは本当なんですか?」
いきなり核心的な内容を聞く。
「はい……実は……」
そこから彼女の話が始まった。
元々スプリガンという生物は各自、森の奥に点々と存在している洞穴で生活している。
そもそもスプリガン自体の数が最近になって激減しているらしい。
そこでスプリガンたちは対策を練るために一度全員を集めたのだとか。
その時に人間からの襲撃があり、洞穴ごと多くのスプリガンが焼かれてしまったのだという。
「酷いですね……」
「私たちは命ながら生き延び、いつ誰が来ても対策が取れるようにしていました」
「……ていうか俺にこんなことを喋っていいんですか?」
「大丈夫ですよ。あなたはそんなことをしないはずだし、何より目がそう語っています」
「それは……」
「まあ私が信用したから話したと思ってください」
「はあ……?」
まあそういうことなら……。
じゃあ本題に移ろうか。
「それがどうして人里付近に現れるようになったんですか?」
「それは……」
言いづらそうに女王様は目を背ける。
「私たちは本当は人里付近なんて行っていません……。あなた以外にも何人もの人間が来ましたが、その方たちは丁重にお帰りいただきました」
「……」
何人もの冒険者がこの依頼に行ったけど、全員青ざめた顔で帰ってきたっていう話をしていたな……。
それにしても妖精を狙う人間か……。
種族的に言えば俺は人間につくべきなんだろうけど、何か放っておけない。
それに弱い者虐めを見逃すなんて気分が悪いからな。
……でも冒険者を撃退したのなら弱くはないのか……?
「じゃあ誰かに濡れ衣を着せられたということでいいんだよな?」
「はい。私たちはその者の策略によってまんまと表舞台へと引きずり出されてしまいました」
「そうか……。なら俺たちのところに来ないか?」
「えっ!?でもあなたは私たちを討伐するためにここに来たのでしょう!?」
「まあ……一応そういうことになっていますが、別にどうしようかは俺の勝手ですし、お金なら今でも十分にあるし、これからもっと増える予定ですからね」
間違ったことは言っていない。
元々これは絶対に完遂しなけりゃいけない依頼ってわけでもないし、違約金を払えばなんとかなるっしょ。
え?俺の評判?知ったことか。
俺は俺のしたいことをする。
それで民衆の評判が下がろうが俺にはどうでもいいことだ。
「ていうかよく俺が討伐依頼を受けたということが分かりましたね」
「それは……人間の方たちは皆さん私たちを討伐したと言っておられたので、あなたもそうなのかと……」
「そうですけど。なかなか達成できないから俺に指名依頼が回ってきたんですけどね。純粋に興味もあったし」
「あなたは……私たちを見て嫌悪しないのですか……?」
「ん?なんで?」
「だって……私が言うのもなんですが、私たちって醜悪な見た目をしていませんか?」
「そうかぁ……?俺は普通に可愛いと思うけどな……」
全く……。この世界の人間の目は本当に節穴だよななんでこんな可愛い生き物を差別しちゃうかな……?
「か、可愛いなんて初めて言われました……」
『……うんうん……』
女王様が恥ずかしるのと同時に他のスプリガンたちも恥ずかしがっていた。
……何故そこで恥ずかしがる?
「じゃあ……これからどうするか……?」
人間たちの支配範囲を逃れている場所って言えば……。
「あ!あそこがある!」
人に見つかることもなくて、居住スペースもある最高の空間。
俺がここら辺に家を作ってもいいんだけど、それだったら狩とかできないだろうし、あそこだったらたとえ10000人が来たとしても10日は持つほどの食料があるからな。
足りなかったら俺が持っていけいいし。
「じゃあ俺の手を繋いでくれる?」
「それにどんな意味があるのですか?」
「いや、ちょっと場所を変えようと思って」
「……もしかしてあなたは転移を使うことができるのですか?」
「はい、普通に使えますけど」
『おお~!!』
あれ?転移ってそんなな優遇されるスキルだったっけ?
まあいいか。
「あ、そういえばこっちは自己紹介してなかったですね。俺は金山透。よろしくお願いしますね」
『よろしくお願いします!!』
スプリガンたちは一斉にお辞儀をし、俺に抱きついてきた。
……そんなことしなくていいんだけど……。
まあ好意は受け取るとしよう。
「〈転移〉」
その一言で森にいた大勢が一瞬でその場から移動した。
「おおーい!いるかー!」
俺はその場でここの主に呼びかけた。
「はいは~い!」
すると、奥から銀色の髪をした女性が出てきた。
「……Who are you?」
「酷いね!忘れたの?」
いやぁ……知り合いにこんな人はいなかったよ?
まあ正体は分かっているんだけど。
「というわけでこれからよろしくな!」
俺は少女の肩を叩く。
「どういうこと?」
「そのままの意味で」
「ほう?この私自ら彼らの世話をしろというの?」
「貯蓄ならたくさんあるだろ?文句はないはずだ」
「それでも私だって忙しいの!」
「あっれぇ?ダンジョンに日頃からイモっているドラゴンさんは何を言ってるんですかぁ?」
「でも……食料や部屋はどうするの?たしかにここが広いからって言っても流石にこの人数を満足に暮らさせるのは難しいよ?」
「食料問題は問題ない。念思、使えるだろ?」
「でもあれそこまで距離は長くないよ?」
「ふーむ……」
確かに。電話みたいなのがあればいいんだけどなぁ……。
……あれ?
俺は大事なことに気がついてしまった。
そういえば学園で使ってたやつ、あれを持ってこれば非常事態でもなんとかなるんじゃね?
「じゃあ……〈創造〉」
俺はあの魔導具をイメージする。
構造は……魔力を通して、登録してある連絡先に電話をすることができるやつでやるか!
大きさは学園で使われていた卓上電話機のような重くてデカイやつじゃなくて、携帯電話のような小型サイズを作る。
作り終えると、俺の手に二つの携帯が存在していた。
まだ電話をするという簡単な機能しかつけてないけど、これからもっと機能を増やすつもりだ。
「じゃあ問題があった時はこれで電話してね」
「……どう使うの?」
まあ……そりゃそうなるだろうな。
携帯の使い方なんて知るわけないだろ。
逆に知っていたら驚きだ。
「この電話のボタンを押して、連絡先……この一番上にあるのが俺の連絡先だからそこを押したら勝手にかかる」
魔力は消費するけど、ファフニールだったらさして問題もないだろう。
連絡先に関しては勝手に先に登録させてもらった。
「じゃあ俺は後処理とかいろいろ忙しいから、後は任せた!」
「えっ!?ちょっ……!」
『ありがとうございました〜〜!』
俺はファフニールの制止を振り切り、スプリガンたちの礼を受け取り、転移で冒険者ギルドまで戻った。
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