27話 海と魚と鮫

 セーフティゾーン、もとい31階層に到着した俺は在るものを取り出した。

 そう!野宿の必須アイテムのテントだ!

 これはただのテントではない。

 インビジブルという不可視の風魔法が付与されている。

 この世界では2つの付与の方法があり、属性の魔力を付与する属性付与、魔法自体を付与する魔法付与がある。

 このインビジブルは魔法付与だ。

 これに関しては、カーマに教えてもらった。

 このテントはその時に思いついて自分で作ったものだ。

 え?不可視だからテントも見えないんじゃないのかって?そもそも魔力通さないと使えねぇよ。


「おー」


 組み立てて、中に入るとそこは結構広かった。

 まあ、5人は余裕で寝れるように創造で作ったからな。


「よいしょ」


 俺はエルを寝かせ、即座に作った毛布をかけてやる。

 ……気持ちよさそうに寝てるなー。

 エルの寝顔見てたらなんか気が抜けてきたな。

 きちんと自分の毛布も作っておく。


「おやすみ……」


 そう言って俺はやっぱり疲れていたのかすぐに眠ることができた。


 そして朝。


「……ん?」


 なんか体が重いな。やっぱり疲れたのかな?

 そう思って俺は自分の体を見てみると、そこにはエルが俺の毛布の中に入ってきて、俺の上で寝ていたのだ。


「え!?」


 ……これどういう状況?朝起きたらエルが俺のところに?ちゃんと毛布かけたよな?もしかして寝相が悪いのか?

 ……起こすのも悪いしもう一回寝るか。

 そう思って俺は久しぶりの二度寝をした。



「……ん?」


 俺が二度寝をしている時にエルは起きた。


「あ、あわわわわわわ!?」


 自分が男の人の布団の中に潜り込んでいることを知って、真っ赤に赤面して、あたふたとしていた。

 いやー、癒されるなー。

 あ、一応自分の自己紹介しておくね。

 僕は透を第三者視点で見る者だよ。気軽に神とでも呼んでくれたら嬉しいな。

 透は羨ましいよね。あんなにも美少女な子たちに好きになってもらって。

 僕はもう不満たらたらだよー。

 あ、エルがあたふたから治って自分の布団で独り言をずっと呟いていた。

 ……あちゃぁ。これはちょっと透とはしばらく喋れそうにないね。

 じゃあ、僕はそろそろ行くことにしよう。

 どこに?

 自分でもどこに行くかは決めていないんだよ。

 というわけでまた会いましょう。

 そして彼?彼女?は去っていった。



「……ん?あ、エル起きたのか?」


「ひゃうッ!」


 俺は毛布に包まっているエルに声をかけると、ビクッとして、俺からズルズル離れていった。

 ……そんなに驚かなくても。


「俺は気にしないから大丈夫だ」


「ご主人様が良くても、私が良くないの!!」


「お、おう……」


 そんなに俺と一緒に寝るのは嫌だったのか?

 それだったら悪いことしたな……。エルが起きる前に退いておくべきだったな。


「悪かったな」


「……なんでご主人様が謝るの?」


「え?いやだって、俺と寝るの嫌なんだろ?」


「そうじゃないよ!……ただ、ご主人様に寝顔が見られるのが恥ずかしいっていうか……」


「寝顔なら結構見たぞ」


「ひゃあああ!!」


 エルは顔を真っ赤にして、顔を押さえてしゃがみこんだ。

 ……やっぱり可愛いな。何か守りたくなっちゃう気持ちだ。

 まあ、気持ち云々でエルは俺の命にかけても守るけどな。

 それから数分後。


「落ち着いたか?」


「……うん」


「そうか。それなら朝飯食べるぞ。今日は腹減ったからもうパンでいいよな?」


「うん」


「よし」


 俺はそう言い、2枚の食パンにバターを塗っていく。

 この食パンもバターもメルトリリスの商店エリアで買ったものだ。

 薪を創り、そこに火をつける。

 焼き鳥で使った起き台を取り出して間隔を前より狭め、食パンが乗っかるようにする。

 そして焼き始めて2分後。それなりに焼けたから裏返す。

 そして1分後、綺麗に食パンは焼くことができた。


「はい。完成。好きなものをかけて食べて」


 そう言って俺は砂糖、ジャム、練乳、チーズを用意した。

 ジャムと練乳に関してはこの世界で、もといメルトリリスにはなかったから自分で作った。

 俺はもちろん練乳をかける。甘党だからな!

 エルは俺と同じ練乳を取った。

 ……俺は大丈夫だけど、甘いのが苦手な人は無理だと思うんだけど。大丈夫かな?


「練乳でいいのか?甘いぞ?」


「いいの!甘いの大好きだし!」


 それなら良かった。俺と趣味が合いそうだな。


「「いただきます!」」


 エルも俺と同じようにいただきますをするようになった。

 早速パンを食べ始める。


「やっぱりこれはうまいな。エルはどう思う?」


 そう聞いてエルを見ると下を見てプルプルしていた。


「……ど、どうした?甘すぎたか?」


「おいしい!!」


 突然顔を上げ、満面の笑みでおいしいと告げた。


「これご主人様が作ったの?なら天才だよ!」


「まあ、これは俺の元いた世界での食品なんだよ」


「いいなー、私もそこに言ってみたい!」


「行けたらな」


 将来時間とか時空を操るスキルがあるのを見つけたのなら元の地球にも帰れるかもしれないな。


「「ごちそうさまでした」」


 朝食を食べ終えた俺たちは早速下層へと向かうのだった。



「暑い!」


 32階層は海だった。扉をくぐると、そこは絶海孤島の無人島だった。

 ……この階層全部こんなのが続くのか?それだったらめんどくさすぎる。

 まあ、いいや。とりあえず扉を探すとするか。

 そう言ってエルを背負い飛翔を使う。


「あれ?」


 上から扉を見てみると、最初に入ってきた扉以外にそれらしきものは見当たらない。


「あ、ご主人様!あっちあっち!」


 そう言われてエルの指をさした方向を見てみると、こことは別の無人島があり、そこに扉があった。

 ……なるほど。正規攻略は泳いであそこまで行けってことか。

 泳ぎながら水中型の魔物を相手にするのは骨が折れるだろうな。

 まあ、俺は関係ないけど。

 飛翔で一気に扉までたどり着く。

 門を開けると案の定階段になっていた。

 ……逆にここは階段じゃなくて、本当の扉は海のそこにあるとか言われたら笑い事じゃ済まないけどな。


「やったね!ご主人様」


「これはエルの手柄だな。俺は気づかなかった」


「えへへ。ありがとう!」


 たしかに俺だけだったら行けたかもしれないけど、焦点があっちの島しか言ってなかったから見つけるのには時間がかかっていたかもな。

 そして初めての海階層をクリアしたのだった。


 33階層も32階層と同じように海ステージだった。

 これは40階層まで海で間違い無いだろうな。

 ……ていうか本当にこれスケールどうなってんの?そこまで階段降ってないんだけど。

 結論から言うと、32階層と同じように、33、34階層は比較的早く攻略できた。

 そしてボス部屋である35階層に到達した。

 扉を開けると強制的に海に落とされた。


「あぶねっ!!」


 俺は一瞬でエルを掴み、飛翔を使い全力で空を飛ぶ。

 すると、俺たちがいたところの真下にデカイ魚が口を開けていた。

 いや、前も初見殺しとは言ったけど流石にこれはやりすぎじゃないか?

 強制的に海に落とされて、そこに巨大魚がいるとか。

 俺と同じように飛翔で離脱できる人か、一撃であいつを殺せる攻撃ができない限り、一回で死亡だろうな。

 ……このダンジョン鬼畜すぎね?

 まあ、離脱も出来たことだし、新しい技を使いますか!


「シュート!!」


 俺はそう叫びダーインスレイブを全力の力で投擲した。

 剣は大気を穿ち、魚とぶつかった瞬間魚の方が耐えきれずに崩壊した。

 ダーインスレイブは傷をつけると所持者のところに戻ってくる能力があるから、俺はこれを発明した。

 ダーインスレイブは戻ってきて、ジャキンッ!と鞘にすっぽり収まった。


「ご主人様見て見て!」


 俺がエルが言っていた方を見ると、水が引いていき、下にドロップアイテムと扉があった。

 ドロップアイテムは………、特にいいのは無いかな。全部レッドビックフィッシュの素材だったし。

 あ、レッドビックフィッシュってあの魚のことな。


「行くぞ。危ないから俺の背中におぶられておけ」


「うん!わかった」


 こうして俺はどんどん階層を突破していった。


 そして40階層。とうとうボス部屋である。

 多分水場での戦闘だと思うから、俺はエルを背負っている。


「じゃあ、開けるぞ」


「うん……」


 扉を開けると、案の定俺たちはまた海へ垂直落下した。


「〈飛翔〉!」


 空を飛び、敵の容姿を見る。

 それはさっきの魚の1.6倍ぐらいはある巨大な鮫だった。


「もう一回。シュート!!」


 レッドビックフィッシュにも使った技を使うと、鮫はやっぱり俺の威力に耐えることが出来ず、一撃で絶命した。

 相変わらず強いなこの武器。魔剣っていうのを差し引いても十分強い。

 水が引いていき、そこには鮫の素材と、一つの首飾りがあった。


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 <恋愛のネックレス>


 装着車の運が上がり、運命の出会いがあるかもしれない。あと、異性への引き付ける力が数段階増す。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うわー、これ武器じゃ無いじゃん。これは死蔵行き決定だな。


「ご主人様そのネックレスってなに?」


「ああ、恋愛のネックレスって言ってな。運命の出会いがあったり、異性を引き付ける力が増すんだって」


「ください!」


「……死蔵行きだけどいいのか?」


 ……まあ、俺は使わないからエルにあげることにする。

 めっちゃ喜んでるけどそんなに嬉しかったか?

 俺には永遠に乙女心は分からないからエルが考えてる事がわからない。


「じゃあもう行くぞー」


「うん!」


 俺の隣に並んだエルと一緒に41階層へ向かう階段を降りていくのだった。

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