26話 草原と蛇

 俺が軽い運動をしたり、新しい武器を作ったりして21階層に戻った。

 するとそこはダンジョンなのにミニ宴会が開かれていた。


「あ!ご主人様!おかえりなさい」


「……おい。これはどういうことだ?」


 あまりの状態の変化に俺は驚愕の一言の状態だった。


「ああ、これはーー」


 そう言って、十人ぐらいの冒険者が俺たちの食材で作られている料理を一心不乱に食べている理由を説明した。

 俺が出て行ってから30分後ぐらいにここに超腹ペコな十二人の冒険者が来て、飯を作っているエルを見た瞬間に。


「飯をくれ!」


 と頼み込んだらしい。


「なんでそこであげちゃったかなー……」


「ダメだった?ご主人様……」


 くっ!そんな泣きそうな顔で見ないでくれ!


「……あー、もう!分かった分かったから!OKだから!そんな顔するな!」


 ここでエルを泣かしたら、少女を泣かせる鬼畜変態野郎という最低の汚名を被ってしまう。


「……だけど、飯はどうするか?あいつらあのままだったら俺が用意した食材だけじゃ絶対足りないぞ?」


「そうだね……あはは」


 エルが乾いた笑いを浮かべる。

 ……はあ、考えずに全て渡したか……。


「しゃあねぇ。アイテムボックスにから何か出すか」


「……ごめんね」


「エルは悪くない。悪いのは飯頬張っているくせに挨拶にも来ないあいつらだ」


「……うん」


 そう言って俺はアイテムボックスから買い込んだ惣菜を食べていた。


『おかわり!』


 そう言ってあの12人はさらにおかわりを要求してきた。


「エルは出るな」


「……でも」


「いいから」


 俺はそう言ってエルを止める。

 ちょっとこいつら本当に俺たちをナメてるのか?

 そうとしか考えられないような言動だぞ。


「おい、お前ら」


「あ?なんだよガキ。俺たちはエルちゃんにお願いしたんだけど?」


 そんなことを言われた瞬間、俺は全力でこいつの顔面を殴った。


「この下衆が!軽々しく俺のエルの名前を呼ぶんじゃねぇよ!!」


 あ、やべ。全力すぎてあいつ壁に半分以上めり込んでる。おーい、生きてますかー?

 まあ、あんなゴミどもの命などどうでもいいけどな。


「お、おい!俺たちを誰だと思ってる!」


「新進気鋭のBランク冒険者!ムクード一家だぞ!」


 こいつら全員で俺に勝てるとでも思っているんだろうか?


「あっそ。俺Aランクだから。まだ入って一週間ぐらいしか経ってないけどな」


「な、何!お前のようなAランクやBランク冒険者など見たことがないぞ!」


「いや、言っただろ。登録して1週間ぐらいしか経ってないって」


「そ、そ、そんな……嘘だろ?」


「嘘じゃねぇ、よ!」


 俺は野郎の近くまで詰め、渾身のアッパーっで意識を刈り取った。


『て、テメェーーーーーーーーーー!!』


 2人をやられたことに焦ったのか俺を四方八方に囲んで、一斉に武器で攻撃した。


「はぁ!」


 即座に抜いたトルリオンを振り切った風圧だけでこいつらは耐えられず、壁に激突した。


「これで終わりだな。次エルのことを名前で呼んだらぶっ殺す!」


「ご主人様、落ち着いて!」


 ……あー、やっと落ち着いた。さっきまで本当に興奮状態だったからな。


「……悪い」


「大丈夫。私のことで怒ってくれたのはすごく嬉しかったよ!」


 ……やっぱり可愛いなー。絶対エルは守りたいな。楓やルーナたちもそうだけど、基本戦えるじゃん。

 エルは戦うの苦手そうだしな。


「…飯食べたら行くぞ」


「うん!」


 俺たちは途中の惣菜を食べて、深夜旅に出るのだった。


 24階層。

 俺たちはとりあえずここまですぐに辿り着いた。

 なるべく早くセーフティゾーンに行きたいからな。だから移動は全て飛翔で飛んで行っている。

 だがそこで問題が起こった。


「ご主人様……。むにゃむにゃ……」


 そう。夜も遅いということでエルが限界に達したのだ。

 今は俺が背中に背負っている感じになっている。

 正直言ってこのままでも今は負けないだろうな。ガルバドメスでこの辺の魔物を撃ってみると、全部一撃だったからな。

 まあ、必中が入っているのが大きいんだけどな。

 今はなるべく魔物との戦闘は避け、移動中は魔弾を作るようにしている。

 そのおかげで、今は炎×250、水×300、風×300、土×150、光×100、闇×300ぐらいだった。

 全てアイテムボックスに入れてあるからいつでも使用可能だ。

 というわけで早々に24階層も突破して、ボス部屋である25階層に到着した。

 ここには人はいなかった。流石に深夜ぐらいにここに来るやつはいないだろう。


「シュルルルルルルッ!!」


 ボス部屋にいたのは体長20メートルはある大きな蛇だった。

 これはまだ大丈夫かな?

 俺はそう思い、水の魔弾を装着した。

 そして全弾発射する。

 正面から放った弾は蛇の喉を綺麗に六つ穿ち、その命を絶った。

 やっぱり貫通力がエグいな。

 やっぱり鉄板程度なら苦もなく打ち抜けるだろう。

 ボスはデビルサーペントの素材を落としただけだった。


「よし、次だ次」


 こうして俺は25階層を余裕で攻略したのだった。


 それから順調に下層へ降りていき、とうとうセーフティゾーン手前のボス部屋が姿を現した。


「シュルルルルルルルルル!!!」


 今度は25階層の少し大きな蛇っていうレベルじゃなくて、体長70メートルぐらいはある大蛇を超えた蛇だった。

 試しに水の魔弾を撃ってみるが分厚い皮に阻まれた。


「はあ、やっぱりトルリオンでやった方がいいよな。でも、エルが俺の動きに耐えられるのか心配だよな……。あ、大丈夫か。時速200キロぐらいは耐えれていたし」


 独り言を呟きながら俺は大蛇の鞭を打つような攻撃を避け続ける。

 特に目立った攻撃もしてこない大蛇に俺は少し呆れていた。


「……流石にこれだけじゃデカイ木偶だぞ」


 そう思って俺はジャンプして飛んだ瞬間、そこを狙っていたかのように緑色の水の塊のようなものが飛ばされた。


「ヤバイ!」


 俺にぶつかったら俺だけじゃなくエルも危ないだろう。

 というわけで俺も本気出すとしよう。

 温存していたトルリオンを上空で全力の一振りを放った。

 斬撃となった刃は水を簡単に切り裂き、そのまま大蛇に直進するも柔らかい体をうまく使ってすんでのところで回避された。


「やっぱりこれは避けられるか」


 まあ、これは大蛇を倒すために撃ったやつじゃないからな。普通に避けられたとしても不思議はない。


「じゃあ俺もそろそろ眠いし、とっとと終わらせるか」


 入り口の扉の近くに俺の背中のエルを降ろした。

 俺はトルリオンとダーインスレイブを鞘から抜いた。


「行くぞ!」


 俺の爆発的火力で一気にマックススピードまで到達する。


「はあああぁぁぁああッッ!!」


 俺は駆け抜けざまに大蛇の体を斬って斬って斬りまくる。


「ギャアアアアア!」


 大蛇が悲鳴をあげるも、俺は斬る手を休めることはない。


「はぁっ!」


 俺はトドメに大蛇の頭の上に乗り、思いっきり二つの剣を突き刺した。


「ギャアアアアア…アアアア……アア……」


 ドスンッ!と大蛇は倒れ、俺の勝ちが決まった。

 今回のやつが一番苦労したかな?

 ボスのドロップアイテムはキングデビルサーペントの素材と一つのローブだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 <邪蛇王のローブ>


 全ての魔法、物理に耐性を持つ。体が柔らかくなる。

 このローブを着けると蛇に好かれやすくなる。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いらねーッ!魔法物理とか基本防げるし、ローブは男が着るもんじゃねぇだろ。

 それに最後の効果とか結構ネタ防具じゃね?

 まあ、耐性持つというので打ち消してるんだけど。


「じゃあドロップアイテムも確認したことだし、下に行くか」


 そう俺は言い、入り口付近に降ろしていたエルをまた背負い、セーフティゾーンへ向かうのだった。

 ……あー、これでやっと寝られる。

 そう思った俺であった。

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