13話 戦闘訓練その2
出口へ出た俺と先生はすでに脱出している楓たちのところまで行った。
「……出るの早すぎねぇか?もうちょっと待ってても良かったと思うんだけど」
「いいじゃん。崩れてきた天井の破片とか当たるのが怖かったし」
「まあ、そうだけどさ」
「それより、結局私とトオル君との戦闘訓練しか出来なかったので場所を移そうか」
それでやってきたのがこれまた広いグランドだった。
「じゃあ、もう対戦相手決めるのめんどくさいから上から順にいくね。最初はカエデさんとルーナさん」
呼ばれた二人は準備に入った。楓の主武器はもちろんのごとく弓で、ルーナの主武器がレイピアだった。
「では、始め!」
開始の合図とともに楓は3本の弓を放った。まさに吉田兼好の言葉など糞食らえな程に3本の矢がルーナの頭、首、心臓を綺麗に狙えている。さらに風の魔法を付与しているのか、スピードがやけに早い。
だがそれを、ルーナは炎の魔法をレイピアに付与して、矢にレイピアで触れた。
すると不思議なことに触れたところから一瞬で炎が回り、矢が消し炭になった。
「はぁっ!」
ルーナは掛け声とともに楓に向かって直進した。
……なんだか俺と先生のときみたいな感じだな。
楓は詰められたら負けることが分かっているのだろう、だから詰められる前に矢を十数本放つ。だがそれをルーナが直進しながら切り捨てる。
「炎の槍よ!我が敵を撃ち抜け!ファイアランス!」
走りながらルーナは詠唱を唱え、炎の槍を撃つ。
それに対して楓も。
「アイシクルランス!」
器用に炎の槍に全てぶつけ、相殺していた。
ルーナは詠唱していたけど、楓に関しては技名しか言っていない。
これがやっぱりスキルの差になるんだな。俺も魔法使ってみたけど実際何も唱えずに魔法は使えたから、これもスキルが関わってくるって思ってる。
「まだまだ!」
楓は知っている魔法を全てノータイムで繰り出す&弓で、ルーナは詠唱しながらのレイピアだから、ちらっと見ただけでどちらが有利か分かるだろう。
ルーナは楓の猛攻についていけずに、最後は風の魔法で吹っ飛ばされた。
「そこまで!勝者楓さん!」
『おおおおおッ!』
Sクラスの面々から大きな歓声が上がった。
「王女様って強いんだね」
「ルーナでいいですよ。……流石は勇者様。私はまだまだのようですね。もっと鍛錬に打ち込まなければ」
「そんなことは無いと思うぞ」
そこで俺が声をかける。
「十分今ので強いと思うぞ。勝敗を決したのはやっぱりスキルの差だと思う。そうだろ?」
「そうだね。流石に私も魔法抜きだったらやられてたよ」
「という訳だ。魔法抜きの勝負ならルーナの方が強いだろうな。勇者を追い詰めたんだ。誇っていいと思うぞ」
「ありがとう。これから負けないようにまあ頑張るよ!」
「おう、頑張れ」
「話し込んでないで次行くよ。次はアルベルト君とベネッタさんね」
「「はい」」
初めての異世界の学生同士での戦い。じっくり見学させていただこう。
アルベルトは騎士ということもあってかやっぱり剣。ベネッタさんは何とガントレットを装着しての近接タイプだった。
やっぱりここって地球と全然違うんだなって認識させられる一面だ。
「では、始め!」
その掛け声で二人とも一斉に飛び出した。お互いの得意な近接戦に持ち込もうとしているんだろう。
「はあっ!」
「ふん!」
お互い剣と拳を繰り出していく。だが、それを剣又は拳で受け、時には流したりしている。
「炎よ宿れ!灼熱を我が拳に!フレイムエンチャント!」
ベネッタさんは自らの拳に炎を付与した。
……これって付与している側は熱くないのかかな?自身に炎を纏ってるって熱かったら完全に火傷するけど……。
ベネッタさんの顔を見てみると、苦痛に顔を歪めていた。
直接炎が触れていないため、酷いことにはならないと思うけど、それでも火傷はするだろうな。
「氷よ宿れ!極寒の氷を我が剣に!インテンスアイシクルエンチャント!」
今度はアルベルトが氷を剣に付与し、剣が凍りついた。
こっちはこっちで、また危なそうな技使うな……。止めなくていいのかよ?
そう言い、理事長……先生を見てみるとビーチチェアっぽい椅子に座ってぐうたらしていた。
……それで良いのか、教師!
と、そんなことを考えているうちにもう決着はつきそうだった。
やっぱり炎を纏っているのが痛いのか最初より攻撃の速度が落ちたり、隙が出来たりしている。
これを見逃す騎士はいないだろう。
ベネッタさんの攻撃を切り抜け、アルベルトは俺と同じように首筋に剣を当てて止めた。
「そこまでー!勝者アルベルト君ー!」
だからそんなにのんびりでいいのか、教師!
俺は試合が終わったと同時にすぐにベネッタさんに駆け寄る。
「大丈夫?」
「ちょっと痛いけど大丈夫だよ」
そう言ってガントレットを取ると、酷い火傷だった。
(火傷を治せるスキルを使いたい)
〈スキル検索開始……合致スキル3件。表示します〉
それで出てきたスキルが〈回復魔法〉のロウヒール、リカバリー、パーフェクトヒールの3つだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<ロウヒール>
骨折程度の怪我を完治することができる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<リカバリー>
対象の状態異常を回復させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<パーフェクトヒール>
死亡していない限りの怪我や病気を完治させる。寿命などの病気は効果を得られない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は早速唱えた。
「パーフェクトヒール!」
すると俺の手から緑の光が放たれ、それがベネッタさんに当たると火傷の部分が一瞬に消えて無くなった。
「これで大丈夫なはずだけど……、痛いところとかない?」
「あ、うん大丈夫。ありがとう!」
「どういたしまして」
女の子が目の前で傷ついているのにそれを見て見ぬ振りなど男が廃るからな。
「じゃあ、戻ろうか」
「はい!」
やっぱりこの子元気だな。元に戻ると俺は先生に呼び出されていた。
「……あれ、どういうこと?」
「何のことですか?」
「さっきの回復魔法のことよ!なんで無詠唱でパーフェクトヒールが使えるの!?回復魔法の最上級なのに……」
「そう気を落とさないでください。これもスキルのおかげなんですから」
「レオン君から話は聞いているけど、とんでもない代物ね……」
「いやー、それほどでも。それより次へ行かないんですか?」
「そうだったね。じゃあ最後にオリビアさんとカーマ君」
「「はい」」
二人が返事をして、舞台に立った。
オリビアさんが魔法使いで、カーマが槍術士だった。
「ウォーターカッター!」
先制でオリビアさんが水の刃を放った。流石は魔法使いということもあって無詠唱は出来ていた。
それをカーマは左右に動くことで避ける。
しかし、それも読まれていたのか次の魔法をすぐ放った。
「サンダーボルト」
放たれた雷がちょうどカーマの体に命中した。……すごい狙撃センスだな。心臓にドンピシャよ。
カーマは何もすることが出来ずに雷をくらってやられた。早!過去最速だな……。
「勝者オリビアさんー!これで全員終わったね。じゃあ教室に帰ろうか」
そういうことなんでと教室に帰っていく面々。
……カーマを助けてやれよ。
俺がそう思っているとアルベルトが無言でカーマの肩を貸した。さすが騎士!男らしいな。
こうして1名負傷者が出て、Sクラスの初回戦闘訓練は幕を閉じた。
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