11話 入学

 城に帰るとメイドさんに連れられて、とある部屋にやってきた。……こんなところは来たことないな。


「では、中に入ってください」


 そう言われたので俺は扉を開ける。

 するとそこには、


『学園入学おめでとう!!』


 と言われ、パーティが開催していた。

 はっきり言って何かサプライズはあるんじゃないかとは思っていたけど、まさかパーティが開かれていたとは……。


「誰かこの現状を説明してくれるとありがたいんだが?」


「それは勇者様が試験に合格なされたことを先生から魔道具で伺ったのですよ。それを陛下にお話しすると是非パーティをやりましょう!という形になったのです」


 なるほど。だけど、実際ここまでやってもらわなくてよかったと思ってる。普通におめでとうぐらいで俺は嬉しかったんだけどな。


「うわーっ!!」


 楓はめっちゃ喜んでるな。こういうところはまだ子供らしいんだよな。


「透、何か今私が不愉快なことを考えなかった?」


「え、え?何言ってるんだ?気のせいだろ」


 楓の勘の良さに驚いて思わずどもってしまった。


「本当にー?まあいいや!せっかくのパーティなんだから透も楽しみなよ!」


 そう言って俺の服の袖を掴んで、俺を連行していった。


「透は何か食べたいものはある?」


「いや、今は鬱すぎて何も食べたくない」


「まだ、引きずってるの?……いい加減機嫌直してよ」


「直してるけど鬱は治らない」


「そう。ならどこかでゆっくりしてきたら?」


「そうさせてもらうわ」


 そして俺はパーティ会場を離れ、外の空気を吸いに行くのだった。


 会場から離れ、俺は展望テラスにきていた。ここは普通に自分で見つけて、ここで星を見たら綺麗だなと思ったからだ。

 俺はテラスの縁に肘を乗せた。


「はあー」


 俺はため息をついてしまう。だがそれも仕方ないだろう。楽しみにしていた異世界生活がまさか学校に通わざるを得なくなるなんて。


「はあー」


「元気ないね」


 突然そう呼ばれた。

 俺は振り向くとそこには金髪の普段ならメイド服を着ている彼女がドレスを着て、そこに立っていた。


「メイドさん?」


「悪いけど、今は違うね。今はメイドとしての私じゃなく、王女としての私でいるんだから」


「……どういうことだ?」


「そのままの意味だよ。改めて自己紹介。私の名はルーナ=メルトリリスだよ」


 そんな名前に聞き覚えは……、待てよ、ここの国って確かメルトリリスだったような……。


「まさか王女様なのか?」


「そうだよ。やっと気づいてくれたんだね」


「いや、誰もメイドさんが王女様なんて思うわないだろ」


「ふふっ、そうだね。私を敬わずに話しかけてくれる人は家族以外貴方が初めてだよ」


「それはどーも。それよりなんでメイドをやっていたんだ?」


「それは私の趣味だよ。いつもお世話ばかりされてきたから、私もお世話をしたいと思うようになっだよ。勇者様が私が初めて仕えたご主人様だね」


 趣味かよ!そう、俺は思いながらも疑問を聞いていく。


「この事は女王陛下は知っているのか?」


「もちろん知ってるよ」


「……なら、俺がメイドを荒く扱う人物だったらどうしてたんだ?」


「もちろん、我が国と全面戦争だよ」


 よかったー!!全然手を出そうとも思っていなかった俺に感謝!


「で、王女様は俺に何の用なんだ?」


「それは、あなたとお友達になりたいと思って」


「別に友達ならいくらでもなってやるが、なぜ今なんだ?」


「私、今年からあの学園に入学するんだよ。私って王女じゃないですか。周りに気を遣わせてしまったら嫌なんだよ。それであなたと母上のお話しを見せてもらうに、あなたはそういうのにこだわらない人なんだなと思ったわけなの」


「なるほど。それで今日のパーティで友達になっておきたかったというわけか?」


「そうだね」


「でも、それなら王女様のパーティはどうしたんだ?」


 少なくとも俺たちのパーティよりかは盛大に行われているはずだ。だけどこの4日間の中で一度もそんなイベントは起きていなかった。


「私の受験はもう終わって、合格発表も出されてから勇者様が召喚されたということになるね」


「そうなのか。……それより、友達になるんだったらお互い名前で呼ぶ方がいいと思うんだが、王女様はどうだ?」


「それはいいね!ならあなたのことをトオルと呼んでいい?」


「ああ、いいぞ。じゃあ、俺もルーナと呼ばせてもらうことにするわ」


「分かったよ。そろそろパーティも終わることだし、カエデ様のところに戻ってあげて」


「ああ、そうさせてもらう。じゃあまた今度な」


「うん、また明日」


 最後はよく聞こえなかったが、まあいいや。とりあえず楓のところに向かうか。

 俺は展望テラスから会場まで戻った。流石にそこまで方向音痴ではないので戻るのに迷うことはなかった。


「あ、透!ゆっくりできた?」


「ああ、おかげさまでな。そっちはどうだった?」


「とても美味しい料理だったよ!まだあるから透も食べてきたらどう?」


「いや、いい。それよりもう眠たいから寝るな」


「うん。明日から入学だからゆっくり休んどくんだよ」


 ……。


「……は?」


「だから、明日から学校あるんだよ。そうだよねレオンさん」


「はい」


 いやいやいや!聞いてない!そんなの聞いてない!!なぜ明日から!?


「……おやすみ」


「透ー、わかってると思うけど学校来なかったらばら撒くからね」


 怖い!最近楓さんが超怖いんですけど……。腹黒さが増してきているような……。

 くそっ!せっかく起きれなかった、という言い訳をしようと考えていたのに!これじゃ寝坊もできないじゃないか!

 そう考えながら俺は扉を開け、どうにか休みめる方法を探し部屋へ帰るのだった。



「くそっ!何も思いつかない!」


 会場から出て、部屋に戻るまで色々考えては見たものの、何一つ良い案が思い浮かばなかった。

 くそうっ。結局学校には行かなくちゃないけない運命なのか!

 ああ、もういいや。考えるのがめんどくさくなってきた。


「もう寝よう」


 そうして俺は眠るのだった。


 そして朝が来た。鬱な日常が始まる。


「起きて!」


 そう言って布団を取り上げたのはルーナだった。


「……なんだよ」


「もう2時間後には入学式が始まるのよ!早く準備しなさい!」


 いつもは敬語で話していたからこんな感じで喋るのはなんだか新鮮だ。


「はいはい。それより着替えは手伝ってくれないのか?」


「え!?……それはー、その……」


 顔を赤くして、モジモジとルーナは答える。流石に男の裸を見るのは誰だって恥ずかしいと思う。


「冗談だ。着替えるから出てくれ」


「もう!トオルのいじわる!」


 なんだろう。この時のルーナって何かからかいがいがあるんだが。少しやりすぎたようだ。


「服はこれを来ていってね」


 そうして渡されたのが制服だった。紺色のブレザーにズボン、まさに制服という感じだった。

 ルーナはすでに制服に着替えてきている。


「これが学園の制服だよ」


「わざわざすまないな」


「いいよ。トオルは私のご主人様なんだし」


 そう笑顔で言ってくる。

 ……メイドさんということで、意識していなかったけどルーナって結構可愛いんだな。

 朝食をルーナと一緒に食べ終えた後、俺は制服に着替えて、楓と待ち合わせている城の門のところまで行った。


「朝からラブラブだねー!」


「違うし!」


 会うとすぐに楓が茶々を入れていきた。

 確かに友達ではあるが、そういう関係ではない。


「そんなに否定しなくてもいいと思うよ!二人はお似合いだし」


「そんなこと言われてもルーナが嫌なだけだろ」


「そんなことないよ。トオル」


「おお、もう名前で呼び合う関係だったとは。これは私が邪魔になるのかな?」


「大丈夫だ。っていうかルーナと二人だけだと周りの視線が怖い」


 主に男子たちの怨みの視線が。非リアを舐めたらダメだ!あいつらは男女が一緒に歩いているところを見ただけで怨みの視線を送ってくる奴らだからな。まあ、俺もだけどな!


「じゃあ行こうか」


「そうだね」


 結局一緒に行くことになった。

 ……ああ、途中で抜け出せないかな?非リアたちの視線を食らいたくないんだが……。


「じゃあ俺は別行動ということで……」


「ダメ!」


「そうだよ!ご主人様も一緒に来るの!」


「学園ではその呼び方はやめて。俺の身が危ないかもしれないから」


「?うん、分かったよ。トオル。……そんなことより行くよ!」


「そうだね!」


 二人に袖口を引っ張られ、俺はズルズルと引きずられながら学園に向かうのだった。

 ……俺ってこの中で一番権力が低いんだなって改めて実感した。



「ルーナ王女殿下と、勇者様がたは一旦理事長室まで行ってください」


 俺たちが学園に着き、校門の先生に呼び止められるとそう言われた。なので俺たちは理事長室へ向かった。


「なあ、あれってルーナ王女殿下だよな」


「そうだな。あー、可愛いよな!」


「もう一人の女の子も超美少女だし!」


「っていうか隣にいるパッとしないやつやつは誰なんだ?」


「ルーナたんに近づくなんて……許せん!」


 俺たちが理事長室まで向かうのにこんなことを言われた。

 ……パッとしないやつで悪かったな!

 っていうか一人ルーナのことを危ない感じで呼んでいるやつがいるし。

 まあ、とにかく逃げ出せなかったことにより、非リアの死線は受けましたということですね。


「やあ、ご苦労様。早速だけど、新入生代表挨拶よろしくね」


 そう言われ、俺の肩をポンっと叩かれた。


「……は?」


「本当はルーナ王女殿下にしてもらうつもりだったんだけど、君があんな規格外のことをしてしまうから、実力主義なこの学園は君を首席にしなくてはならなくてね」


 そんなの関係ねぇし!やるっていうんやったら昨日に言っとけよ!


「じゃあ、君たちは全員Sクラスだから。覚えといてね」


「はい!」


「挨拶頑張ってね。ご主人様!」


 笑えねー!!何?そんな無茶振りを俺にするの!?


「じゃあもうそろそろ式の時間だ。案内するからついてきなさい」


 しかも時間もない!?どうしろと?

 こうして、絶望的な状況で地獄の(透にとって)入学式が幕を開けるのだった。


 会場に着き、俺は他人の話に耳を傾ける暇もなく一生懸命挨拶のことだけを考えていた。校長の話も終わり、在校生代表の話も終わり、とうとう新入生代表の番がやってきた。

 緊張の面持ちで壇上に上がる。


「穏やかな春の訪れとともに私たちはこの入学式を迎えることができました。本日はこのような立派な式を開いていただき、ありがとうございます。

 新入生にとっては私のことを知っている人はいないと思いますが、私は異世界からやってきた勇者です」


 俺が勇者だと告げると会場がザワザワとなり、教師の人の注意が飛んだ。


「私はこの世界の勇者ですが、この世界のことについて、魔法のことについて学ぶためにこの学園に入学することになりました。こんな勇者ですが皆さんと仲良くなれたらいいと思っています。

 先生方、これから厳しいご指導のほどよろしくお願いします。もし、私たちが道を踏み外すことがあるかもしれません。その時は力を貸していただけると嬉しく思います。

 これで挨拶を終わらせていただきます。

 新入生代表 金山 透」


 俺が挨拶を終えると、万雷の拍手がなった。

 礼をし、壇上から降りていく。

 緊張したーーーーッ!!!!!

 即興でこんなの無理だと思っていたけどなんとかやれることができたな。


「カッコよかったよ」


「そうですね。一時はどうなることかと思いましたが何とか成功して何よりです」


「……みんなは気楽でいいよな。もう、終わった今でも足の震えが止まらない……」


 だって人前で基本話さないんだもん!しかも今回は4、500人ぐらいの前で。

 それから落ち着きを取り戻しているうちに式は進み、もう終わりへ近づいていた。


「これにて第125回ユーザラニア魔術学園入学式を閉会する!」


 これで地獄の入学式が終わるのだった。

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