10話 学園試験

 謁見が終わった俺は楓と歩きながら話をしていた。


「なんであそこで俺も巻き込んだ?」


「だって一人より、知っている人がいる方が楽しいでしょ」


「確かにそうだけどな。……はあ、せっかくお前が学園にいる間にスキルの練習をしようと思っていたのに」


「ごめんごめん。それより、どうやってレオンさんに会いに行ってたの?確かレオンさんって暇があれば訓練場で鍛錬していたような気がするけど……?」


 俺の今一番悩んでいることをそれよりって言われた!


「ああ、それはスキルで〈飛翔〉ってのがあったから窓から飛び出て、空を飛んでレオンのところに向かったというわけだ」


「ああ、なるほど!空から飛ぶのだったら確かに辻褄が合うね。そこからだったら部屋の外で待っているメイドさんに見られずに外へ行けるし」


「さすが名探偵。こんなのは朝飯前ですか」


「そんなことないよー。それよりスキルって便利だね」


「そうだな。何度この力に助けられたことか」


「そうだね」


「……っておい!楓、この世界に来てからほとんどまともに戦闘したことないだろ!」


「バレた?」


「バレるわ!」


「じゃあ、透が私を守ってくれる?」


「……」


 腕を後ろに回して楓かそう聞いてくる。

 やべ、不覚にもドキッとしてしまって質問に答えられなかった。


「危なかったらいつでも守ってやるよ」


 それが、俺が言いたかった言葉だったのだと思う。たとえ恋人にはなれなかったとしても、こいつを守ってやりたいという気持ちに嘘はない。


「……」


「どうした?」


「透もたまにはカッコいいこと言うんだなって思って」


「たまには余計だ!」


「あはは!じゃあもう部屋についたから。おやすみ」


 もうついていたのか。話に集中しすぎて周りを見れてなかった。……見れていても迷ってしまうが。


「ああ、おやすみ」


 そして部屋に戻り安定のごとくダイブすると夕食を食べ損ねることも忘れて眠りについた。


 そして朝が来た。そして俺は今猛烈に腹が減っている。なぜなら夕食を食べ損ねたからだ!……自慢することではないけどな。


「メイドさん、いる?」


 俺は起きて早々に着替えたメイドさんを呼んだ。


「はーい、昨日はよくもやってくれましたね、勇者様」


「いやー、あれは仕方のなかったことですよ」


「どこがですか!ずっと待っていたんですよ!」


「おう、それはお疲れさん。それよりお腹すいたから朝食プリーズ」


「これは全く反省していませんね。なら勇者様の朝食は抜きです」


「すみません!私が悪かったです!なのでどうか朝食はください!」


 流石に勇者でも飯を抜かれたら死ぬ!


「……分かりました。これからは嫌でもしっかり伝えてくださいね。心配したんですから」


 ……それは悪いことをしたな。心配してくれたのか。


「朝食をお持ちしました」


 そこに給仕の人が朝食を持ってきた。

 ……だからタイミング良すぎだろ!張ってたのか?それとも偶然そうだったのか?流石七不思議。俺が考えたところで見当もつかないぜ……。


「ありがとうございます。では勇者様、朝食を食べ終えたら、訓練場まで来てください。そこに騎士団長がお待ちです」


「分かったよ。ありがとうな」


「どういたしまして」


 俺はメイドさんにお礼を言うと、空かせていた腹に朝食を取り込んだのだった。


 朝食後、俺は訓練場に来ていた。


「で、レオン。何のようなんだ?」


「ああ、それは勇者様が欲しいとおっしゃられていたドラゴンを倉庫に用意してあるので取りに来て欲しいということなんです」


「あー、なるほど」


 もう渡せるのか。俺は短く見積もって3日はかかると思ってたんだけどな。


「そういや、楓は?」


「まだですね」


「あいつが俺より先に来ないなんて珍しいな」


「基本楓様の方が先に到着されておられますからね」


「あいつは俺よりだいぶマシしっかりしているからな」


「それは褒め言葉としてもありがたく受け取っておくことにするね」


 俺とレオンが話しているところに着いた楓が話に割り込んできた。


「おう、おはよう」


「おはよう。それで何でここなの?」


「それはさっき透様にも聞かれましたが……」


 そうしてレオンは俺に話したことを楓にも話す。


「なるほどねー。確かに受け渡しだけするのだったらそんなに時間はいらないからね」


「で、受け取りが終わり次第勇者様には学園に行ってもらって簡単な入学試験を受けてもらいます」


 ……え!それ初耳なんだけど!


「今日なんですか?」


「予定の都合上今日じゃないとダメなのだそうです」


「分かりました。絶対受かろうね!」


「……落ちたい」


「そんなこと言わないで、透も頑張ってね!」


 まあ、落ちたら黒歴史ばら撒かれそうだし普通にやるか。


「では揃ったことですし倉庫に案内します」


 そう言ってレオンと歩くこと30分。城を出て、商店エリアにある大きな倉庫にたどり着いた。


「長い!」


 長すぎる!そんなにかかるとは思ってねぇよ!


「確かに。でもドラゴンの死体なんて王城に持ち込めるわけないし、かといって貴族エリアに保管も出来ないし、商店エリアしか保管できるところが無かったんじゃない?」


「その通りです。楓様」


「まあ、別にいいんだけど」


 これは転移魔法を後々出来るか試しとかないと。わざわざ商店エリアに来るのに30分もかかるのはしんどすぎる。


「こちらがドラゴン五体です」


 倉庫に入り、そう言われてドラゴンを見ると結構デカかった。体長20メートルぐらいの大きさで、デカイ倉庫にも重ねて置くことしか出来ないほど大きかった。


「じゃあ試してみるとするか」


 俺はアイテムボックスの入れる場所の幅を広げ、ドラゴンを持ち前のパワーで持っては投げ、を繰り返した。

 結果、ドラゴン五体の死体は余裕で入った。まだまだ入りそうだな。


「よし、これで終わりだな。……ん?どうした?」


「……勇者様が規格外というのは身に染みて分かりました」


「え!?俺ってそんなに規格外なのか?」


「そうですよ!成竜の群れを魔法で1発で倒せる時点で察してください。それと、アイテムボックスは普通そんなに入りません」


 へー、そうなんだ。まあ、それでも自重とかする気ないけどね。

 え?自重?なにそれ美味しいの?


「で、学園の試験っていうのはいつ始まるんだ?」


「ああ、それはここの用事が済んだら来てくれと頼まれました」


「わかった。ならもう向かうか」


「そうだね」


「分かりました。では行きましょうか」


 そういうことで、俺は国内最大級の学園の試験を受けに行くのだった。



「えーっと、君たちが勇者様で合ってるのかな?レオン君」


 俺たちは学園に着いてから理事長室というところに向かった。そこに来いと言われていたそうだ。


「はい。そうですよ、先生」


 先生、ということはこの人はレオンの昔の先生だったんだな。見た目若いから全然そうは見えないけど。エルフってやっぱり長寿なのかな?


「よろしくお願いします!」


「よろしくお願いします……」


 誰が見ても分かる通り、上のか楓で、下が俺だ。あまりやる気になれないのが見てとれる。


「そこ!男ならシャキッとしなさい!」


 早速怒られました。でも学校なんてめんどくさいし。無理矢理来いって言われて行きたいやつなんてそういないと思うぞ。


「はい、本題に戻るけど、これから簡単な試験を行います。着いてきてください」


 そう言われて着いて行くとそこにはどデカイ訓練場があった。

 ……これ、ここの訓練場だけでも普通の学校のグラウンド並みにはあるんだけど。

 これにどれだけお金をかけたのか知りたくもない……。


「じゃあここで、自分が最も得意とする魔法を1つ撃ってちょうだい。ああ、ここには特殊な結界が張られているので、全力でやっても問題ないわ」


 うーん、なんでもいいのか。なら、派手に行こうぜ!


(水蒸気爆発を起こすための魔法を使いたい)


〈スキル検索開始……合致スキル3件表示します〉


 そこに出たのは〈水魔法〉と〈炎魔法〉と〈土魔法〉の三つだった。使用方法は土のボールのようなものを作って、その中に水魔法で水を満タンにし、そこに炎魔法で炎をぶち込むと、完成だそうだ。

 というわけで試してみよう!

 土魔法でボールを作り、水魔法でその中に水を入れ、さらにそこから炎魔法に魔力を出来るだけ込め、放った。

 すると、


 ドゴーーーーーーン!!!!!!


 と強烈な爆発音と爆風を発生させた。


「うっ!」


「「きゃああーーー!!」」


 俺たちは爆風に襲われ、悲鳴を上げてしまう。


「痛たっ。……一体なにが起こったというの?……これは!!」


 煙が晴れ辺りが確認出来るようになるとそこには巨大なクレーターといたるところに焼け焦げている跡が見えた。


「透!やりすぎだよ!」


「すまんすまん。……まさかこれほど威力が強くなるとは思ってなかったわ」


「もう!水蒸気爆発をするのは流石の私も想定外だったよ!」


「俺もふとそんなことが出来るかなと思ってやってみたら、普通にいけただけのことだ」


「……あなた今何したの?」


 理事長さんがそう聞いてきた。


「何って……水蒸気爆発?」


「そこで私に振らないでよ……」


「まあ、そういう現象を意図的に起こしたということですね」


「規格外と聞かされていましたが、まさかこれほどとは……。では次にあなた、お願いします」


 そう言われて、楓も試験を受けた。楓は普通に水魔法で槍のようなものを撃った。ただし数が尋常じゃないほど多かったな。


「……二人とも合格です。詳しい説明は後に行いますので今日は帰ってもらって構いません。お疲れ様でした」


「「ありがとうございました」」


 こうして試験の結果は合格となった。


(はあ、落ちれば良かったのに。全力でやったのなら楓も文句は言わないだろうと思ってやったのがやりすぎだよようだ……。あー、鬱だ)


 合格なのに鬱な俺はトボトボ帰っていった。

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