9話 褒賞授与
やっとの思いで帰ってきた俺は疲れた体に鞭を打ち、最後の頑張りでベッドまで到達した。
魔法1発撃ったぐらいでそんなに疲れるわけないだろうって?ないない。確かに魔力超回復を使えばある程度はマシになるかもしれないけど、それでも枯渇状態まで行くと、倦怠感が残るんだよ!
トルリオンを作っときだって、深夜テンションでそんなこと気にしてなかったから良かったものの、今はそんなことないからだいぶしんどく感じている。
「……ああ、もう寝よう……」
そう言い、俺の意識は暗闇の中に落ちていった。
「………い。……ください。起きてください!」
デジャヴ。こんなこと前にもあったような。ええそうです。昨日もこんな感じで起こされました。
「あー、はいはい。起きますから。そんな大声で叫ばないでください」
「貴方が悪いんです!……ちょっと!もう一回寝ようとしないでください!」
ちぇ、バレたか。この調子で次の作戦に行こう。
「あと五分。五分だけ寝かせてー」
「ダメです!陛下がお待ちなんですから急いで支度しでください!」
そういえば、後で謁見があるとか言っていたような……。しゃあない。行くか。
「着替えはするのか?」
「当たり前です!そんなだらしない格好で陛下に合わせるわけにはいきません。勇者様にはこれに着替えてもらいます」
そう言って差し出されたのが格式高い場所で着るような礼服だった。
「えー。堅苦しい。却下」
「出来ません!ちゃんと手伝ってあげますから!」
「何さらっと人の着替えを手伝おうとしてるんだ!」
「いや、それでも礼服の着方が分からないかもしれないし」
「いいから出てけえええええ!」
そしてこれまたデジャヴ。俺はメイドを追い出した。
「んー、どうすっかなー」
堅苦しい礼服などは着たくないし、やっぱり来る時に来ていた制服が俺には一番合っていると思う。
この世界の服は嫌いじゃないんだけど、やっぱり地球産っていうのが良いんだよね。異世界と比べて全般的に質がいい。
なので制服を着ていこうと思うんだが、それをあのメイドは許しはしないだろう。という訳で窓から出ようと思う。そこで必要になるのが空を飛ぶ、もしくは重量を少なくして、着地の時の衝撃を抑えるかのニ択になった。
だけどやっぱり空を飛ぶというのには憧れるものがあり、結局空を飛ぶ方法を探すことにした。
〈スキル検索開始……合致スキル1件。表示します〉
そう頭の中で声が響き、光の板に出てきたスキルが〈飛翔〉という名のスキルだった。
……俺は今、スキルがあれば普通に空を飛べることに対して、驚きを感じている。
まあいいや、飛翔のスキル説明としてはこうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<飛翔>
風の力を使い自身の体を浮遊、もしくは飛行することができる。風魔法でも似たようなことが出来るが、そっちは相当な修練が必要で、こっちにはスキルさえあれば簡単に飛べる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と書かれていた。
……はっきり言ってこれってスキルがあったもん勝ちだよね。簡単に飛べるって風魔法で頑張って練習した人の気持ちを考えてあげて!
使用方法に関してはいつもと同じだった。
「まあ、いいや。これでやっと準備が出来た」
俺は窓を開けて、キッチリ窓は閉める。俺は今、窓の縁に立ったている状態だ。
「綺麗だな……」
俺は外の景色を眺めながらそう呟く。
そろそろ行かないと気づかれると面倒だからな。
「よし、〈飛翔〉」
すると体に羽が生えたように簡単に空へ飛び立つことが出来た。
「すげええええええ!!」
俺は急降下しながらそう叫ぶ。地面に近づくと、方向転換して、超低空飛行のように地面スレスレを飛んでいた。
俺が今から向かうところは騎士団の訓練所だ。そこにレオンがいるはずだから謁見の間まで案内してもらおう思ったのだ。
え?訓練場の場所をなんで知っているんだって?そんなの庭に行った時に通ったからに決まってるだろ。
そんなこんなで俺は騎士団の訓練場にいた。あ、レオンは明かりがついている中で鍛錬に励んでいた。
……おい、そんなんで女王陛下の護衛はいいのかよ。まあ、ここにいるっていうことは大丈夫なんだろうけど。
「おーい、レオン」
「あれ、勇者様?謁見の間に向かわれたのでは?」
「礼服が嫌で部屋から逃げてきた。というわけで道案内よろしく!」
「え?まあいいんですが、メイドにはちゃんと言ったんですか?」
「言ってない。だってそうじゃないと確実にあの堅苦しい礼服を着させられるから」
「……はあ、怒られるのは勇者様だけにしてくださいね。案内しますよ」
「あざっす」
そんなこんなで俺は謁見の間に案内してもらうことになった(させた)。俺ここの城広すぎて、どこがどこだか覚えてないんだもん。
地図は見せてもらったんだけど、そんなん一回読んだだけで理解できるのは天才な楓だけだろ。
すいすいとレオンは迷うことなく進み、五分後、謁見の間に到着した。
「あ、やっと着いたんだね」
俺は楓も礼服姿なのだと思っていた。だが現状は豪華なドレスだった。酷いと思うの!これこそ男女差別。俺だけ礼服なんておかしいと思う!
「楓はドレス姿なんだな」
「透は……ふむふむ。礼服を渡されたけど、堅苦しいのが嫌いな透は制服を着て逃げ出して、レオンさんのところ行って案内を頼んだ。……だいたいこんなところかな?どうやってレオンさんに会ったのかは分からないけど」
「うわー、だからエスパーか?」
高校生名探偵並みの優れた洞察力推理力だな。スキルで空を飛んだこと以外全てバレてる。
「エスパーじゃないよ!もう、透が分かりやすいだけなんだからね」
いや、それでも服を見ただけで俺の行動が一瞬にして理解できるなんて、流石だな。
「そろそろです。準備をお願いします」
「もう出来てるよ」
「こっちも」
「では、参りましょうか」
『勇者様と騎士団団長のおなーりー!!』
うわっ、ものすごい大声だな。何人で出してるんだ?
扉が開けられ、そこには左右にズラリと並ぶ騎士達とその奥に女王陛下とその周りに召喚の時もいた大臣っぽい人もいた。
俺たちは騎士の間を進み、女王陛下の前まで来た。
「よくぞお越しになりました勇者様。この度はドラゴン討伐誠に感謝しております」
女王陛下は俺に頭を下げた。このことに家臣達が騒ぎ出す。
「陛下!こんな奴に頭を下げる必要などありません!」
「そうですぞ!」
酷い言われようだな。まあ、俺も頭を下げられるとは思ってなかったけれど。
「お黙りなさい!!」
女王陛下は一喝で周りの大臣どもを黙らせた。うおー、怖え……。この世には逆らってはいけない人がいるということを改めて思い知らされた瞬間である。
「勇者様は絶望的な状況にあったこの国を救ってくれたのですよ!そんな方に恩を仇で返すような真似はこの私が許しません!」
まさに圧巻。彼女の一言でこの全ての場が支配されたような、そんな感覚に陥った。これが鶴の一声みたいな感じか。初めて見た。
「では本題に入らせていただきますね」
「……あ、ああ。どうぞ」
「では報酬の話をしましょう。今回ドラゴン討伐によるドラゴンの所有権は勇者様にあります。ドラゴンはどうしますか?」
んー、そうだなー。売っても良いんだけど後で何か欲しいものができるかもしれないからなー。
「なら、5体だけ譲って貰えますか?」
「……いいですが、どうするのですか?」
「アイテムボックスに入れるんです」
「そんなに容量があるのですか!?」
「んー、やったことがないから分からないけど、多分できると思いますよ」
「……分かりました。では残りのドラゴンは売却でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「では後日、報酬は用意するとしましょう。5体のドラゴンについてはレオンに案内してもらってください」
「分かりました」
「では次に褒賞の話に入らせてもらいます」
褒賞かー。はっきり言ってドラゴンを売れる事だけで俺としては満足なんだけどな。
「何か欲しいものはありますか?この国が用意できるのであればなんでもOKです」
「俺はとくにいらないかなー、楓は何か欲しいのある?」
「私は学園に入学してみたい!」
「というわけで楓の願いは聞き届けてくれるのか?」
「透様は……?」
「俺はいらない。ドラゴンの素材の金だけで満足だ。だから代わりに楓の願いを叶えてやってくれ」
「え?何言ってるの?透も一緒に行くんだよ?」
「嫌だよ!なんで異世界に来てまで学校に行かなくちゃ行けないんだよ!」
「えー、だめ?」
くっ、こいつ!上目遣いでお願いを仕掛けてきた!並の男なら1発だが俺は負けない!
「ダメだ!
「えー、じゃないと透の黒歴史をここで公言するけどいいの?」
なん……だと!こいつ、前世のことを引き合いに出してきやがった!卑怯すぎる!こんな腹黒だったなんて……。
「くそっ、わかったよ行けばいいんだろ行けば!はぁ、鬱になる」
「やった!」
「決まったようですね。この私サラ=メルトリリスの名において勇者様を国立学園ユーザラニア魔術学校に入学させることを約束します」
こうして学園の入学が決まり、俺は鬱な気分で謁見を終えるのだった。
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