5話 初依頼
ギルドマスターの部屋から飛び出したレオンと、追いかけた透たちは依頼ボードの前に立っていた。
「どんな依頼を受けたらいいかな?レオンさん」
「初依頼ということなので、外の景色を知ってもらいたいので、簡単な常時依頼の薬草採取などがいいと思います」
「ならそれにするか」
俺は薬草採取の依頼の紙を剥がし、受付に持っていった。
「キリア草10個の依頼ですね。ではギルドカードの提出をお願いします」
そう言われたので俺と楓のギルドカードを渡した。レオンのを出さなかったのは、
「この依頼は勇者様の初依頼。基本私は何もしませんのでそのポイントを私が貰うのは不公平でしょう」
と言われたからだ。
「これで依頼は受諾したことになりました。頑張ってください」
「「はい!」」
「終わったようですね。なら行きましょうか」
こうして俺たちの初めての依頼が始まった。
ギルドから出た俺たちは街をさらーっと見てから門の方まで行った。門に関してはギルドカードを出したらすぐに通ることが出来た。
「「うわー!」」
本日2度目の感嘆だ。
外の景色はまるでアルプスみたいに綺麗だった。辺り一面草木で覆われ、山の頂上には少しまだ取れていない雪が積もっていた。
まさに神秘的な光景である。日本ではこんな景色なかなか見られないだろう。
「なんかピクニックしたい気分になるよね」
「そうだなー。また今度、暇な時にピクニックでもするか?」
「いいね!それよりキリア草ってどこで手に入れるんだろう?」
「ああ、それはここから東のミトラ森林でよく取れますよ」
俺たちから東、もとい左方向のでっかい森を指差してレオンは言った。
レオンの話によるとミトラ森林にはいろいろな動植物が生息しており、魔物も出現する森である。森の浅いところには弱い魔物しか出ないから冒険者の経験を積むのもこのミトラ森林がうってつけなのだそうだ。
「うわー!こんな大きな森に入るなんていつぶりだろう?」
「少なくとも俺はこんな森には入ったことないな」
だって都会っ子だもん!近くに森なんて無かったんだよ!
「じゃあ行きましょうか。この辺りは魔物も生息するので十分注意してくださいね」
「「はい!」」
レオンと一緒に森の中へと進むと視界の明るさが3段階ぐらい下がった。……森ってこんな暗いところだったんだな。
「あ、あった。あれがキリア草です」
レオンが手に取ったキリア草は黄色い花で緑の葉の、まるでタンポポのような花だった。……これは薬に使われるのか?まあ、地球でもタンポポの葉を使った薬とかあるらしいし、使われるんだろう。
「よし、じゃあいろいろ集めるか!」
「これから手分けして動く?」
「ならレオンは楓についてやってくれ。俺は自分でなんとかするから」
「わかった。頑張ってね」
「何を頑張るのかよく分からないが、その言葉はありがたく受け取らせてもらうわ」
「ふふっ、行こうレオンさん」
「はい」
楓はレオンを連れて俺とは違う方へ向かった。
「よし、俺もやるか!」
そう気合いを入れて俺は似たようなものを見かけたら即座にアイテムボックスに詰め込んでいく。
俺が詰めているとガサガサと音がして1匹の亜人のような、貧相な格好をしている者と出会った。そう。ゴブリンである。
俺は異世界で初めて魔物とエンカウントした。
ゴブリンを見た俺は即座にアイテムボックスからトルリオンを取り出し構える。
……ん?あれ?ゴブリンってこんなに遅いのか?のっそり歩いてくると剣を振り回してくる。俺はそれを普通に避ける。これなら誰だって勝てるだろ。もしかしてこいつは病弱体質であまり動き辛いのかもしれない。
まあ、魔物ということで容赦はいらないだろう。
ザシュ!と、俺はゴブリンを文字通り一刀両断した。明らかなオーバーキルだ。
いやー、すごいね!さすが神剣。なんの抵抗もなく切れたぞ。ある意味怖い。
どこを持って帰ればいいのか分からないからアイテムボックスの中に突っ込んでおいた。マジ便利!アイテムボックス!
「アクシデントもあったけど再開再開っと」
そしてまたキリア草の採取を始めようとすると、
ゴブリンAが現れた。
ゴブリンBが現れた。
ゴブリンCが現れた。
etc.
と、ゴブリンがわんさか現れました!もう見えるだけで50匹以上!俺の眼前にひしめいています!
さらに奥に王冠やらなんやら被ってる太いゴブリンもいました!
俺の邪魔をする奴は全員皆殺しじゃー!血祭りにあげたるぜ!ヒヒヒッ!
俺はトルリオンを取り出し襲いかかってくるゴブリンどもを例外なく一刀両断していった。
「グキャッ!」
と気持ち悪い悲鳴をあげながら死んでいく。
残り10匹ぐらいになったのでもう詰めようと思う。
俺が突っ込んでいって斬撃が見えてないのか全然対処できていなかったゴブリンどもは俺に蹴散らされた。そして残りはキングだけになった。
え?彼の様子は?もちろん仲間をやられて激おこプンプン丸みたいに切れてますねー。
冷静に解説しながらもゴブリンの数倍早くなった棍棒による攻撃を避ける。
俺があえて棍棒とトルリオンで鍔迫り合いをしようとすると、棍棒の方が耐え切れずキングの武器はあっけなく真っ二つになった。
「あばよ、キング」
「グオオオオオオオ!」
最後の足掻きで俺に殴りを仕掛けてくるがもう遅い。俺はキングの首を切り落とした。
「うわー」
改めてゴブリンどもの死体を見てみるとなかなかにグロい。モザイクとかかかってないし。
グロ系映画を見ていて耐性がついていた俺ならばともかくそうでない奴は今日の朝食が全て出るんじゃないか?外に。
そんなのを俺はあまり見たくもないのでさっさとアイテムボックスにしまっとくか。
片付けが終わり、ようやく、やうやく!採取を続行することができた。
そして三時間後、あらかた集め終わった俺は元来た道を通って森の外に出た。
「うわっ!」
眩しい!こんなに視界が暗いのに慣れると眩しく感じるんだな。1週間部屋から出なかった引きこもりのような気分だぜ。
「遅い!」
楓は起こっていた。何か、怒らずようなことしたっけな……?まあ、本人が遅いと言ったのだから俺が戻ってくるのが遅すぎたということだろう。
「悪い悪い、ちょっといろんなことやってたら遅くなっちまった」
「もう!もうお昼回ってるよ!せっかくレオンさんが街を案内してくれるって言ってくれてるのに」
「はいはい、私が悪うございました」
ゴツンッ!!
俺は楓にゲンコツを食らった。……痛い。
「反省してないでしょ!ほら!迷惑かけたんだからレオンさんにもちゃんと謝りなさい!」
「へいへい。ごめんなレオン。わざわざ待っていてくれて」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりお腹が空いたのでは?早く街に戻って依頼の完了を済ませてから私イチオシの店に案内しましょう」
「わあ!ありがとうございます、レオンさん!」
「いえいえ」
「じゃあ早く街へ戻ろうぜ」
「そうだね」
俺たちは空腹に耐えながら街へ向かった。
街へ入り冒険者ギルドで依頼完了の報告をしに行った。
「キリア草の提出をお願いします」
そう言われたのでアイテムボックスの機能で特定の物を取り出せるというものを使ってキリア草だけをまるでポケットから取り出したようにした。アイテムボックス持ちだとバレたら意外と面倒なことになりそうだし。……適当に取っていたのに以外とあったな。ざっとみ100本以上ある。
楓の方は俺より多いくらいか。まあ、そりゃこの世界のプロフェッショナルがいるからな。これであんまりだったら逆に困る。
「……多いですね」
「森にたくさん生えてましたから」
「では報酬に移ります。キリア草10本の依頼で銅貨60枚、あなたたちが持ってきたキリア草の数は1、2、3、……はい、248本ありましたので10本差し引いて238本1枚を5枚で引き取らせてもらいますので計……」
「合わせて銅貨1250枚ですね」
楓がすかさず答える。さすが天才。このくらいの暗算は秒ですか。
「は、はい。銅貨1250枚は銀貨125枚です。ご確認ください」
俺は渡された袋の中身にしっかりとお金が入っているか確認した。
「大丈夫ですね」
「わかりました。今回の依頼のポイントをつけたいのでカードの提出をお願いします」
俺たちはカードを渡す。すると受付の人が何やらハンコのようなものをカードに押した。あれが依頼完了のサインか。
「あの……、つかぬことをお伺いしますが、今日ゴブリンを討伐しましたか?」
「あ、はい」
「すみません。ギルドマスターを呼んでくるので少々お待ちいただけますか?」
「あ、はい」
それだけしか答えることができなかった。
「ちょっとゴブリンなんていつ倒したのよ」
「そんなの森で俺が1人の時に決まってるだろ。結構うざかったんだからな」
「お待たせしました!ギルドマスターがお呼びです!」
「あ、はい」
こうして俺たちは本日2度目のガルドさんの部屋に入った。
「やってくれたね。勇者君」
「何のことですか?」
「ゴブリンキングの討伐だよ」
あ、あいつやっぱりキングだったんだ。
「やったらダメでした?」
「いや、そんなことはないよ。むしろよくやってくれたと思ってる。実物を見たいからどこでやったか教えてくれる?」
「ここにありますけど」
「「「ん?」」」
いや、全員で聞き返さなくても……
「いや、アイテムボックスがあるんでそれに全部死体は突っ込んでますよ」
「……まあいいや、とりあえず実物を見たいから付いてきてくれる?」
そう言われてやってきたのが体育館ぐらいの倉庫である。
「じゃあ出してくれる?」
「分かりました」
俺はゴブリンどもの死体を1匹ずつ放り投げていったら結構死体が積み上がった。
「これで全部ですね」
「これ、どうやってやったんだい?こんな綺麗に肉が引き裂かれているのなんて久しぶりに見たよ」
「企業秘密です」
「まあ、いいや。買取は本日中に済ますから明日ぐらいにお金を取りに来て。その様子だと、お昼まだ食べてないんでしょ。レオン。ちゃんと案内してあげてね」
「貴様に言われずともわかってるわ!じゃあ行こうか勇者様」
依頼の完了がようやく終わった。多少アクシデントがあったもののそこまで時間はかからなかった。
ようやく飯の時間だ!レオンのイチオシのお店。楽しみだな!
俺はどんな料理なのか期待に胸を膨らますのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます