二年生の夏 ~美しい月 前編~

6月の暑い日だった。

昼休みの時間。昼食を終え、いつもの通り和樹と駿と3人で東塔と西塔を繋ぐ校舎間の屋外渡り廊下の日陰で横になり、無駄話をする。


「あちー…」

「かき氷くいてー…」

「梅雨はねぇのか!梅雨は!」


 天気や季節に愚痴を言うなんて意味がないが、それこそ無駄話の醍醐味だ。

校舎の西棟と東棟を繋ぐこの屋外渡り廊下は4階建て校舎の3階に2か所存在し、二年生が利用する2階の室内渡り廊下の上の屋根部分を渡り廊下にしたもので、基本的に3階に教室がある三年生のみが使う。というか使える。だが今日は3年生は幸いにも校外学習に行っており不在だ。

 

 そのため、今日は二年生が使うことができている。

まぁそもそも暑い日差しがある中でわざわざ外で昼食をとっている時点で、先輩がいない事を良い事に、いわゆる「調子に乗っている」事は間違いないが。


「キャッチボールしようぜ!」


突然寝転がっていた駿が立ち上がり、謎の提案がはじまった。


「いや、ボールねぇじゃん。」


和樹の正論に対し、ニカッと駿が笑う。


「このペットボトル!これでやろうぜ!」


 さっき自販機で購入した500mlの炭酸飲料のボトルだ。三人で三角形になり、これでキャッチボールをしようとなったのだ。

暑い日にわざわざ体を動かしてやる事でも無いが、何故か俺たちは賛成し、全員でボトルを投げていった。何周かふざけながらも投げ合いをした後、和樹が突然、


「魔球カーブっ!」


そういいながら明らかに変な回転をさせてボトルを投げてきた。


「ちょっ…!」


 俺はボトルをつかみ損ね、手から滑ったボトルはそのまま校舎の3階トイレのガラスに当たった。

ガシャーンという音と共に校舎の2階にいる生徒の驚きの悲鳴が聞こえる。

ヤラカシタ…。

本当ならばそのまま逃げてしまおうかと思ったが、音と共にクラスメイトがこちらを見ている。ごまかしはききそうにない…。

 俺達は素直に先生に報告に行く事にした。 幸いケガ人はいなかったが、俺たちは生徒指導の先生を中心にかなり叱られた。

親にも連絡が行ったようで、ガラス代の修理費を3人で折半。

それと各々罰則を与えられた。


 罰則とは、6月下旬のプール開き前にプール清掃をすることだ。例年先生達が行っているが、今回は代わりに俺達が行うことになったのだ。

もちろん断ることはできない。

しかも、学校の休みの日の作業になってしまった。最悪だ。


「お前の訳わかんない投げ方でこうなったんだからな。」

「取れなかった陽太だって悪いだろ!」

「てか、そもそも駿がやろうとか言うからじゃん。」


 不満を言いながらも、やるしかないこの状況を受け入れるしかない。

俺達は今週の土曜日。朝9時に学校で待ち合わせし、プール清掃をする予定にした。




 土曜日。

 バイクのエンジン音を鳴らし、和樹の家へ向かう。

まだ9時前にも関わらず気温は30度近くまで上がっている。

和樹の家まではバイクでも10分とかからない距離だ

家の前に着き、バイクに跨ったまま玄関先に立っている和樹と合流する。


「おす!今日もあちいな~。」

「ほんとだよ。ほら、ヘルメット。」


そう言ってヘルメットを和樹に渡すと手慣れた様子で被り、後ろに跨った。


「んじゃあ、母ちゃんいってきます!」

「陽太、お願いね!二人とも気をつけなさいよ!」

「ああ、おばさん!いってきます!」

「おばさんじゃない!お姉さん!」


 和樹のお母さんとは小さいときからの付き合いだ。学校がバイク通学禁止なのも知っているが、そこら辺をあまり気にしない所が和樹と通じている。

和樹を後ろに乗せて学校へ向かうが、桜高は無論バイク通学は禁止で、むしろ自動二輪の免許などもっての他だ。

なので、花見坂駅の駐輪所に停めて、そこから歩いて学校へ向かおうと二人で話していた。


バイクを走らせていると、途中の信号で和樹が話しかけてきた。


「そういえばさ、陽太は駿のメール見た?」

「え?見てないよ。何したの?」

「熱あんだって!今日はいけないってさ。」


話を聞くと、何やら夏風邪で熱があるらしく、今日は作業できないとの事だ。手寧に体温計の写メまで送ってきたらしい。


「まじかよ!あいつ発端じゃん!」

「まじふざけているよな!早く遊び行きたいからさっさと終わらせようぜ。」


 バイクを駅の駐輪所に停めて、そこから歩いて学校へ向かう。

まだ朝なのにもかかわらず、少し涼しい風はあるものの、暑く熱せられたアスファルトから熱気が上がって来る。早くも汗をかきだしていた。


 文句を言いながらも、坂道の並木道に差しかかると両側から蝉の鳴き声が大きく響いている。木漏れ日が漏れる程度の木のトンネルが日差しを遮り、涼しげな風と蝉の鳴き声で夏を感じる。

そうこうしているうちに学校へ到着した。


昨日の放課後のうちに水を抜いていたので、プールの水は無くなっているだろう。面倒だがやるしかない。

 

 和樹と二人で早速プールへ向かう。

水は予想通り抜けており、プールの底にはコケや藻が生えたり、ゴミや木の葉が所々落ちている。

ゴミは手で取り、プールの底や壁をデッキブラシやスポンジで擦る。

ワイシャツの前を開け、腕まくりをし、ズボンを捲り上げ裸足で少しだけ水の入ったプールへ入る。足首まで浸かっただけでもだいぶ涼しい。


「うわっ!ちょっと気持ちよくない?」

「ちょっとテンションあがるな!よしっ!そっこー終わらせっぞ!」


 デッキブラシで擦りながら汚れを落としていく。途中カーリングごっこだなんだとふざけながら作業を進めていく。掃除は思ったよりはかどり、午前中でキレイな青色のプールの壁全面と底が一部分キレイになって、本来の色を見せている。


「あー気づきたらもう昼じゃん!陽太、昼飯どうする?」

「あー。俺コンビニ行くわ。」


 プールから上がり、足をタオルで拭いてローファーを履き、二人で学校近くのコンビニへ向かう。休日だが、午前と午後を跨ぎ部活をし、昼食を買いに来ている生徒達で店内はごった返している。

 クラスメイトや友人に挨拶をし、ガラスを割っての罰だということをバカにしてくる奴もいる。

1リットルのレモン味の紙パックジュースとコロッケの入った惣菜パンにから揚げ串を購入しようと売り場に並んでいると後ろから誰かに肩を指で突かれた。


「ん?」

「陽太くん!」


そこにはワイシャツ姿に薄紫の財布を持ち、髪をポニーテールに結んだ美月が並んでいた。


「み、美月?どうしたの?部活?」


思わず声が上ずり、後ずさりしてしまう。


「うんっ!今日は今書いている絵の仕上げに来てたの。すぐ終わりそうなんだけど、一応お昼買っとこうと思って。陽太くんは…例のやつ?」


そう言いながら少し笑い、目元をくしゃりと細めている、


「いやー、プール掃除まじめんどくせぇよ。」

「大変そうだよね。今日暑いし…。」


 話をしながら美月が買っているものを横目で見てしまう。

玉子とハムのサンドイッチと500ml紙パックのミルクティー。ゆず味のゼリーを持っている。たかだか昼食の内容に心がドキドキするくらい可愛らしい。


「こんなに暑いのに大変だね…。熱中症とか気を付けてね?手伝ってあげれたら良いんだけど…」

「え?俺の手伝いを?…なんで?」

「え?なんでって、大変そうだからさ。」

「清掃が?ってこと?」


ダメだ、また確認してしまう。落ち着け落ち着け。素直に受け入れよう。


「あ、ごめん!うん、ありがとう。美月って優しいよな。俺も出来ることなら、美月と掃除したいよ…」

「そうなのー?」


 冗談に聞こえてくれてれば良いが、余計なことまで言ってしまった。

美月はニヤケながら顔を覗いてくる。


「いや、できることならね!人が多い方が捗りそうで!」

「なるほどねっ!でもなんか楽しそうだよね!プール掃除なんて青春て感じ!」


純粋な笑顔の美月を見ているとこちらも嬉しくなってくる。


「あんな青春もんとは実際違うよ。疲れるだけ!」


レジに商品を出し、店員へ支払いをする。

袋の中身を確認するふりをしながら美月の会計が終わるまで少しコンビニの入り口で時間を稼ぎ、一緒に校舎へ戻ろうとしていると、


「みづー!早く!」

「あ、優里!ちょっと待って!」


優里と一緒だったのか…。

優里は美術部じゃないのによく美月の手伝いをしている。

というかただ美術室へ行き涼んでいる様だ。

美術室には絵画や美術品の保存状態の保持の関係で冷房が完備されている。

今日も美月と部活後に遊びに行くのだろう。本当に仲が良い二人だ。


今回は出る幕無しか、と思いながらコンビニを出ると和樹が優里に気づく。


「あ、優里じゃん。何しに来たの?」

「美月の手伝い!」

「手伝いってか、しゃべってるだけじゃんか!」

「あ、んじゃあ良かったら昼飯一緒に食わない?陽太もいるし4人で!」


和樹…お前は部活でもそうだが完璧なアシストをしてくれる。あとはゴールへドリブルするだけだ。

今はあのペットボトルノーコン野郎も神仏の類に見えてくる。


「陽太も良いっしょ?」

「え、俺?…美月にも聞いてみないとさ」

「美月も良いよね?」

「うん!全然良いよ!」

「んじゃあ決まり!美術室で食べよう!涼めるし!」

「和樹それが目当てだったんじゃないの!」


偶然か奇跡か。和樹の機転でこの憂鬱な休日の楽しみが生まれた瞬間だった。


 西棟3階の一番端の美術室へ向かい、涼みながら昼食を食べる。

他の美術部員はおらず、今日は美月だけの様だ。

相変わらずの雑談をしながら過ごし、冷房の効いた美術室の快適さに午後からのプール清掃が完全に億劫になっていた。


「もう嫌だー…。掃除したくねー!」

「俺も嫌だけど、仕方ねーよ。」

「終わったらあそび行こう!だからがんばって!」


そう言い和樹と肩を組む優里。

美月ともこれほどスキンシップというかふれ合えればどれだけ良いか…。

そんな下心も時折生まれながら俺は席を立ち、作業に戻ろうとした。

何やら優里とこそこそと話をしている和樹を呼ぶ。


「和樹ー!続き行くぞ!」

「あー…陽太…。お願いがありまして…。」

「ダメだ。想像できる。言うなよ…。絶対言うな!大体分かるから言うな…。」

「あのー…。お出かけをしたくて…。」

「お前なぁ…。あり得ないだろさすがに!まだ終わってねぇぞ!」

「ごめん陽太くん!今日だけ!お願い!今度何か奢るから!」


珍しく優里が強くお願いしてくる。こんなことは初めてだが、何か理由があるのか。


「いや、優里の気持ちもわかるけど…」

「お願い!」

「陽太!一生のお願い!」


二人からお願いをされている中で美月が口を開いた。


「陽太くん、今回は行かせてあげたら?」

「え?なんで…?」


いつも厳しい美月がこんな事を言うとは思わなかったが何故だか彼女のお願いとなると聞かずにはいられなかった。


「まぁ…美月が言うなら…今回だけは…。」

「マジで?やった!」

「ありがとう陽太くん!」


そう言うと和樹と優里は急いで帰り支度を整え、教室を出ようとする。


「本当ごめん!またメールするから!」

「ありがとう陽太くん!」


急ぎ足で教室から出ていく二人を見送り溜息を吐く。


「ったく…最悪だよ。」

「ごめん陽太くん…。余計なこと言ったかな?」

「そんなこと無いけど、美月にしては珍しくない?いつもだったら注意するっていうか駄目だよって言いそうだけど。」

「うーん…なんかさ思ったんだけど…。」

「なに?」

「あの二人って…お似合いじゃない?」

「へ?」

「ていうか、もしかして優里って和樹くんの事好きなんじゃないかな?」

「は、はぁ?優里が和樹を?」

「うん!優里ってああ見えて男子とあんなに一緒にいる事無いんだよ!いつも少し距離置かれたりするから一緒に出かけたりしないし。でもあの二人は価値観一緒でいつも仲良しなイメージあるからさ!」

「あーそう言われれば…。だから行かせたの?」

「なんか進展しそうで!」


美月らしいっちゃ美月らしい。いつでも友達を優先する。優里は美月にとっても確実に特別な人だろう。だからこそ思った美月の想いやりだ。だとしたら、ここで俺が不満をぶつけることは無い。むしろぶつけたらカッコ悪すぎる。


「確かにな。和樹にもそろそろ落ち着いても良い相手がいるべきだし、優里ならなんかぴったりな気がするしな。」

「うん!応援しないとね!」

「うん。じゃあ、俺はプール戻るわ!さすがに進めないとおわんねぇ!」

「あ、そうだよね!本当にごめんね陽太くん。またね!」

「大丈夫!行ってくるわ!」


そう言って美術室を出る。廊下の熱気は外の気温を物語るかのように暑く、すでに汗が噴き出してくる。

 

 階段を下りてプールへ向かった。

残っているプールの底をデッキブラシを使ってこすり、定期的にホースから水を出して流すを繰り返す。

午後になり強い日差しと暑さで作業も捗らず、まだ6月とはいえ襲ってくる暑さに手が止まる。

和樹がいた時は話し相手もいたので退屈でも無かったし、何より作業が進んだのは間違いない。

底の半分まで進んだところで一休みをしようとプールサイドに座り込み、ホースを持ってブラブラと揺らしながらプールへ水を流す。


唯一の救いはこの水のお陰で涼しく、実際少し温度が下がっている。足だけでも水に浸けると充分心地良い。

座っているプールサイドにそのまま横たわり、眩しく太陽が昇る空を見上げると、眩しさで目を細め、顔を手で覆った指の隙間から遠い空の上には飛行機が飛んでいるのが見える。

蝉の鳴き声とホースから流れる水音を聞いて、

(夏だなぁ…)

そう思っていると、急に影が出来て、頭側に人影があるのが分かる。

(やべっ!先生か?)

そう思い起き上がって顔を見ると、そこに立っていたのはスカートの下にハーフパンツを履いた美月だった。


「み、美月!何してんの?」

「手伝いに来たの!」

「な、なんで?わざわざいいよ!自分の絵は?」

「もう一段落したから大丈夫!」


手には和樹が使っていたデッキブラシを持ち、裸足になってプールサイドに立っている。


「いや、手伝いって…。さすがに今日はいいよ!日焼けするよ?女の子なんだから日焼けとかやばいでしょ!」

「平気!おばあちゃん家で畑とか行くし、日焼け止めいっぱい塗ったから!」


そう言って日焼け止めを塗った両腕を見せてくる。


「でもさ!」

「いいの!そもそも和樹くんを帰らせたのは私だし、責任はあるでしょ?それに、手伝えば早く終わるじゃん!」

「まぁそれはそうだけど…。」

「いいから!やろう!それになんか楽しそう!」


そう言うと美月はニコニコと笑いながらプールサイドに腰かけ、そのままプールの中に入った。


「キャッ!冷たい!でも楽しい!気持ちいね!」

「マジかよ…。先生に見つかったらなんて言うの?」

「手伝ってますって言えばいいでしょ?」

「まぁ…そうだな。」

「陽太くんも早く早く!」


 手招きして俺を呼ぶ美月につられ、プールサイドから少しだけ水が溜まったプールへ入る。そして二人で話をしながらデッキブラシで残りの底をこする。

和樹との作業よりも少しでもスマートに見せたいという気持ちから作業も進み、みるみるうちに青いプールの底が見えてきた。


 太陽の光が青いプールの底と、少し溜まっている水を照らし、その反射光が美月を照らす。汗を流しながらデッキブラシをこすり、俺と会話をしているこの現状を見て、夢にまで見た青春が実現するんだ!と、心から思った。

時々わざとホースの水をかけてみたりなんかして、


「冷たいな!やめてよー!」

「うわっ!やめろって!」


というやり取りもしてみたが、やっぱりいつもの何気ない会話が一番安心する。


 作業はあっという間に過ぎ、というか話をしているうちに終わってしまったというべきか、楽しい時間はあっという間とは良く言ったものだ。


15時には全てを掃除し終わり、空のプールに水を入れる。疲れと満足感がどっと溢れだし、少しの間プールサイドに座りこんだ。


「はぁー!疲れた!」


両腕を後ろについて天を仰ぐ。目を閉じて顔を上げる俺の隣に美月が座った。


「お疲れ様!暑かったね!」

「暑かったー。でもありがとうな本当。助かったよ!」

「ううん!こっちこそ楽しかったよ!青春ぽかった!」

「確かにね。」

「また夏の思い出出来たね!」

「…う、うん。」


ふいに言われた言葉だったが、思わず息をのんでしまった。美月がこの時を思い出と感じてくれている事が嬉しかった。

それに引き換え俺はなぜかそこまで頭が回らなかった。前なら二人の時間が、ただ嬉しくて仕方なかったのに。


「ん?どうしたの?」

「いや、なんでもないよ!良い思い出になったね!」

「うん!それに、やっと手伝えた。」

「手伝えた?」

「今までずっと陽太くんが手伝ってくれたり助けてくれたでしょ?去年桜を見た時も、文化祭で誰も見に来てくれなかった時も、川の瀬公園でお花を見に行った時も、いつも助けてくれたり手伝ってくれたり。だから、今日は助けたかったの!」

「そうなんだ。」

「うん!だから、和樹くん帰らせたってのも、少しはあるんだよ?」

「え?」

「も、もちろん優里と和樹くんの仲を考えての事だけど、それと同じくらい手伝いたいなって気持ちがあったから。」

「手伝うなら、和樹がいても良かったんじゃない?」

「どういう事?」

「和樹がいて、美月がいて、俺がいて、3人の方が効率良くない?」


また確認癖が出てしまった。


「それはそうだけど…。陽太くんと二人で出来るかなった思って。」

「…。そうだよね。ごめん、なんか聞いちゃって。俺も美月と二人で楽しかったよ!もちろん仕事も捗ったし、素敵な青春をありがとう!」


少しふざけた感じで美月に言うと、美月は笑ってこちらを見た。


「こちらこそ、素敵な青春をありがとう!」


そうして水を半分まで貯め、身支度を整えて職員室へ向かう。

生活指導の先生に報告して確認してもらう。無事合格をもらい、職員室から出て帰ろうと校門へ向かうと美月が待っていた。


「お疲れ様!大丈夫だった?」

「おかげさまで無事オッケー!」

「和樹くんの事は?」

「バレてない…と思う。多分…。」

「まっいいか!優里と仲良くしてれば!」

「そうだな!」


 そう言いながら大声で蝉が鳴くいつもの坂道を下る。

ワイシャツの前を開け、ズボンのすそを捲りあげた手ぶらの俺と、シャツにリボンを付けて、鞄をもって歩く美月。明らかに不釣り合いだ。

そんな二人を、周りからはどう写っているのか分からないが、今は周りの目なんか気にならなかった。

二人で休みの日に学校から帰っている…。

非日常的なその感覚にドキドキしていた。

商店街へ差しかかった時、美月に何かお礼をと思ってコンビニに寄る。

アイスキャンディーを2本買って渡し、二人で食べながら歩いた。


「食べながら歩くのって、なんかドキドキするね。」

「そうかな?いつも部活終わりこんな感じだよ?」


 食べながら歩くという、自分にとっては当たり前の出来事を、なんだか悪い事をしている感覚に感じる美月の清純さに、別の意味でドキドキしていた。


気づけばすぐそこに花見坂駅が見え、美月を見送るため改札へ向かった。



続く…

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