第25話 終末期看護 7

遅い

遅い!

遅い!!

何度も事業所に電話をかけているのに全く折り返しの電話が来ない。ここのケアマネはどうなってるのよ。

他の仕事も手がつかずイライラと電話を見ていると大関さんに声をかけられる。


「どうしたの?そんな形相で睨めてたら電話に穴が開くわよ」


「藤川さんのケアマネから折り返しが来ないのよぉ」


「携帯にかけてみたら?」


「事業所に電話したら個人情報だから教えられないって言われてさ、急いでるときってほんと迷惑よね!」


「あー。たまに教えない事業所あるもんねー。教えないなら事業所用の携帯持たせればいいのにね。藤川さん何かあったの?」


昨夜築島君から連絡があり、ケアマネに遭遇して話をしたところ全くプランを考えていないどころか訪問の制度も理解していないようだと情報があった。そのことを大関さんに愚痴る。


「あるあるだわー。前にいた佐藤さんだっけ?あの人なんて一切介護使えず亡くなったもんね。主治医の診療所のケアマネが担当だったっけ。家族はわからないんだからちゃんとマネージメントしてほしいよね」


経済的な事情でサービスをいれたくないという家族も多いが終末期には最期に訪問入浴を入れたり最低限の介護サービスは必要だ。


「少しでも元気なうちにお風呂くらいは入れてあげたいわね」


「藤川さん。昨日あたりから微熱があるのよねー。やるなら早いうちがいいね。がんばれ!管理者!」


「もぅ。他人事みたいに言って。サポートよろしくね!副所長!」


「はいはい。じゃ、あたしは訪問に行ってくるわー」


大関さんを見送り溜まっている記録と計画・報告書に手を付ける。ちょっとでも気になることがあると解決するまで他の作業の進み具合がわるくなる。管理者には不向きだなー。なんてことを考えているとようやっと電話が鳴った。


「お電話ありがとうございます。トータルケア訪問看護の関でございます」


『ケアネットサービスの田中です。お世話になっております』


藤川さんの退院前に病院で少し会ったがだいぶ若いという印象だった。電話の声も若々しく、おそらく20代だろう。ケアマネージャーは介護系資格の実務経験5年で受験資格を得られるため30代~70代以上のケアマネが多い。かなりめずらしい。


「こちらこそお世話になっております。藤川さんの件ですよね?」


『はい、そうなんですよ。昨日の夜の看護師さんにお聞きしまして訪問看護は医療保険を使うという話で』


「末期がんの診断がでていますので医療保険で間違いないですよ」


裏事情だけど介護保険の点数が間に合わない場合は適当な診断をつけてもらって特別指示書を発行してもらい無理やり医療保険を使用するという荒業もある。わかってるケアマネなんかは最初から特別指示書ありきでケアプランを組むつわものもいるのよね。厚生局に怒られそうだけど……


『そうなんですね!ちなみに、介護サービスって何が必要でしょうか?』


わかってないケアマネはまさかの丸投げだった……


「だいぶ衰弱してきてますので早めに訪問入浴をを入れてもらえますか?あとは息子さんの介護負担が強いので、息子さんと相談して1日1回でもいいので訪問介護も考えたほうがいいかもしれませんね」


『そうなんですかぁ。食べてるし元気そうにみえましたけど……』


食べてるってアンタ……。ヨーグルトやプリンだけでしょうが!


「私の見立てだとあと1週間もつかどうかだと思います。ほとんど食べれない状態が続くと1週間ほどで意識がなくなり身体の機能も止まってしまいますので……。意識があるうちじゃないと訪問入浴さんも受けてくれなくなりますよ」


『あのぉ、訪問介護は何時ころ入ったらいいんでしょうか?』


……


「朝と夜に看護が入っているのでお昼ころがいいんじゃないでしょうか……」


『そうですよね!じゃぁ、急いで探してみます!ありがとうございました!』


と、ガチャっと元気に電話を切られる。ドッと疲れが押し寄せてくるが、そろそろ息子さんにも覚悟してもらわないといけない。これからが一番大変だ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る