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「本当に久しぶりだね」と歩きながら加奈は言った。
「うん。そうだね」文は答える。
「せっかくの久しぶりの再会だっていうのに、雨になっちゃったね」加奈は言う。
文はさっきから加奈の美しくて長い黒髪が、雨に濡れてしまうのが、すごく心配で仕方なかった。
「こればっかりはしょうがないよね。予定もあるし、それに約束の日時を伸ばすのは、私には無理だったし」文は言う。
「学院の生活、忙しいの?」
「ううん。そうじゃなくて、こうして加奈に会う時間を、もう伸ばせない。待てないってこと」そう言って文は笑うと、軽く加奈の肩に自分の肩をこつん、とぶつけた。
「まあ」そう言って加奈は笑う。
そんな加奈は小学校時代の加奈とそっくりだった。
「それで、これから私たちはどこに行くの? 加奈のお家?」
文は手に持っていたお土産の袋をちらっと見てから、加奈に聞く。
「私の家には行くんだけど、その前に私の通っている学校とか、私の通学路とか、よく寄り道する公園とか、よく行くお店とか、そういうところを案内したいの。
ずっと東京で暮らしている文ちゃんには、もしかしたら少し退屈かもしれないけど、私がこんな風に、こういう場所で毎日を過ごしているってことを、文ちゃんに知っておいてもらいたいんだ」と雨の降る曇り空を見ながら、加奈は言った。
「そんなことない。全然退屈じゃないよ。私、加奈の生活しているところとか場所とか、すごくみたい」文は言う。
すると加奈は「ありがとう。文ちゃん」と言って、なぜか少しだけ悲しそうな顔で笑った。
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