11
それから駅の踏切のところで遮断機が降りて立ち止まると(反対側からすぐに電車がやってきた)、突然、加奈が文の手を握った。
「あ」驚いた文から、そんな声が溢れた。
「ごめんなさい。文ちゃん、私と手を繋ぐの、……嫌だった?」加奈が言う。
「ううん。そんなことない。ちょっと驚いただけ。だって、加奈の手がすごく冷たかったから」と文は言った。
半分は照れ隠しの言い訳だけど、半分は本当のことだった。
加奈の手はまるで、今年、久しぶりに東京に降った雪のように冷たかった。
「文ちゃんの手は、すごくあったかいね」と加奈は言った。
「たまたまだよ。さっきまで私、あったかい電車の中にいたし、それに大宮駅でホットの缶コーヒー飲んでたし」と文は答えた。
「そうなの?」と加奈は言った。
「そうだよ」文は答える。
二人は笑いあい、それから二人はずっと手をつないだまま、雨の中を移動した。
加奈は文に相談をしてから、自分の傘を閉じた。
だから雨の中に咲く傘は、黄色と赤色の二つから、黄色の一つだけになった。
文はその手に傘と、東京のお土産を持っていたので、加奈とつないだ手は、文のお土産を持つ手のほうだった。なので文のお土産は、まるで二人で一緒に持つような形になった。
「お土産なに買ってきてくれたの?」
「えっと、どら焼き」文は答える。
「嬉しい。東京駅のやつ?」
「そうだよ。昨日の夜に買ってきた」文は言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます