加奈は椅子から立ち上がると、文の前までやってきた。

「……久しぶりだね」と顔を赤くしながら、文は言った。

 奥山加奈は昔から、ずっととても綺麗で美人な子で、しかもおてんばな文とは違って、すごく女の子らしい女の子だったから、十六歳になった高校生の加奈はさぞ綺麗になっているのだろうとは思ってはいたのだけど、文の予想通りに(あるいは文の予想以上に)、加奈は綺麗で美しい人に成長していた。

 そんな加奈を見て、一瞬、文はそれが加奈ではない、全然別の人のように思える瞬間もあった。(加奈も成長した文を見て、同じようにそんなことを感じているのかもしれない、と文は思った)

 でも、よく見てみると、やっぱり今、文の目の前にいる高校生になった加奈は、文の知っている小学生時代までの奥山加奈の雰囲気を残していて、それが確かに自分の知っている、あの加奈だと文にはわかるのだ。

 それがなんだか、すごく不思議な感じだった。


「文ちゃん。すごく変わったね。なんだかすっごく大人っぽくなった」と小さく笑いながら加奈は言った。

「そんなことないよ。私、全然子供だよ」文は言った。

「だって、東京から出るのだって、今日が初めてだもん」そんな文の言葉を聞いて、加奈はまた小さく笑う。

 二人は駅の待合室の中で、少しだけお互いの近状を話して、それから二人一緒に雨の降る駅の外に傘をさして、移動した。

 文が黄色い傘。

 そして、加奈は赤色の傘をさしていた。

 文は加奈の案内で、初めて東京以外の大地の上を、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。文の心臓はまだ少しだけどきどきしていた。

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