変化

友達


聡がそう言った。俺に向けてだ。

悠姫が俺の運命の人で、例えその悠姫を狙っているという複雑な関係といえどその言葉は否定することなく、ただただ嬉しかった。今まで人生を生きる中で俺を友達だと言ってくれるやつなんて1人としていなかったからだ。そりゃ小学生、中学生で話しかけてくれるやつは多少なりともいた。どういうつもりで俺に話しかけたかなんてものは分からないが、いるのはいた。

ただやはり俺はコミュ障でちゃんと返答できていたかと言われるとそうでは無い。そのせいだろう。話しかけてくれるやつらもすぐ俺がつまらないやつだとわかり、次からは話しかけてくれることは無かった。友達と言うより知り合い、クラスメイトの関係で終わってしまった。そのうち俺は悟った、俺に友達は出来ないんだと。だから聡が友達と言ってくれたのを少しの疑いを持ちはしたが、嬉しく思う以外に選択肢はなかった。


友達がいるという日常。学校に友達がいる。

その嬉しさ故に周りの人間で言う小学生の時の遠足の前日、みたいになり夜は全然寝れやしねかった。。


学校に行くのがこんなに楽しみだと思ったことは無い。学校に行く道中、自分でさえ分かるぐらいに足取りは軽く、口角も緩く浮かれていた。

「天彦!?どうしたの?」

今日学校の行事があるかのように浮かれて歩く俺を見つけ不思議だと思った涼香がちょっと怖そうな顔をして聞いた。

「なんだびっくりした。涼香か。」

「びっくりしたのは私だよ。なんでそんなに小学生が遠足行くみたいな感じなの?」

うん。やっぱりびっくりだ。

自分でもわかるとはいえ、涼香にまで分かるぐらい浮かれていたのもそうだが、俺の思考回路はこいつと同じ程度だったのか。

そっちの方がびっくりで、なんか残念だ。


「別に?なんもないけど」


・・・。嘘だよな?うん。分かるよな?

だって浮かれてるもん。

知能もテンションも小学生だもん。

でも恥ずかしいじゃん!友達できたからってテンション高すぎるやつ。


「ふーん。なんか小学生だったんだけどなー」

涼香がおかしいなぁと言わんばかりの顔でそう言ったのだが、切り抜けれる?この絶望的な状況で?ほっと一息つきたいとこだがもう一点。

小学生だったんだけどなーってなんだよ!

どんな言葉の使い方だよ!はい。ここで一息。


「ほっ。」はいここで痛恨のミス。


このタイミングで心から漏れた一息は明らかに怪しいよね。はい。次のシーン行ってみよう。


「んじゃあ学校行きますか」

バーレなーい!!!

・・・。ダメだ。テンション高すぎてツッコミの回数いつもより断然多い。。

ちょっと控えよう。また心の内から漏れる。

そう1人で考え事をしながらも涼香の横で平然を装い歩いていた。


「よっ!天彦!」

後ろから肩を叩かれ後ろを振り返ると聡が爽やかな笑顔でこちらを見ていた。


あれ?どーやって話してたっけ。

昨日までどーやって。友達との喋り方って。

あー。まただ。またこうやって友達が。

束の間の遠足だったな。


「え?遠足?喋り方?どーしたどーした天彦!意味が分からんぞ!」

情報漏洩だ。失敗した。

でもなんで笑ってるんだ聡は。

「なんでもない。ていうかなんで笑ってる」

「いや、だって面白いじゃん!いきなりだけどさ。天彦って俺に身構えたりしないよな。」

ほんとにいきなりだな。というか同級生を相手になぜ身構える必要がある。いや、でも俺なら誰相手でも身構えるな。

「俺さ親が社長やってんだよ。しかもちょっと有名な会社でさ。小さい頃から周りの人間には甘やかされたり、身構えられたり。怒鳴られたり友達としての会話とかなかったんだよな。」

「おい、おい。待ってくれ。話長い。」

「天彦。まあ聞いてくれよ。だからさ昨日怒鳴られたり今日意味わからない会話とかして嬉しかったんだよ。今日の登校なんか小学生が遠足行くみたいな感じだってさ。」

お前もかい!

もう遠足引きづらなくていーわ!


「とりあえず聡は上辺の友だちなら沢山いるけど心からの友達はいなかったってことだろ」

「そう。だからさ。初めてできたんだ。心からの友達。」

今まで真剣だった聡が急に照れるのでこちらまで恥ずかしくなってしまう。

「や、やーめーろーよー。」

照れもろだしの解答です。


いつの間にかどーやって喋ればいいかなんて考えていなくて心のままに会話ができるようになっていた。


俺の心情に''変化''があったのだろう。


なんでか分からんけどツッコミも多かったもんね。

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