運命

「転校生」


無意識に出た言葉。

学校では全く口を開かない俺が自ら口を開いたのは昨日も感じたとおり


”10年前の記憶”

曖昧な記憶。しかし、確実にある記憶。

正直、顔も声もぼんやりとしか覚えてなくしっかりと記憶に残っているのは


’’夜に光り輝く美しき星空’’

そして、

’’君と交わした約束”

このふたつだけだった。

それ以外は正直なところ全然覚えてなく、

その美しき星空をどこで見ていたかさえ、

覚えてなどいない。


なんでこんな全く覚えていない記憶の中の約束をいつまでも気にしているんだろうか

どうせ今目の前にいる俺の知り合いかもしれない女の子だってその時の女の子じゃないだろうし涼香が言ってた先生が俺の方を見ていたっていうのも涼香自身の勘違いだろう。


と頭の中で必死に言い訳考えていたところで、

あの約束のことを気にしないなんて無理だろうし目の前にいる子に期待してしまっているこの気持ちも揺るがないのだろう。


「どうしました?」

とことん思考した上に何も変わらずよくよく考えれば学校で誰かに話しかけていてしかも転校生でどんな人かもわからず。

やばい、話の展開、どうすれば。

「あっ!!天彦!!おっそいよー!!」

ナイスだナイスタイミングだ

普段は全然空気を読めない涼香が珍しくいいことをする。

このままどさくさに紛れて話をきりあげるしかない!

「あっなんでもっ」

「私に用事ですか??」

こちらもこちらでナイスタイミング

しかし俺に都合のいいナイスタイミングではない。バッドタイミングの方がしっくりくるぞ。

やばい声が揃うとは思わなかった。

それにこんなくいついてくるとおもわなかった。

なんて言い訳をすれば。

「あっ転校生ちゃんじゃーーーん!やっぱり知り合いだったんだねーー!」

うん。バッドタイミング。占いちゃんと見てくればよかった。

やったな!今日の占いの注意するべきものは涼香、多分お前だぞ!

せっかく褒めてやったが今日はもうお前とは関われないぞ。


ふぅ。さて、最悪だ。聞きたいところではある。ただ話の展開が早すぎるんだよ!

「何の話ですか?」

ほらこうなるじゃないか。

それに期待ももう終わったじゃないか。

ぴえんだぞ。ぴえん。

さっきまでのは強がってただけなんだぞ!

はあ。でも、やはり違った。

ないのだ。あるわけが無いんだ

そんな都合のいいこと。

「そ、そうだぞ涼香!何の話だ!」

苦しいぞ苦しすぎるぞ

1番期待してたやつが今更しらばっくれるなんて

苦しすぎるんだぞ。

「えっ昨日話ししたじゃん。転校生天彦の知り合いかもよって。んで空気悪くなったじゃーん。」

あーもーいーよ!喋るなよ!!

どんどん立場悪くなってんじゃん!

どんどん苦しくなってんじゃん!!

今日の占いどころか1年の占いぐらいの運勢の最悪を引いてるじゃん!

「知らんぞそんな話!」

「知ってるよ天彦くんのこと」

もうしらをきって逃げるしか!

·····。って、え?今転校生とセリフ被ったか?

なんて言った?俺の事知ってるって言ったか?

いや、また都合のいいように考えているだけだ。この期に及んでまだ期待しているなんて

ほんとに惨めだな俺。

「天彦くんのこと知ってるよ私」

彼女は間を少し置きそう言った。

間違いなく、そう言った。

俺はあまりにも急な発言だったので口をぽかんと開け言葉を発さない。というか発せない。

君はあの時の。

そう聞きたかった。ただ聞けなかった。

彼女はただ俺を知っているだけだ。それだけで彼女が10年前のあの子と断定するのは証拠が不十分すぎる。もう少し彼女のことを知ってからだ。それからでも遅くない。

「”約束”覚えてる?天彦くん」

冷静にひたすら考え正解と言えるだろう答えを出した時に言われた。落ち着け。俺が言っている約束と彼女が言っている約束が同じだとは言えない。俺の記憶にはないだけでもしかしたら違うタイミングで何らかの約束をしていたのかもしれない。だって有り得ないだろ、10年前だぞ。そもそも彼女は覚えてすらいないのだろうし。俺だってこの子との約束なんて覚えていないんだし、大抵の人は小さい頃の約束なんて忘れてしまっているんだ。なのに小さい頃の約束を2人ともしっかり覚えているなんてことあるのだろうか。

はぁ。いや待てよ落ち着け。そもそも2人ともが同じ約束のことを指していればこの説は立証されないぞ。慌てて取り乱していた。

”夜空”あとはこの単語すれば出てくれば確信が持てるのに怖くて自分からは聞けない。

言って欲しい、とても。

「あれ?もしかしてあの約束って覚えてるの私だけだった?あんなに”夜空”も綺麗だったのにー」

困惑して何も喋らない彼女が寂しそうにそう言った。

決まりだった。ナイスタイミングだった。

占い結果良かった。

涼香、ごめん。後でジュース奢るわ。


それにしても10年ぶりの再会。

転校生がまさか10年前のあの子だなんて

《運命》だと感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る