輝きに捧げた物。

転校生


10年前の夏。

君との別れの前に見た夜空を...

君は覚えているのだろうか


別れ際の君の言葉。

あの日交わした約束を君は·····。




誰も通ることのない学校の帰り道で1人ため息をつく。

誰にも聞こえることのないため息。

別に誰かに聞いて欲しかったわけではないのだが、なぜか孤独を感じさせられた。


「わっ!!」

いきなりそう言われ叩かれた背中は威力以上のリアクションをとった。


「そんなに強く叩いてないんだけどー。

やめてよゴリラ女みたいじゃん」

「なら叩くなよ」


「そしたらおどかしの効果がうすれるじゃん!」

「なら、さっきの状況でもっと喜べよ!」


「え、驚いてたの?」

そう尋ねる彼女の顔は先程までの曇り顔とは一変してとても嬉しそうだ。

「そうだ!」


俺の返事を待っているのだと思い「うん」と言おうとした矢先·····。待ってないんかい!

「どした?」

出かけた言葉を我慢し、そう問うた。

天彦あまひこは知ってるの?明日転校してくるって子」


あー確か言ってたな。

今日のホームルームの時、先生が。


「いやごめん。知ってるか知らないか以前に先生の話聞いてなかったしどんな子かも分からないんだよな」


「あー私もわからないよ?そもそも先生どんな子かとか言ってなかったし」

「なら、なんだよさっきの質問」


「だって先生めちゃくちゃ天彦のほう見てたよ?転校生の話してる時。だから、天彦の知ってる人なのかなーって」


とても不思議そうな顔で見てきている『友達と言っていいのかわからない関係ちゃんA(名前をたちばな涼香すずかという。)』だが、

転校生は俺と知り合いなのだろうか。


ただ学校がない日は家にこもりっぱなし、学校の行きも帰りも人通りの少ない道を選ぶような、そんな俺にクラスメイト以外で知り合いなんているのだろうか。


否。

答えは断じて否である。


いないんだよ、絶対にいないんだよ

俺自身に思考を仰ぐでない。

悲しい現実がまた...。


そう思いつつも、やはり期待はやめられず考えてしまう。

もし、もしもその転校生が


『10年前のあの子』だったら。


柄にもなく、そんな淡い期待をしてしまう。


涼香の話に返答せず10分が過ぎた。

涼香も触れてはならないところに触れたと察したのか、いつものうるささとは裏腹に、とても静かで何も話しかけてこない。

こうして、ただ帰り道を歩き頭をひたすらに回転させる時間は、俺が家に着くと同時に幕を閉じた。

「それじゃ、これで」

ちなみに言っておくと、地獄の沈黙もこの時ようやく…ようやく幕を閉じた。

「うん、じゃあまた明日ね」


俺は、今日最後の涼香との沈黙を終え、ドアを開けた...


次の日の朝。


帰ってすぐお風呂に入り、夕ご飯を食べることもなく即座に眠りについた俺は、空腹時特有の気持ち悪さに目を覚ました。


9時20分。

ん?

9時20分。

あってはならない時間についつい2度見をしてしまうが、何ら変わることの無い9時20分。


·····遅刻だ。

学校が始まるの8時半。約1時間の遅刻。これは怒られるな

気だるい体を強引に起こし急いで支度をする。ただし、1限目には間に合わないし、授業中にはいるのもちょっとあれなので1限目が終わり、2限目が始まるその間にちょうど着くように急いでいても少しゆっくりと_。



ナイスタイミング。

授業が終わりチャイムがなった直後の登校。

この計画的犯行を見ると、とても遅刻慣れしてそうだが遅刻は今までにしたことはない。

なくせに、とても冷静に対処している自分が地味に怖いと思うのもまた正直な感想。


職員室に行き、遅刻してきたことを先生に伝え、怒られ、教室に戻る道中の廊下。

俺の横をすれ違う見知らぬ顔。女子。


「《転校生》」









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