ep16.睡魔なほうれんそう
“なずなってツンデレなんですよって”
“何言ってくれてんの!? 俺間違ってもツンデレではないよ!?”
“何ひとりで急にパニクってんの!? ツンデレっていうのは、なずなもご存じツンドラ地帯で売ってるデコレーションケーキって意味だよ!?”
永久凍土が広がってるような寒すぎる場所でケーキって売られてるのかよ!
残念ながら、俺の心の叫びは誰にも届かなかった。
ep16.睡魔なほうれんそう
“仮に、仮に俺がツンデレだっていうことが事実だとしてもだよ? どうしてそれをわざわざ教育実習生の市原先生に報告しようと思ったわけ?”
3限、国語。CDがくるくると回り目も回してなんとかあげた悲鳴は物語文の朗読となって、俺らに睡魔を送り込む。でも今日の俺はその睡魔を倒した。というのも。市原先生の件で理菜と会話しているからだ。当然のごとくメモ帳で筆談だけど。
“ほうれんそうって言うじゃん? 報告、連絡、相談のやつ。あれをやったまでだよ”
ほうれんそうをこんな日常生活に適用してしまう女子高生。将来仕事できる人になりそう。一生独身してそう。一生彼氏できなさそう。一生人を好きにならなそう。
“理菜って友達がテスト0点とったら教室の真ん中で「この子0点だー! 見てこの子のテスト丸がひとつもないよ! 逆にすごくない!?」って叫びそうだよな”
心の中でぐちぐち言いながら、実際に皮肉を返す俺。理菜とはなんでも話せる。
“まぁ叫ぶ義務があるよねうちらには。実際0点とったら褒めたたえなきゃ”
“そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。”
エーミールになった気分だ。字も少し丁寧に書いてみる。非の打ち所がなさそうに見えるかな。優等生っぽいかな。
“よく覚えてるねそんなセリフ。なつい、5年くらい前じゃない?”
“まぁそうなるな”
さてそろそろおとなしく睡魔に襲われて寝るか、と思った頃にメモが飛んでくる。
“なずなって好きな人いる?”
なんだよ急に。俺はそう思いながらもそのメモに殴り書きして投げ返す。
“N”
“まじで言ってる?”
そのメモの字もそれを俺の机に投げてきた理菜の顔も焦ってる。なんなら赤いし。
“まじで言ってる。俺恋愛とか興味ないから”
“は?”
“は?”
このままずっと“は?”でラリーが続くんじゃないか、むしろ続けてやろうか、と思ったけど、理菜からの返信は感動詞だけじゃないちゃんとした文章だった。
“Nっていうのは?”
“No。だから好きな人はいないってこと”
なんでこんな簡単なこと解説しなきゃいけないんだろ、と思いつつも丁寧に答えてあげる。俺やっさしー。
“なんだよーもう!”
“それどっちかというと俺のセリフなんだが。さっきなんで焦ってたんだよ?”
“苗字”
なんとなく理菜の苗字なんだろうなっていうのはわかった。しかし、だ。
“
“記憶力やばきことこの上なしだな。
あぁ、そういうことか。ってかなんで現代文やってるのに古典なんだよ。
“すまん、この通りだ”
俺は深めに頭を下げる。理菜とはいえ、さすがにこれは申し訳ない。
“もういっそのこと熱中症で倒れろ”
そのメモを書いているときの理菜はいつもよりかわいかった。
“ちな理菜は俺のこと好きなの?”
“いや、ぜんっぜん。どっちかというと嫌いだな”
お前こそ熱中症で倒れろ。
そんなことを思ったけど、明日には忘れてるんだろうな。理菜いわく、“記憶力やばきことこの上なし”な俺のことだから。
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