present:そろそろ俺の傘返してください
Cool-School
ep10.再会は自教室にて
「いいや、やっぱなんでもない! 今度こそ、あでぃおす!」
そして、覺張駅の人ごみに吸い込まれていった。
「どうしてですかって言われてもな……。もうおねいさんって呼ばれたくないのは、君を好きになったかもしれないから、かな?」
覺張駅の人ごみの中、誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟いた人がひとり。
「初めまして! 一之瀬大学教育学部4年の
秋なんて微塵も感じさせない9月初頭のSHR。
“この教育実習生ってなずなの元カノなの? なんか今朝、情報屋が「2-5に来る教育実習生はなずなの元カノ」ってみんなに言いふらしてたけど”
彼女との物語は、ここ、2年5組の教室からリスタートすることとなる。
ep10.再会は自教室にて
「じゃあどこから来たんだろ、そのフェイクニュース」
“市原先生はなずなの元カノ”情報を持ってきた理菜の台詞。
「知らねーよ、そんなの」
SHRが終わって、1限が始まるまでの10分間の休み時間。配られたプリントをクリアファイルに強引に押し込んで授業の準備をする。
「そっか。にしてもイッチー先生かわいくない?」
俺のクラスにやってきた教育実習生には秒でニックネームがつけられた。イッチー先生。市原の“いち”に由来している。
「あー、まあな?」
「私イッチー先生のとこ行ってくる」
理菜はそう言って人だかりができている教卓の方へ歩いていった、が。イッチー先生及び人だかりはこちらへやってきた。理菜もバックステップで戻ってくる。
「
ぺこりと一礼するイッチー先生。ひょっとして、俺があの俺だって気付いてない?
「はい、向です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「いきなりだけど、雨の日好き?」
あ、やっぱ気付いてるや。彼女はきっと、嫌いっていう答えを期待してる。俺が雨を好まないって知ってるから。
「大好きですよ」
自信に満ちた俺の声に、彼女は目を見開いた。
「……そっか。いいよね、雨」
「あ、さーせん1限移動教室なんで、失礼します」
イッチー先生の言葉には頷かずに俺は頭を下げた。
1限は移動教室じゃない。だから俺は荷物もなにも持たずに廊下へ飛び出した。
“雨、嫌いじゃなかった?”
“嫌いだな。ばっちぼこに嫌いだな”
1限、睡眠授業——失敬、英語の間違いだった。謹んでお詫び申し上げます。
“なんでさっきふたつも嘘ついたの? イッチー先生の前で緊張してた?”
俺と理菜はさっきからメモ帳で筆談している。スマホはさすがに使えないから。
“それはない。里菜、ちょっといいか?”
俺がメモ帳でぺしっと軽く叩いたのは板書に夢中になっている理菜の頭。今理菜がやっていることが生徒の本分ってやつか。言うまでもなく俺のノートは真っ白だ。
“理菜な。いいけど、なに?”
できるだけ速く書こうとして“理菜”を“里菜”と書いてしまったのはご愛嬌。
“俺実はイッチー先生と前に会ったことあるんだけど。その話今からしようかなって思って。「変なの」って言わない?”
“言わないよ絶対! 床に落ちてる消しカスに誓う!”
理菜の口癖は“変なの”だ。口癖っていうよりは、なんだろう。相談ごととか真面目な話とかをしたときに限って“変なの”っていう。正直に言ってスクールカウンセラーにはなれっこないな、あいつ。相談者泣かせだ。絶対に金は払いたくない。
でもまぁ、口は堅い方だ。こんなことを話せる相手はこいつしかいない気がする。
ということで、6月の電車でのことの一部を理菜に話した。さすがに全部は話さなかった。あくまでも隣の席にいる奴っていう関係だし。その結果。
“変なの”
と、丸文字で返ってきた。なんでだろう、脳内で完全に理菜の声で再生された。
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