遭難
新しい朝が来た。
人界は地表で寝ていても平気なんだな。魔界の地表は汚染されているからダンジョンにしか住めない。魔界の地表で一晩寝たら、確実に死ねる。昔は地表に住めたらしいが、大昔にだれかがなんかやらかしたらしい。その誰かがなんかしなければ、魔界も人界のようになれたのだろうか。
あと、本を読んで知ってはいたが、太陽ってすごい。温かい。なんなのあれ。極大魔法とかそういうものだろうか。どれだけ魔力使っているんだ。魔界にも太陽はあるらしいが、年中雲に覆われているから見たことない。魔界はダンジョンの中でも結構寒いから、一つくれないかな。太陽を作る魔法があったら覚えて帰ろう。
さて、魔王様が起きる前に色々準備しなければいけない。まず顔を洗うために魔法で水を作る。ここは慎重にしなくてはいけない。下手すると辺り一帯が水浸しになる。魔力が多すぎるのも考え物だ。腕力とかを下げる魔法はあるのに、なぜ魔力を下げる魔法はないのか。今度、魔界の開発部に開発をお願いしよう。
何とか無事に顔を洗えた。木が一本吹き飛んだけど気にしない。
朝食の準備は昨日のワイルドボアだ。足は残しておいたから、これを食べる。火を起こして燃やそう。肉は燃やせば何でも食える。しかし、魔界でも料理はよくやったのだが、料理スキルが上がらない。なぜだろう。
準備をしていたら魔王様が目を覚まされた。まだ意識がはっきりしないのか、ぼーっとしている。まあ、魔王様は朝弱いからしばらくそのままにして食事の用意とかしておこう。
準備も終わり、ちょっと余裕ができたので、これからのことを考える。
魔王様が言うには、このままだと魔界の食糧が尽きてしまうとのことだ。魔界の地表は住めないし、ダンジョン内の畑や森でもたいした食べ物は取れないから当然と言えば当然だ。
五十年前までは人族を襲って食糧を奪っていた。だが、嫌な奴との協定により、そういうことはできない。今後は人族と仲良くなって食糧を調達することになる。人族と友好的になったところで食糧をもらえるのだろうか。それ以前に今は森の中。人族はこんなところにいないと思うけど。
「あー、おはよう」
魔王様の意識がしっかりしてきたようだ。目をこすられているが、多分、大丈夫だと思う。
「おはようございます、魔王様。水と食事の準備をしておきました」
「ありがとう。食事はフェルが食べていいよ。僕は朝、食べない派だから」
健康のためにも朝はしっかりとってもらいたいのだが、魔王様がそう言うなら仕方ない。わたしが食べよう。ワイルドボアを食べ過ぎだとは言っても食事を残すとかありえないからな。
私の食事が終わると、魔王様は今日の予定を話してくれた。
「とりあえず、人族と接触することを目標にしよう」
私は頷いた。しかし、確認しておく必要がある。
「この森に人族はいるのでしょうか」
「いるはずなんだけどね」
「魔王様のことは信じておりますが、もしかして、迷子になっていたりしますか?」
「……そんなわけないよ」
魔王様は目を合わせてくれない。なぜだろうか。
「魔王様が目印として木に付けている傷ですが、あちこちにあるのですが」
「……大丈夫。目印は全部違うから」
目印が違うのと、迷子ではないとの関連は分からない。だが、魔王様がおっしゃるなら、そうなのだろうと思う。思うのだが、なぜか不安になる。
「じゃ、出発しようか」
そうだ。私は魔王様の従者。疑うなど不敬なのだ。魔王様を信じてついていこう。
一日中歩いて、元の場所に戻ってきた。
「この場所は昨日から今日にかけて野営をした場所だと思うのですが」
「……違うよ。よく似た違う場所だよ」
これはあれだろうか。魔王様への忠誠心を試されているのだろうか。いや、クールになれ、私。
魔王様が違うといっているのだからここは違うのだ。私の勘違いだ。朝、顔を洗う時に吹き飛ばした木の根元がそこにあってもここは違う場所なのだ。
「今日も……いや、今日はここで野営をしようか。また、食べ物を狩ってくるよ」
「はい、では準備しておきます」
というわけで、火を起こしたり、水を用意したり、狩られてくるものがワイルドボアでないことを祈ったりして時間を潰した。また木が吹き飛んだが気にしない。
よく考えたら水を作る魔道具を持ってくるべきだった。魔道具なら必要以上に魔力を消費しないし、水を作れる量も一定だ。急いでいたとはいえ、持ってくるものをいい加減にしたのが間違いだった。
それに魔界の宝物庫を管理している奴から、邪魔なものを押しつけられたしな。どこかに捨ててきてくださいとか言っていたが、勝手に捨てるのも駄目な気がする。不法投棄とかいうやつだ。
そういえば、人族はお金を使って色々な物を買えると聞いたことがある。もしかすると魔族には不要なものも買い取ってくれるかもしれないな。食糧と交換という手もありか。
「ただいま」
「……おかえりなさいませ、魔王様」
祈りは通じなかった。よく考えたら、魔神に祈っても駄目なのだ。忘れてた。
それにしても魔王様はワイルドボアが好きなのだろうか。もしくは恨みがあるのかもしれない。今日と明日の朝はもう仕方がないが、明日、きちんと申告しよう。ワイルドボアの肉は食べ飽きたと。魔王様なら聞いてくれるはずだ。
食事が終わり、結界を張った。寝る準備は万端だ。
魔王様は「疲れたのでもう寝るよ」と言ってすぐに寝てしまわれた。
私は本を読む振りをしつつ、日記を書いてから横になった。
明日はワイルドボア以外が食べたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます