楽園という名の牢獄
完全な世界。イブはそう言った。
それは現実ではなく夢。でも、自分が望むことをすべて叶えられる上に、現実と見間違えるほどの夢だという。
私が体を渡せば、その夢を見せてくれる……もう二度と会う事のない村のみんなともう一度会う事ができるということなのだろう。
「答えないのは、迷っているのね? よく考えるといいわ。そもそも私は交渉に来たの。戦う準備は万端のようだけど、私にそのつもりはなかったわ。今日は驚かそうと思っただけ。そうそう、その提案に乗るなら他にも色々特典があるわよ? まずはそれを教えてあげる」
特典?
「フェルを絶望させようとしていたのは、夢の世界へ行くことを貴方が自らが望んで受け入れて欲しかったからよ。強制的に貴方に夢をみせてもいいのだけど、そうすると、いつか目を覚ますかもしれない。貴方の体を奪っても、アダム様の前でそんな問題が起きたら困るわ」
自分から望んで夢を見る、か。
なるほど、私は自ら心を閉ざして夢の世界にいた。絶望していたなら、その提案に乗るだろうし、目を覚まそうとも思わなかっただろう。確かにあの時は死んでしまいたいとか、なんでもいいから助けて欲しいと思ってた。
「貴方が絶望しなくても提案を受け入れてくれるなら、悪魔達を使ってやっていたことを全て止めるわ。明日、迷宮都市の投票日でしょう? 立候補を取り下げていいし、シシュティ商会からの嫌がらせも無くなる。不死教団だって解散よ。もうそんなことをする必要もなくなるわけだしね」
私が自ら夢を見たいと言えば、私の大事な物への嫌がらせを止めるという事だろう。私を絶望させるために、心の拠り所を失くそうとしてた行為をする必要がなくなると言ってるのか。
「もちろん、お別れの時間もあげるわ。今の時代でも知り合った人達がいるんでしょう? 体を受け渡し、眠ってしまう事を言われるのは困るけど、それ以外なら何をしてもいいわ。最後に食事でもして来たらいいんじゃないかしら?」
みんなで食事、か。
「そうね、市長選の投票結果が出るまでに決めてくれればいいわよ? 要求を呑んでくれたら候補者は何らかの理由を付けて辞退すればいいだけだしね」
考える時間をくれる。投票結果が出るのは明日の午後十時ぐらいか? 大体、丸一日くらいの猶予があるわけだ。
「フェルは勘違いしていると思うけど、私はアダム様の事だけしか考えていないわ。私にとって人族や魔族、いえ、アダム様以外には何の興味もないの。憎くもないし、怒っているわけでもない。私の邪魔をしないように生きているだけなら、手を出すつもりもないわ」
イブはニッコリと微笑んだ。
「どうかしら? 悪い提案じゃないと思うのだけど? もちろん体を渡すなんて嫌だと思うわ。でも、いつ目が覚めるかも分からないアダム様をいつまで待ち続けるの? その間にフェルはどれだけの出会いと別れを繰り返すつもり? 百年? 二百年? それとも数千年かしら? プログラムではない貴方にそれが耐えられる?」
魔王様が目覚めるのはいつなのか。それは分からないが、イブの言い方だと長い年月がかかるのだろう。数百年、いや、数千年かもしれないのか。
私がそれに耐えられるかどうか……それは分からないな。
「さっきから何も答えないのは色々と考えているからね? 貴方の今後の事だもの、ゆっくり考えるといいわ。さっきも言った通り、考える時間を一日あげる。明日、いえ、今日ね。また来るわ。その時までに答えを出しておいて」
イブがクルリと背を向けた。どこへ行くかは知らないが、この部屋から出ようとしているのだろう。
『フェル様! 騙されてはいけません! イブの言っていることは――!』
「イブ、待ってくれ」
アビスの言葉を遮り、イブを止めた。
イブがこちらを振り向いて笑顔で「何かしら?」と言う。
「一日もいらない。答えはもう出ている」
「あら? 早いわね? ならどんな答えなのか聞かせてもらえるかしら? 私の期待通りだといいのだけど?」
大きく息すってからゆっくりと吐いた。そしてイブを見つめる。
「答えは、いいえ、だ」
そう言うとイブは笑顔のままだが、少し空気が重くなるような感じがした。怒っているのかもしれないな。だが、怒っているのはこっちもだ。
「お前なんかに体をくれてやるわけないだろうが。どんなに魅力的な提案だったとしても、私がお前の話を受けることはない。諦めろ」
「……よく考えた? 貴方が幸せになるチャンスだったのよ? 確かに現実ではないかもしれない。でも、現実と変わらない夢なら、それは現実でしょ?」
「ああ、そうだな。これほど心を揺り動かされたことはない。それほど、魅力的な提案だった」
「なら、どうして断るの?」
「なんだ、私が断る理由が分からないのか?」
「ええ、分からないわ。これだけの魅力的な提案を断るなんてどうかしてる。でも、後学のために教えてもらえる? 貴方を演じるためにも知っておきたいわ」
「簡単だ。私がお前を嫌いだからだ。それにお前が言うことなんて最初から信用してない。人に信用してもらいたいなら、普段の行動に気を付けるんだな。さて、交渉に来たと言ったな? 残念ながら決裂だ。でもせっかく来たんだ。もてなしてやるから、もうしばらくいるんだな――アビス!」
『はい、大丈夫です。イブは外へ出られません。転移や通信、その他もろもろ、イブを外部から切り離し、孤立させました。そして管理者達にも連絡済みです。イブの拠点へ攻撃を開始しています』
イブは何の感情もない顔をしていたが、徐々にその顔が歪むほど笑い出した。
「アハ! アハハ! アハァハハハァ!」
そして狂ったように笑い出した。キモい。イブが嫌いな理由がまた増えた。
「フェェェルゥゥゥ! 期待はしていなかったけどぉ、そこまで確固たる意志で否定してくるとは思ってなかったわぁ? 随分と嫌われていたものねぇ?」
「お前を好きな奴なんているか」
イブは目を瞑って上を見ながら深呼吸をしたようだ。そしてそれが終わるとこちらを見つめてきた。
「仕方ないわね、なら貴方を強制的に夢の世界へ連れて行ってあげるわ。でも、安心して? ちゃんと幸せな夢を見せてあげる。二度と現実に戻れないほどの甘美な夢よ? 楽園という名の牢獄にずっと囚われていなさいな」
「断る。例え辛くても私は現実に生きる」
話はここまで。次は戦いだ。先手必勝。
イブの前に転移した。そしていつものボディ狙い。左拳で腰を入れたパンチを繰り出した。
イブは笑ったままそのボディを受ける。吹き飛ばしたが、イブは右手を床について側転しながら体勢を整えた。
「アハハァ! あの頃よりは強くなったみたいねぇ?」
効いていないか? いや、そんなはずはない。大量の魔力で修復しているのだろう。なら魔力が切れるまで殴りつけるだけだ。
イヤリングと腕輪に魔力を流す。これで強化魔法が永続的にかかる様になった。そして魔法障壁が壊れる度に自動的に展開されるようにもなる。普段使っているような魔法障壁ではなく、ヴァイアが考案したかなりの固さを誇る障壁だ。
能力の制限解除で思考速度も上がっている。集中すれば、すべてがいつもよりも遅く見えるはず。気を抜くな。イブの一挙一動をしっかり確認するんだ。
さあ、被弾覚悟で殴り倒してやる。
更に転移して左右のコンビネーション。左、右とイブの顔へパンチを繰り出す。超高速のパンチだが、イブはダッキングで躱しやがった。
そして躱しながら私に左拳のボディブローを放ってくる。もしかしてコイツも近接格闘か?
仕方ない、当たってもいいからイブに攻撃だ。ヴァイアの魔法障壁がある。そんな攻撃、いくらでも食らってやる。
イブのボディブローが障壁を突き破って私の腹へ突き刺さる。だが、イブの顔面を右のストレートを食らわせた。そしてお互いが吹っ飛ぶ。
十メートルくらい吹き飛ばされたか? 両足で踏ん張ったんだが、それでもこれほどふっ飛ばされた。
念のため腹を確認する。こちらは障壁のおかげでそれ程ダメージはない。だが、イブも顔面を殴られたのにダメージが無さそうだ。
「面白いわねぇ、一般的な障壁よりもさらに固いわ。それにもう修復されているの? よくもまあ、そんな術式を組めたものだわ」
「私の友人は天才だったからな」
「ああ、ヴァイアって子ね。フェルの情報を確認していた時に何度か出て来たわ、術式を組む天才だとか」
私の情報を確認していた? そうか、コイツは私になることが目的なんだ。私の事を色々と調査していたのだろう。友人関係や、趣味趣向、そう言ったものを全て確認して、私になり切るつもりなんだ。
私は私だ。私以外の奴がフェルを名乗っていいわけないだろうが。
転移して殴りかかろうとしたら、イブは飛び上がる様に右膝で私の顔を攻撃しようとしていた。
どうやら転移がバレていたようだ。既に躱せない位置まで膝が来ている。
殴ろうとした両方の拳を目の前でクロスさせて顔を守った。
イブの膝が障壁を突き破り、私の顔を襲う。両手でガードしたが、威力を殺せずに私の腕が顔に当たってしまった。直撃は避けられたが痛い。
目の前がチカチカする感じで良く見えない。それに威力を殺せなかったから、のけ反る様に数歩だけ後ろに下がってしまった。
目を開けると、イブが目の前にいた。いまの状態で攻撃はできない。両手をクロスさせたまま顔を守る。
だが、左足に痛みが走った。どうやら、イブが、右足で私の左足を蹴ったようだ。くそ、障壁があるのに痛い。
でも、痛がっている場合じゃない。イブが攻撃して体勢を崩している今がチャンスだ。
イブの右足が地面に着く前に高速の左ジャブを放った。これでさらにイブの体勢を崩してさらに殴ろう。
イブはジャブが当たらないように体をのけ反った。チャンスだ。さらに右ストレートを放つ。
もらった、そう思った瞬間に顎へ衝撃を受けた。そして首が跳ね上がる。やばい、意識が飛ぶ――耐えろ!
倒れそうになるのを気合で耐える。一体何の攻撃を受けた? 下からのアッパー?
耐えながらイブの方を見た。
そうか。体をのけ反ったのはバク転するためか。バク転しながら私の顎に蹴りを入れやがった。くそ、油断した。
バク転から体勢を元に戻したイブが私を見て笑っている。
「たった数分の攻防で、そんなにボコボコになるなんて、ちょっと期待はずれね」
顎に衝撃を受けてちょっとフラフラだ。それに口の中を少し切った。治るまで話をしながら時間を稼ごう。
「まだ、本気じゃないだけだ。気分が乗ってくるのが遅いタイプでな」
「あらそう? でも、私も本気じゃないわよ? まあ、それはいいのだけど、私に勝てそうかしら? あまり無駄な事はしたくないから、もう夢の世界へ行ってしまわない?」
「私も無駄な事はしたくない。いちいち答えないとダメなのか? いつ、どんなときに聞こうとも答えは同じだ。断る」
「痛い思いをして夢の世界にいくか、痛むことなく夢の世界に行くかの違いなのにねぇ……フェルってマゾなの? 貴方の情報を更新しないといけないかしら?」
言ってろ。だが、このままでは勝てないだろう。なら手の内を少し見せよう。
「少しだけ本気を出してやる。【死亡遊戯】」
私のユニークスキル。広範囲にあらゆるバッドステータス与える戦略型のユニークスキルだ。だが、今回はイブ一人のためだけに使う。やれることは何でもやる。
足元から血が広がる様に床を赤で染めていった。何もない白い部屋が、真っ赤に染まる。床や天井は見えないが、全てが赤一色になっただろう。
イブにはどうだ? 効いているだろうか?
「……これは驚いたわね。このスキルを何度も使ったの? それに魔素の体について勉強した? 空中庭園で使われた時よりも遥かに強力になっているわ」
両方だ。絶望で眠ってしまう前は何度も使った。目を覚ましてからはアビスに教えてもらって魔素の体の事を毎日勉強した。いまなら大体の構造は分かる。魔素の体に効果的な弱体効果をこれでもかと食わらせている状態だ。
「さて、第二ラウンドだ。勝たせてもらうぞ」
「アハハァ! この程度でもう勝った気になっているのぉ? おめでたすぎるわねぇ?」
イブが高速で走ってきた。そして助走をつけて、左膝による突撃をする。その左膝に合わせて、右ストレートを放った。
左膝と右拳が当たり、大きな鈍い音が響く。そして後方で、何かが倒れる音がした。
振り向くとイブが倒れている。左足の膝から下が無くなった状態で。その膝から下の足は、私の目の前に転がっていた。
「う、嘘でしょ! 私の体を破壊する程の攻撃だったの!?」
珍しくイブが慌てている。ちょっと気分がいい。
足を拾って、座ったままのイブへ放り投げた。イブは右手でそれを受け取り、忌々し気にこちらを見ている。
「ちょっとだけ本気を出してやった結果だ。さあ、その足はすぐにくっ付くだろう? 早く立て。それとも私の勝ちか? お前は特別だ。例え座ったままでも攻撃するぞ?」
イブはすぐに左足をくっつけた。そして立ち上がり、左足のつま先で床を何度か叩く。どうやら元に戻ったようだな。
「さて、続けようか? 次はお前が壊れるまで殴らせてもらおう」
「ぐ……!」
意外と死亡遊戯が効いているようだ。これならもう一つの奥の手は出さなくても大丈夫か?
まあいい。戦いは何が起こるか分からない。勝てるうちに勝っておかないと。
イブの目の前に転移して、左のボディブローを放った。イブの動きが明らかに遅くなっている。ガードもできずに腹へパンチがめり込んだ。
遠くに吹き飛ばすようなパンチじゃない。下から上にアッパー気味のボディブローだ。イブは吹き飛ばされることなく、その場で悶絶していた。
だが、イブは苦し気にしながらも左足狙いの蹴りを放ってくる。
左足を上げるようにして躱した後、蹴ってきた足を踏みつけた。そして踏みつけたまま、左フックをイブの顔面に放つ。
顔に直撃して、イブは左側に体勢を崩した。足を踏みつけたまま殴ったからな、衝撃を逃がせないだろう。かなり効いたはずだ。
イブが顔を押さえてたたらを踏んでいる。チャンスだ。ここで畳みかけないと。
すぐさま、近寄ってイブの顔を狙って左右のパンチを繰り出した。
イブは左手で顔を押さえながら、右手で私のパンチをガードしている。だが、そんな手を出しているだけのガードじゃ意味はないな。
左ジャブでイブの右手を弾いた。そして左手で抑えている顔へ向かって右のストレートを放つ。
「終わりだ」
右ストレートが当たる直前、イブが顔から左手をどかした。
「フェルちゃん、やめて……」
「ヴァイア!? ――がっ!」
『フェル様!』
胸が熱い、呼吸ができない。私は一体、どうなった?
胸元を見ると、ベストの隙間から何かが私の胸に突き刺さっている。
ヴァイアの手……? 違う! イブの手か!
ベストの隙間からイブの右手にある指が私の胸に突き刺さっていた。
「あら? 貫くつもりだったのに、ベストに守られてしまったわ。そんな強度があるわけないのにどうして……? ああ、状態保存の魔法が掛かってるのね。それじゃ破れないわ」
「お、お前……!」
「人って言うのはダメね。違うと分かっているはずなのに、体が、いえ、頭が反応してしまうのかしら? いるわけないのに攻撃を止めるなんてねぇ。それに貴方はアダム様が同じ結果になったのを見ていたでしょうに? 同じ手に引っかかるなんて……なんで学ばないのかしら?」
イブがヴァイアの顔でそんなことを言っている。
やめろ、ヴァイアの顔でしゃべるな。その顔は私の友人の顔だ。お前なんかがその顔でヴァイアの声を出していいわけないだろうが!
イブの右手を両手でつかんだ。このまま握りつぶしてやる!
「フェルちゃん、痛いよ……」
ヴァイアの声を聞いて、力を緩めてしまった。だが、すぐに思い出す。コイツはイブだ。
「私がイブだって分かっているのに力を緩めるなんて、本当にどうかしてるわね。まあ、おかげでやりやすくなったけど」
な、なんだ、力が抜けて……動け! どうして体が動かない!
「貴方の体の中に魔素を狂わせるウィルスを仕込んだわ。しばらくは動けないわよ」
イブが私の胸から指を引き抜くと、私はその場に倒れ込んでしまった。指一本動かす力がなくなっている。
くそ、このままでは……!
「さあ、フェル、貴方を夢の世界へ招待してあげるわ。貴方が望む、貴方だけの世界よ。何もかも忘れて、その世界に浸りなさい。大丈夫、貴方の代わりはこのイブが未来永劫務めてあげるわ……アハ! アハハハ! アハァハハハァ!」
イブが右手を私の頭に置いた。
「じゃあね、フェルちゃん、夢であいましょう? 『ラストエデン』」
イブの右手が光る。
強烈な眠気が襲ってきた。寝る訳にはいかない、忘れる訳にはいかない……どうすれば……どうすればいい!
そうだ! アビスだ!
『アビス! 何とかしてくれ! 体が動かない!』
『……申し訳ありません。私にはどうすることもできません』
『なんでもいい! 何かないのか!』
『一つだけ可能性がありましたので、それに賭けました。イブの隙を――ついて――連絡――必ず――反応が――』
『アビス、良く聞こえない! 何を言ってる!?』
『――魔王様――』
魔王様? アビスは魔王様と言ったのか?
『アビス、どういうことだ! 教えろ! 教えてくれ!』
……駄目だ、何も聞こえない。それに眠い。何度も経験している。これは記憶がなくなっていく感覚だ。もうダメなのか……?
……いや、諦めるな。アビスは言っていた。一つの可能性に賭けたと。なら私もそれに賭けよう。相棒の言葉を信じるんだ。
……絶対に、戻って、くる……イブの、いいように、されて、たまるか……。
鳥の鳴く声が聞こえた。うるさい、焼くぞ。
私はまだ眠いんだ。もう少し眠らせてくれ……あれ? 私はなんで寝てるんだ?
「フェル! フェル!」
誰かの声がする。懐かしくて、安らげる声だ。でも、何故そんなに慌てているのだろう?
「フェル? 大丈夫かい? でも、どうしてこんなことに? 長距離転移で何か問題があったのかな?」
目を開けると、どんよりとした曇りの空が見えた。
空……?
まずい! 魔界の地表で寝ていたら死んでしまう!
勢いよく上半身を起こすと、「いたっ」という声が聞こえた。頭に何かぶつかったようだ。私も痛い。
「フェル、痛いじゃないか」
優しそうな男が、額をさすりながらそんなことを言っている。えっと、誰だっけ? でも、すごく懐かしいような……?
「えっと……?」
「気分はどうだい? 魔界の門から人界に転移したと同時に倒れたからびっくりしたよ。どこか痛い所があったりするのかい?」
魔界の門から人界に転移した?
……ああ、そうか。私は魔王様と人界へ来たんだったな。あれ? という事は?
「ま、魔王様! も、申し訳ありません! 魔王様に頭突きをかますなんて!」
「ああ、うん、大丈夫だから土下座しないで。そんなことよりも体の調子は大丈夫かい?」
「え、あ、はい。大丈夫です。すみません、ちょっと記憶が曖昧だったもので」
「そうなのかい? 初めて人界に来たから、そういう事もあるかもしれないね。気候や気圧の変化で体に影響が出たかな?」
そうか、ここはもう人界なんだな。
周囲を見渡すと、岩だらけだ。ここは山、なのかな?
他には魔界にもあった門があるくらいか。でも、東の方を見ると、広大な森が広がっている。あの森もウロボロスと同じようにマッドタイガーとかマッドウルフが徘徊しているのだろうか。
でも、驚きだ。人界の地表は普通にしていても生きていられるんだな。魔界なら考えられない。
「どうだい、人界は?」
「不思議ですね。ただ、なんとなく懐かしい気もします。それに綺麗です」
「魔界も昔はこんな風だったんだけどね……まあ、それは別の話だ。まずは山を下りよう。それから野営の準備をしないとね。そうそう、明日はあの森へ入るよ」
魔王様が東に見える森を指している。
「そうなのですか? 当然、魔王様の従者である私はどこまでも付いていきますけど」
「うん、頼もしいね。それじゃ早速山を下りようか。この辺りには食べ物になりそうな魔物がいないから森に近づいた方がいいんだ」
「それは重要ですね。早速行きましょう」
魔王様と一緒に人界へ来た。詳しい事情は聞いていないが、これから魔王様の従者として頑張らないとな。
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