真相
アモンはカウンターの中から立ち上がり、店の奥へついて来てほしいと言った。
ここでなにか罠がある訳でもあるまい。ついて行こう。
本屋の奥には地下へ行く階段があった。そこを下りていくようだ。
それにしてもアモンは目が見えないはずなのに移動がスムーズだな。足取りもしっかりしているし、何がどこにあるのかを全部把握しているのだろうか。
階段を下りる途中でちょっとだけ違和感があった。もしかしてこの空間はダンジョンコアの物だろうか。その雰囲気に似ている。
多くの遺跡に何度も行ったからだろう。タダの建造物とダンジョンコアの空間の違いが何となく分かるようになった。かなりの確率でここはダンジョンコアで作った物だ。
更に階段を下りていくと、大きな広間があった。いくつもの扉がある広間だ。その扉の一つが開いた。
「朝っぱらから客なんて珍しくない? どんな客? イケメンだった?」
扉から顔を出したのはジェイだ。やっぱりここにいたか。
「あ、フェルじゃん、おはよー……って、え? フェル? あれ? 何で? 寝起きドッキリ?」
「おはよう。もうちょっと顔を化粧で作った方がいいぞ。すっぴんでも良いとは思うが。それとスコーピオンは履くな」
「ぎゃあ!」
ジェイは叫んだ後に扉を閉めてしまった。
「アモン、ジェイをあんな下着の恰好でうろつかせてんのか?」
「いや、寝起きだからですよ。普段からあんな格好だったら痴女じゃないですか。あれは放っておいてください。さあ、こちらです」
アモンの案内で別の扉の前に立った。そしてアモンがノックする。
「ダズマ、起きてますか?」
ダズマ。アモンは確かにそう言った。やはり、生きていたか。
そもそもダズマを王にしたいがために私を暴走させてアンリを殺させようとしたんだ。生きていないなら暴走させる理由がない。まあ、影武者をそのまま王にさせたいという理由があったかもしれないけど。
扉が開き、ダズマと思われる奴が顔を出した。
「アモンさん、おはよう。どうしたの? 今日はお食事当番じゃないよ? 今日は確かジェイ姉ちゃん」
「おはよう。実はね、紹介したい人がいるんだ。こちらは魔族のフェルさんだ」
「え! 魔族! は、初めまして! ダズマです!」
十歳くらいの男の子が私に頭を下げた。
「あ、ああ、初めまして。魔族のフェルだ」
この子がダズマ? いや、おかしいだろう。ダズマはアンリよりも二週間だけ遅れて生まれた。ならば十八歳のはず。こんなに小さい訳がない。
「あ、あの! 魔族の人って強いんですよね! ワイルドボアくらい素手で倒せますか?」
「え? そうだな。それくらいは倒せる。だが、質問は後にしてくれるか? ちょっとアモンに話を聞きたいんでな」
「あ、ごめんなさい。魔族の人に初めて会ったから舞い上がっちゃいました」
そう言ってダズマは頭を下げる。
アモンはその頭を軽く撫でた。
「朝から悪かったね。フェルさんにはまた会わせるからその時に話を聞くといい。それじゃ僕はフェルさんと話をするから、いつも通り皆を起こして食事にして」
「はい、分かりました」
ダズマはそう言って、扉を一つ一つ叩きだした。どうやら目覚まし代わりに起こしているようだ。
「では、フェルさん、こちらに私の部屋があります。そこで話をしましょう」
その問いに「ああ」とだけ答えて、アモンについて行った。
あれがダズマ。魔眼でダズマを見たら間違いなく本人だった。年齢は八歳となっている。本来なら十八。この差は何だろう?
アモンが開けた扉へ一緒に入る。シンプルな部屋だ。だが、本棚が多いな。ここも紙やインクの香りがする。
勧められた椅子に座った。四角いテーブルを挟んでアモンが対面に座る。そしてアモンが口を開いた。
「彼がダズマです。正真正銘、トラン王であったザラスとラーファの子供です」
ザラスって言うのはアンリの父親でもあるトラン王か。以前、村長からそんなことを聞いたような気がするな。それにさっきちらっとだけだが、魔眼で見た。アモンの言っていることは間違いない。
「お前には言ってなかったかもしれないが、私には魔眼がある。さっき見た。間違いなく本物のダズマだな。だが、本当ならダズマは十八だろう。なぜ八歳なんだ?」
「そうでしたか。フェルさんも私と同じ眼を……色々な事に詳しいのはアビスさんからの情報だと思っていましたが、違うのですね」
「質問に答えろ。本物のダズマだったとしても年齢が違う。理由を言え」
「ダズマは生まれた時から体に疾患がありました。長く生きられない体だったのは嘘ではありません。だからこそ、ラーファはアンリを殺して臓器を奪おうとした」
それは本当の事だったのか。一応ダズマのことをもっと詳しく見ておくべきだな。多分、臓器移植した情報を魔眼でみれるはずだ。
「ですが、逃げられてダズマの命を救う事ができなくなった。そこで兄はダズマをコールドスリープの装置に入れました。あれは元々医療器具です。生命活動を極端に減らして、ダズマの時を止めたのです」
コールドスリープ? ああ、アモンが第三世代の調整を生き延びるのに使った装置の事だな。そうかノマも生き延びているなら装置は二つあるはず。その一つにダズマを入れていたのか。
「日記にはダズマが死んだことを図書館に書かれない様にトラン国で魔法を禁じたとありますが、本来は機神ラリスにダズマが死んだと思わせるようにするためです。魔法を禁止したからダズマが死んだという事が図書館の情報に反映されない。機神ラリスにはそのように説明したそうです」
管理者達にとって図書館の情報は絶対だ。ダズマが生きているという情報を疑う訳がない。だが、魔法を禁止にしていたから情報が更新されなかったと言えばある程度は騙せるのか。
「なんでそんなことを――いや、そうか。ダズマの影武者が必要だったんだな。それを機神ラリスに作らせた」
「その通りです。ダズマはコールドスリープで表舞台から姿を消します。ですが、いつか体を治し戻ってくる。それまでの代わりが必要だった。残念ながら当時の私や兄の技術を持ってしても自律型のゴーレムは作れませんからね。機神ラリスに頼むしかなかったのです」
ダズマを王にするためとはいえ、色々と無茶をするな。神を騙して影武者を作らせたのか。
「ダズマが生き延びたのは分かった。でも、なんでだ? アンリはまだ生きている。移植できる臓器はないはずだぞ?」
「適合者はなにも血縁だけとは限りません。極まれにですが、血縁関係のない相手でも適合する相手がいるのですよ。それをトラン中で探しました……トラン城地下のダンジョンに閉じ込めて一人一人調べたようですね」
「魔力を作り出すことが目的じゃなかったのか」
「それもありますが、メインは適合者を探すためですね。いまから八年ほど前ですか。ようやく見つかりました。適合率が高い相手がトラン国にいたのです」
「……その相手はどうした」
アモンは悲しそうに首を横に振った。
「残念ながらその子は亡くなりました。生きるために必要な臓器ですからね。それが無くなれば死に至ります。日記に書かれていた墓に埋葬されたのはその子です」
「……そうか。随分と可哀想な事をしたんだな」
「はい、兄もラーファも葛藤したようですが、マユラやトラン王を殺しておいて、いまさら後には引けないと手を下したようです」
外道な事をしている意識はあったのだろう。そしてそのすべてが無駄になるくらいなら更なる外道な行為でも躊躇しなかったか。
「臓器移植は成功して、ダズマは元気になりました。ラーファの喜びようは言葉では言い表せない程だったと聞いています。ですが、ラーファは一度だけダズマを抱きしめてそれきりでした」
「なぜだ?」
「自分を本物だと思っている影武者の存在、それにアンリが生きているという事実、もしくは罪の意識かもしれません。これらの理由から、本物のダズマと一緒にいるのは良くない思ったのでしょう」
本物のダズマが生きていれば命を狙われる可能性があったと言う事だろうか。
「その後、兄とラーファは新たな計画を立てます。それはいくつかのパターンがありました。まずアンリを殺せた場合、これは簡単です。その後、影武者も殺して本物のダズマを入れ替えるだけです」
「入れ替えるには年齢が違いすぎるだろう? 若いうちの十年はかなり違うぞ?」
「トラン国の国民は地下で眠っているのです。いつか解放するにしてもすぐじゃない。ある程度の年数が経てばダズマの年齢なんてどうにでもなります。それに成長促進の機械くらい機神の技術があれば作れますしね」
随分と簡単に言ってるな。おそらく可能なんだろう。
「次に影武者がアンリに負けた場合です。これは現実に起きましたね。その場合、フェルさんを暴走させてアンリを殺す様に仕向けます。その後、ダズマを王にするという計画ですね」
「待て。私がそんなことを認めるわけないだろう。絶対に阻止するぞ?」
「そうでしょうか? 事情を話せばダズマが何の関係もないことが分かるはずです。怒りはするでしょうが、フェルさんはそんなことでダズマを殺すような事はしない」
自分より、他人の方が私を分かっていると言うのは気味が悪いな。だが、確かにその通りだ。ラーファやノマを許すことはできなくても、ダズマは関係ないと思う可能性が高い。
「そして最悪なパターンは影武者が負け、アンリはフェルさんの暴走があったとしても生き残る、という場合です。その場合、ダズマの命だけは確実に守らなくてはいけません。兄は王城が破壊されない事でそのパターンになったと思ったのでしょう。ダズマをよろしく頼むと連絡が来ました。その後命を絶ったようです」
「なんで死ぬ必要があった?」
「ラーファの後を追いたかったというのが一番の理由でしょう。それにあの場所で死ぬことには意味があるのです。影武者であるダズマが死んだという事と、日記が見つかる事の二つが重要でした。あの日記には知っての通り嘘が書かれています。本物のダズマが死んでいる事、そしてラーファが仕方なくマユラとトラン王を殺したという事です。そうすることで本物のダズマは安全になり、ラーファには同情が集まる、そんな考えだったのです。ダズマの事は計画通りでしたが、ラーファへ同情を誘うような内容を書いたのは兄の独断でしょう」
色々と考えているんだな。最悪の場合でもダズマの命だけは助かる様にしていたのか。
でも、ちょっとおかしい気がする。
「気になっているのだが、その計画には私の暴走が組み込まれている。結果的に私は暴走してしまったが、それにしては随分とずさんな計画じゃないか? 私がアンリに手を貸さない、もしくは玉座の間まで行かないという可能性もあったはずだ」
アモンは少しだけ笑った。
「フェルさんの事は色々調べました。兄とラーファは焦っていたでしょうね。まさか戦争に参加しないとは思ってもいなかったようです。せっかくゴーレム兵を使ってフェルさんが戦争に参加しやすい形にしたのに、ね。最終的にはレオやジェイ達を使って軍を足止めすれば、フェルさんが出てくると踏んでいたようです」
もしかして私が何もしない方が良かったのだろうか。いや、それは分からないな。アビスとの連携ができなければ、アンリがあの影武者に勝てたかどうか分からないし……念話のイヤリングがあったから、アンリとアビスは直接話ができるな。いかん、結局、私って場を荒らしただけか?
「真相はこんな感じですよ。これも証拠がある話ではありません。ただ、ダズマが生きている事が証拠と言えば証拠ですね。そうそう、フェルさんの言った通り、ダズマはレオ、ジェイ達が連れて来てくれました。最悪なパターンの時にダズマを護衛して私へ届けるという命令をしていたようです」
「ジェイが魔石を食われるとか言っていた話は嘘か?」
「そんなことを言ったのですか? そうですね、それは嘘になります。フェルさんを確認したら投降しろとだけ命令していたはずです。まあ、レオはフェルさんと戦いたかったようですが。それ以外では、玉座の間には近づくなとか、ダズマの疾患について教えておけとも命令したようですね。兄は慎重でしたから色々と保険をかけていたのでしょう」
コイツら嘘ばっかだな……いや、それだけダズマを守りたかったという事か。
「さて、どうでしょう、フェルさん?」
「どうでしょうって、何がだ?」
「フェルさんは真相を知りました。そしてダズマが生きているのも知っています。フェルさんのこの後の行動が気になるのですよ。どうする気か教えてくれませんか?」
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