大きな宴
今日は朝から宴だ。
村に人が多くなったし、出し物もかなり増えた。今日は皆で仕事を休みにして朝から夜まで騒ごうということになっている。
宴の食費に関しては私が金を払うと言ったら、リエルが割り込んできた。
「おいおい、ここは俺が奢るところじゃねぇか。なんでフェルが奢るんだよ?」
「リエル救出を祝う宴なのにリエルが奢るのはおかしくないか?」
「むしろフェルが奢る方がおかしいだろ? いいからここの払いは任せろって」
これから孤児院の運営でお金が必要だというのに大丈夫なのだろうか。
そう聞いてみたら特に問題ないらしい。聖人教の設立で使ったお金に関してはバルトスとシアスが出しているようで、リエルはほとんどお金を出していないとか。孤児たちを引き取ったことで、バルトス達が考慮してくれたんじゃねぇかな、とリエルは言っていた。
それにリエルは村の皆と貸し借りのない関係になりたいらしい。村の皆は何も言わないが女神教のせいで色々と迷惑を掛けた。壊れた物の弁償とかを申し出ても皆が気にしないでいいというので、せめてこういうので返しておきたい、とのことだ。
そう言われてしまうと、でしゃばる訳には行かないので、今日の宴はリエルがお金を払うことで決定した。
リエルと別れて、広場でステージを作っているロン達を見ていたら、ムクイ達が帰って来た。大量の肉を持ってきたようだ。
「フェルさん、無事だったんだな! フェルさんを一ヶ月も眠らせるなんてどんな奴と戦ったんだよ!? もしかして龍神様みたいな奴なのか?」
「まあ、似たようなものだ。お前達はドラゴニュートの村まで戻れたようだな?」
「おう、ナガルさんが村からここまで戻って来てたからな。通った道を教えてもらったから迷わずに行けたぜ!」
そういえば、大狼が聖都襲撃中に駆けつけてくれたな。あれが無かったら結構ヤバかったかも知れない。あの結界内で戦ったらバルトス達にも負けていた可能性はある。後で改めて感謝を伝えておくか。
ムクイ達は持ってきた肉をニアに渡してくると言って離れて行った。ワイバーンの肉かな。楽しみだ。
ムクイ達を見送ると、今度はエルフ達が来た。隊長と数人のエルフ達だ。
「ミトルから連絡を貰ったんでな。また宴に呼んでもらえて感謝する」
「気にしなくていい。楽しいことは分かち合った方がいいからな」
「そうか。なら私達はまた音楽でも奏でよう。そうそう、リンゴが欲しいとも聞いた。持ってきたから受け取ってくれ。あと、ジャムや野菜なんかも持ってきた。今日の宴で使って欲しい」
「こっちが呼んだのに気を遣わせてしまったな。なら食材は宿にいるニアって女性に渡してくれ。知ってるよな?」
隊長達は頷くと宿の方へ歩いて行った。
ふと見るとステージの近くではゾルデ達が既に酒瓶をもって盛り上がろうとしている。まだ始まってないのに、何やってんだ?
「これはタイミングがいい時にきたかもしれんな!」
いきなり馬鹿デカい声が聞こえた。そちらを見ると、オルドと十名程度の獣人がいた。村のアーチのところで村の中を見ている。
「オルドか? なんでここにいる?」
「おお、フェル、無事だったようだな。空中庭園から脱出ポッドで落ちてきたと聞いた時は驚いた。大丈夫だとは思っていたが心配はしたんだぞ?」
「そうか、それはありがとう。だが、そんなことはどうでもいい。オルド達はなぜここへ?」
「仕事をくれると言ったではないか。獣人達から希望者を募って連れてきたのだ。ズガルというところに何人か置いて来たが、ここでも仕事をくれるのだろう?」
そういえば、そんな約束をしたな。ドワーフのおっさんのところで鍛冶を学びたいとか言ってたし。
「分かった。でも、今日は宴だからな。まずはオルド達も楽しんでくれ。仕事の話はそれからだ」
「そうか。ならば遠慮なく楽しませてもらおう。その前に村の代表者へ挨拶するべきだな。あちらの方かな? ちょっと挨拶してこよう」
オルドはそう言うと、獣人達を引きつれて村の中へ入ってきた。そして村長の方へ歩いていく。
この村に人界中の種族が集まっているような気がする。まあ、宴は人が多い方がいいだろう。持ち込みの食材も増えているわけだし問題ないよな。
「フェル姉ちゃん。今日は人がいっぱい。いままでにないくらい大きな宴になりそう。興奮してきた」
「アンリの言う通り。今日のダンスは最高のものにしよう」
アンリとスザンナが近寄ってきた。朝から宴とは言っても、まだ準備中だからだろう。邪魔しないようにここまで来たようだ。
確かに人がいっぱいだな。私が食べる料理の量が減ってしまうという事だ。負ける訳にはいかない。
「フェル姉ちゃんはなにか出し物をするの? アンリとスザンナ姉ちゃんはバックダンサーとして活躍するつもり。主役を食って見せる」
「まあ、頑張ってくれ。私の出し物はない。見るのと食べるのが専門だ」
「ならオリスア姉ちゃん達は?」
流石にそれは無いと思う。昨日の件を結構深刻に考えていたようだし、昨日の今日で切り替えてはこれないだろう。例え切り替えたとしても、こういう騒ぎに積極的には参加しない気がする。
「無いと思うぞ。アイツらがそういう出し物をすること自体、想像できん」
「残念。オリスア姉ちゃんなら剣舞とかできると思ってたから、見たかった」
剣舞か。できなくはないと思うが、やらないだろうな。昨日はオリスアが一番ショックを受けていた。魔王をやってくれ、と言うのは、いきなり過ぎただろうか。
でも、いつ言ってもいきなりになるよな。魔王を譲渡するなんて事例は、私が魔王様に魔王を譲った時の一度だけだ。しかもそれは、私と魔王様だけの中で終わってて、私に敬意を払うな、では魔族に通じてなかった。よく考えたら当たり前だな。
魔族全体を巻き込んでの魔王の譲渡。結構時間が掛かるかもしれない。部長クラスで決める条件とやらが上手くまとまってくれればいいんだけど。
「フェル姉ちゃん、考え事?」
「そうだな。ちょっと考え事だ。宴が始まるというのに無粋だった。考え事はやめて楽しむか」
「うん、今日のアンリはフルパワーで楽しむ。フェル姉ちゃんもスザンナ姉ちゃんもちゃんとアンリに付いてきて」
「それは私のセリフ。アンリこそついてこないと置いて行っちゃうよ?」
「スザンナ姉ちゃんからの挑戦だと受け取った。アンリのフルパワーに恐れおののくがいい」
「お前ら何をする気なんだ? 普通に楽しめ、普通に」
そんな話をしていたら、ステージが出来上がったようだ。そして村長がステージに上がる。
「では、今日はリエル君の救出を祝って宴を行う。一日くらい仕事を忘れて皆で楽しもう!」
村長がそう言うと、歓声があがった。盛り上がりが半端ないな。空気が震えているような感じだ。
「俺からも一言いいか?」
リエルがステージに上がった。村長が笑顔で頷き、場所を譲る。
「俺のせいで皆には色々と迷惑を掛けちまったな。でも、親友達や皆のおかげで帰って来れた。本当に感謝している。この程度じゃ足りないかもしれねぇが宴の費用は俺持ちだ。たくさん食ってくれ!」
リエルの言葉にまた歓声が上がった。皆、楽しそうだ。
「腕によりをかけて料理を作ったからね、残すんじゃないよ!」
ニアがそう言うと、ヤトとメノウがテーブルの上に料理を置き始めた。既に香りがいい。早く食べよう。
「フェル姉ちゃん、スザンナ姉ちゃん、早く行こう。まずはデザートをゲットしないと。チョコレートアイスが無くなっちゃう」
「アンリ、それは邪道だ。デザートは最後に食べる物だぞ? 甘いものは最後に食べる。それが先人の知恵だ」
「邪道だって道には違いない。人は綺麗ごとだけじゃ生きていけない。時には汚れないと。それが人生」
「デザートで人生を語るんじゃない。というかアンリって五歳だよな? 私と同じように不老不死とか言わないでくれよ?」
そうだとしても驚かないけど、何となくだが、アンリにはちゃんとした大人になって貰いたい。
「うん、大丈夫。アンリはぐんぐん大きくなってる。いつかフェル姉ちゃんをおんぶしてあげる。おかえし」
「それはそれで屈辱的に感じるんだが?」
「アンリもフェルちゃんも話してないでまずは料理を食べよう? 早くしないと無くなっちゃうよ? あの獅子っぽい獣人がたくさん食べちゃいそう」
「そうだった。今日は人が多い分ライバルも多い。急ごう」
三人で戦場へ乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます