救出作戦会議

 

 メイドギルドの会議室を借りて、皆に集まる様に念話を送った。


 状況確認をした後、聖都へ正面から乗り込む作戦について相談してみよう。


 正直なところ、異端審問官と勇者、賢者を叩きのめしてリエルを救い出すだけだと思っていたが、思っていたよりも聖都に人が集まり過ぎている。このまま聖都に乗り込むとまずい。


 爺さんは魔族として正面から戦えばいいと言っているが、本当に大丈夫だろうか。普通の人達は巻き込まず、必要最低限の被害だけでリエルを救い出したい。もっといい方法があると思う。


 会議室にある大きな円卓に座り、皆を待った。既に爺さんとその孫のアミィは席についている。私の背後にはメノウが立っているが、なぜかステアも一緒に立っていた。


「えっと、ステアは何でいるんだ?」


「メイドですので」


「答えになってないよな?」


 まさか聖都へ連れて行けとかいう話なのだろうか。戦力としては必要ないが、色々と使い勝手がよさそうな気はする。聖都に何人かメイド達がいるようだし、指揮してもらった方がいいのかな。


 色々考えていたら皆が集まってきた。


 それはいいのだが、多くのメイド達が会議室に入ってくる。そのまま壁際に移動して等間隔で立った。何も言わないけど、いるのが当然と言う顔をしている。


「メイドですので」


「ステアも私の考えを読めるのか?」


 ステアは少しだけ微笑んだ。肯定という意味か。メイド怖い。


 いつか魔族が人界に住むようになっても、絶対にメイドギルドへは所属するなと伝えておこう。メイドっぽい魔族が魔界に誕生したら困る。


 よし、揃ったようだし、まずは状況確認だ。


「皆、急に呼び出してすまないな。そろそろ本格的にリエルの救出作戦を考えたい。だが、その前に状況確認も必要だ。それぞれ報告をお願いする」


 そう言うと、ヴァイアが手をあげた。


「私はノストさんやヤトちゃんとヴィロー商会の支店に行って来たよ。ものすごい量の食材を受け取ったから、聖都までの食事は大丈夫。それと、野営用の道具も用意してくれていたから、十日くらい野宿しても大丈夫だね」


「そうか。ラスナやローシャは色々用意してくれたんだな。あとでちゃんと礼を言っておこう」


「うん、食材や野営の道具はヤトちゃんに渡しておいたからね。あと、携帯食料だけは個別に用意しておいたよ」


 ヴァイアがそういうと、皆の前に小さな袋が現れた。転移させたのだろう。ステアを含めたメイド達が全員ビクっとなったが、口を挟むようなことはしないようだ。私達はもう慣れたけど、ステア達の反応が普通だよな。


「そんなに量は入らないけど、空間魔法を付与した袋に携帯食料を入れておきました。もちろん水も入っているから、いざという時のために身につけておいてください」


 食糧は大事だ。皆で行動するから大丈夫だとは思うが、離れ離れになって合流できない場合もあるだろう。ヤトに食糧が集中しすぎるのも問題だからこれはありがたいな。


「それと全員共通のチャンネルで作った念話用魔道具を用意しました。腕輪にしておいたからこれもつけておいてください。皆で念話を共有する感じになるから慣れるまでちょっと大変かもしれないけど、女神教の念話妨害を無効化できるし、盗聴や乗っ取りも対策しておいたから安心して使えますよ」


 今度は腕輪が皆の前に現れる。ウゲンで使ったような多人数の念話用魔道具か。そして色々な対策が施されている、と。


 ドレアがものすごい目つきで腕輪を見ている。いきなり解析とかするなよ。


「他にも念話以外の音を周囲から拾ったり、念話の内容を腕輪から出力したりすることもできます。いまから使い方をレクチャーしますね」


 相変わらずヴァイアはおかしいな。今回は頼もしいけど。


 色々と使い方の説明が終わった後、皆が腕輪を腕にはめた。当然、私も。ヴァイアが「以上です」と言い頭を下げると、なぜか拍手が起きる。


 拍手が終わった後、今度はディアが手をあげた。


「私はオリスアさん達と一緒に町の中を調べてきたよ。何人か異端審問官がいたから捕まえて色々聞きだしたんだ」


「襲われたのか?」


「ううん、襲われる前に襲った感じ。あ、大丈夫だよ。異端審問官は毒とか危険な物を持っている場合が多いからね。襲っても正当防衛ってヤツだね!」


 正当防衛ってそういうものだっけ? いや、気にしている場合じゃないか。


「何を聞き出せたんだ?」


「洗脳されてたからヴァイアちゃんの魔道具で洗脳を解いたんだ。そうしたら色々喋ってくれたよ。聖都なんだけど、破邪結界が強化されているみたいだね。えっと、聖都で降神の儀っていうのが行われるんだけど、それの対応で今までにないくらいの結界が張られているんだって」


 破邪結界か。


 これまでのところ、魔族に対してそれほど効果はない。従魔達はダメだったけど、私やルネは気持ちが悪い程度だった。今回も大丈夫だと思っていたが、警戒した方がいいのだろうか。


 うん、そうだな、失敗は許されない。慎重になるくらいがいいだろう。


「その結界を無力化する方法って分かるか?」


「結界を維持する施設が四つ、聖都の周辺に建ってるんだよね。その施設を全部壊せば結界はなくなるらしいよ。逆に一個でも残っていれば、結界の維持は可能みたい」


「四つの施設か。正確な場所は分かるか?」


「それは分からないかな。一応トップシークレットで私も正確な場所は知らないんだ」


 明日から聖都に向かっても四日掛かる。五日後には降神の儀だ。魔王様がいるとはいえ、リエルの精神が女神に乗っ取られる前に救い出したい。


 一日で四つの場所を確認して全て破壊するのは無理だろう。それに一個破壊すれば、当然他の施設は警戒する。やるなら聖都に乗り込む直前、その時に四つとも同時に破壊するべきだ。


 正直なところ、無理っぽいな。結界はそのままで戦うしかないか。


「フェル様、発言の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」


「ステア? それは構わないし、そもそも私の許可なんて必要ないぞ」


「はい。では、提案させていただきます。その施設の場所でしたら、我々メイドギルドが命に代えても見つけてまいります。リエル様をつけて行ったメイド達もおりますし、聖都にも何人か既におりますので、フェル様が聖都へ到着するまでにはご連絡できるかと思い――いえ、連絡できます」


 言い切ったな。頼もしい気はするけど、メイド達にそこまで無理をさせるのはどうかと思うんだが。大体、命に代えるな。


 とはいえ、他に有効な手段もない。ここはお願いするしかないか。


「分かった。なら、メイドギルドに依頼する。礼は後でするから頼む。だが、無理はするな。最悪、結界があったままで戦うから命に代える必要はない」


「畏まりました。早速連絡しておきます」


 こっちはこれでいいだろう。後は施設を破壊するチームだな。四つに分ける必要がある。これは従魔達と相談しないといけないから、移動中に決めるか。


「ディアの情報は以上か?」


「そうだね。今のところある情報はこれだけかな」


「分かった。では、他に誰か報告はあるか?」


 見渡したが誰も手をあげたりしない。皆からの報告は以上という事だな。


「では、私から報告だ。リエルの事だが、さっきディアの報告であったように降神の儀が五日後にある。降神の儀とは簡単に言うとリエルが教皇になる儀式だと思ってくれ」


 会議室がざわついた。


「皆、落ち着いてくれ。正確な状況は分からないが、手紙によるとリエルは先代聖女に乗っ取られている。おそらくその状態で教皇になるのだろう」


 その状態からさらに女神に乗っ取られるんだけど、そのあたりの事情は実際のところはどうなのだろう? 女神がいきなりリエルを乗っ取ることができないからワンクッション置いた、と思うんだが……いや、そこはどうでもいいな。


「リエルが教皇になると色々と問題があるかもしれない。なので、降神の儀が終わる前にリエルを救い出す。救い出してもリエルは先代聖女に乗っ取られているが、それは治せる当てがあるから心配しなくていい。とりあえず、降神の儀が終わる前に片を付けるという認識でいてくれ」


 全員が頷いた。


 ここまではいい。問題は救出するための作戦だ。


「救い出すと言っても、どう救い出すかが問題だ。私としてはリエルを救い出すのに魔族の力を一般人に見せつけるのはどうかと思っている。だが、最優先はリエルの救出だ。どうにもならなければ、私がユニークスキルを使って救い出す。人族と友好的な関係になるという方針を打ち出しているのに、私がそれをしないのは魔族の皆に申し訳ないと思っているのだが」


 ドレアが首を横に振った。


「リエル殿はフェル様のご親友。方針は存じておりますが、ロモンにいる人族に怖がられるとか嫌われるとかを考えている場合ではありません。むしろ、最初からフェル様のユニークスキルを使って恐怖を振り撒いてでもリエル殿をお助けするのが正しいかと」


 ドレアの言葉にサルガナが頷く。


「私もドレアの意見に賛成です。我々は魔族。人族全員と友好的な関係になるのは無理かと思います。フェル様のおかげで、ルハラやオリンに関しては友好的な対応をしてくれています。それで充分ではないでしょうか」


 そういう考えか。確かにルハラやオリンは友好的だ。でも、それがずっと続くわけじゃない。私の力を見た人族が強さの乖離に怯えて魔族排斥に乗り出したら困る。それだけならともかく、それが原因で人族同士の対立とかが起きたら目も当てられない。


 悩んでいたら、ディアが手をあげていた。


「ドレアさん。フェルちゃんは、ルハラでユニークスキルを使ったんですよね? ルハラでどんな風に思われてるんですか?」


「ふむ、兵士達やその町の者達はフェル様に対してそれほど恐怖を感じていないな。だが、その理由は前皇帝にある。前皇帝は役に立たない者や逆らう者は女子供でも殺すという暴君だった。フェル様よりも皇帝に恐怖していただろう。むしろ、その暴君を倒したことでフェル様を英雄視する者もいる。まあ、現皇帝のディーンがそれを事あるごとに宣伝しているからな」


「ありがたい話だが、後半の話はなんだ。ルハラに帰ったら、ディーンにそんな事するなと言っておけ。いや、魔族の力を見せてでもやめさせろ」


 本当に後できつく言っておかないとダメだな。もっとこう、知ってる人だけが知っている的な英雄の方が恰好いいだろうが。宣伝されてたら恥ずかしい。私は謙虚に生きたい。


「なら、同じことができるんじゃないかな?」


「同じことってなんだ?」


「うん、女神教をフェルちゃんの力で蹂躙してリエルちゃんを助けた後に、ちゃんと宣伝してもらうんだよ。女神教は悪い宗教だったとか、リエルちゃんが精神を乗っ取られそうになっていたとか。そうすれば、フェルちゃんや魔族の評判が落ちることは無くなると思うよ。それにルハラとオリン、ギルドからも声明を出してもらうんだよね? そこまでしているんだから大丈夫だと思うけど」


 その言葉に皆が頷いている。ただ、ヴァイアだけは首を横に振った。


「ヴァイアはダメだと思うのか?」


「ううん。フェルちゃんが魔族の力を見せるのは大丈夫だと思うよ。でも、あのユニークスキルはダメ。ルハラで使った時はリエルちゃんがいたから酷いことにならなかったんだよ。アレを治せるのは相当な治癒魔法の使い手じゃないとダメだと思う」


 そういえば、スキルを使った後、リエルが皆を治療していたんだっけ。


「それに今回は場所的にリエルちゃんも巻き込むよね? あのスキルで死ぬことは無いって言ってたけど、アレをすぐに治せないなら絶対に死んじゃうと思う」


 それもそうか。あの弱体効果には毒や麻痺なんてものもある。数日放っておかれたら確かに死に至る。リエルを巻き込んだら乗っ取られる以前に命が危ない。


「そうだな。分かった、あのユニークスキルは使わない。あれは危険すぎるみたいだからな」


 ヴァイアが嬉しそうに頷いた。


 どうもあのスキルはヴァイアに受けが悪い。まあ、敵味方関係なく巻き込むし見た目が悪っぽいからな。ヴァイアは私が昔の魔族みたいに思われたくないと言っていたから、使ってほしくないのだろう。とはいえ、やらなきゃいけない時はやるけどな。


「フェル様、まだ時間が掛かりそうですので、先に夕食に致しませんか。高級食材はありませんが、腕によりをかけて作らせていただきますので」


 背後からステアがそんなことを進言してきた。窓の外を見ると確かに随分と日が落ちている。


「そうだな。まだかかりそうだし、先に食事にするか」


「畏まりました。では、皆さん。メイドの腕前を見せる時ですよ。まずいというような感想が出た時には――分かっていますね?」


 分かりたくないけど、何となくわかる。


 ヴァイアの作った念話用魔道具で絶対にまずいと言うなよ、と連絡した。

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