破壊工作

 

「そんでさー、おかしくない? 魔法を使っちゃダメなのに、魔法でゾンビ作って町へ攻め込めなんて。むしろ、トランに攻め込んでやろうか! とか思っちゃうわけよ! あ、この飲み物、おかわり貰える? え? ダメ?」


 話を聞くためにジェイを城の食堂まで連れてきた。ちょっと後悔してる。


「おい、もう少し静かにできないのか?」


「えー? おしゃべりしようよー。話せることは色々話したじゃん? トランだと、喋る人が少なくてさ、会話に飢えてんだよね。レオなんて私が話しても何も言わずに鼻で笑うんだよ? その点、フェルちゃんはいいよね。何言っても反応してくれるし。念友にならない?」


 念友ってなんだ? 念話だけの友達ってことか? うん、嫌だ。


「断る。それにお前にちゃん付けされると気持ち悪いんだが?」


 やっぱりジェイの言葉に反応なんかしない方が良かったのかもしれない。なんというか、さっきから馴れ馴れしいし、他の皆は「フェル様にお任せします」とか言って、どこかへ行ってしまった。


 私って魔王の上にこの町なら王様なのに扱いが酷い。一番厄介なことを任された気がする。


 まあ、一応ジェイから精神を乗っ取る時の話は聞けたから良しとするか。仮面じゃなくなったからそういう技術は使えなくなったらしいけど、なんとなく本能で分かるらしい。


 聞いた話によれば、対象の精神が弱っている時が乗っ取りやすいそうだ。意思が強い奴はなかなか操れない。当然といえば当然だな。


 そして人には眠りが必要。あれも精神が弱っていると同じらしい。相手が眠ってしまえば乗っ取るのも余裕だそうだ。意識を奪っても、強い意思で乗っ取り返せるらしいが、それはよほどの事がない限りは難しいとのこと。


 リエルは魔王様から送られたペンダントがある。だが、起きていられるのも一日程度だっただろう。もうすでにリエルの意識はないということか。


 リエルが女神に乗っ取られているとしても、魔王様が何とかしてくれるだろうから、心配はしていない。だが、女神の奴がリエルの体を使って何をするのかがいまいち分からない。


 魔王様は人界征服みたいなことを言っていたが、本当にそれだけの理由なのだろうか。大体、なんで人族に? そのままじゃダメなのか?


「おーい、フェルちゃん、どうしたの? そのジャガイモ揚げ貰っていい? ダメだって言っても貰うつもりだけど、後から文句言わないでね?」


「ふざけんな。やるわけないだろう。お前は一応捕虜なんだから、ちょっと、いや、すごく大人しくしていろ」


 そういえば、コイツも元は無機物。今は人として活動しているみたいだけど、一応聞いてみるか?


「聞きたいんだが、お前は人族になりたいとかいう願望があったりするか?」


「は? 何それ?」


「いや、ジェイ本人が亡くなった時、自分もそのまま眠ろうとしたんだろう? でも実際は新しい体を貰って人族として生きているように見える。私には分からないが、インテリジェンス系のアイテムって人族になりたいのかな、と」


 タンタンなんかも昔は魔族の体を乗っ取ろうとしていたからな。レモが力で抑え込んだけど。


「いや、どうかな? 私の場合は約束があったからだけど、他の意思のあるアイテムがどう思っているかは分からないよ。それに私達ってどちらかというと所有者の影響を受けやすいんだよね。私のこの性格もジェイ本人に近いし」


「そうなのか?」


「そう。だから、人族になりたいとか思うのは、影響を受けた人によるんじゃないかな? それ以外だと、作られた性能によると思うけど」


「作られた性能?」


「えっと、私みたいな仮面とか、えっと、タンタン? とかは、人を操って動くタイプだからね。どちらかというと人になりたいほうだと思うよ」


「ということは、人を操らないタイプのアイテムなら、人になろうとは思わないのか?」


「正直分からない、としか答えられないね。そもそも人を操らないタイプの奴なんか知らないし」


「そうなのか……使えないな」


「ひどくない? 傷ついたからジャガイモ揚げ貰っていい? あ、ダメ? ケチすぎない? ……ごめんなさい、なんでもないです。フェルちゃんはまじ器デカいです」


 ジェイに聞いてみたけど、よく分からないな。そもそも、アイテムに宿っている意思って何なのだろう? 女神と同じものなのかな? そこからしてよく分からない。


 色々と考えながら、ジェイとジャガイモ揚げの攻防を繰り広げていたら、レモが食堂へ入ってきた。


「フェル様、よろしいですか?」


「どうした? ジャガイモ揚げはやらんぞ?」


「怪しい奴が町に近づいて来てます。多分、レオって奴ですね。どうしましょうか?」


 ジャガイモ揚げに関してスルーされた。だが、そんなことはどうでもいいか。レオってジェイと同じようにアダマンタイトの冒険者で、元はインテリジェンスソードだった奴か。


「ちょうどいいや、ジェイを渡して帰って貰え。もう聞きたいことは聞いたし、邪魔だから」


「ひどくない? これはアレかな? 私の体が目的だったのね!」


「分かりました。それじゃあ、返してきます」


「無視は良くないと思います!」


「あ、そうだ。もう町に来るなって伝えておけ。相手するのが面倒くさいし」


「はい、それも伝えておきます」


「それって私が面倒くさいって意味じゃないよね? 戦争が面倒くさいって意味だよね? そうだと言って!」


 レモはジェイを脇に抱えて食堂を出て行った。また会うかもしれないけど、できればしばらく会いたくないな。


 さて、気持ちを切り替えよう。そろそろ夕食だ。今日は何かな?




「はろー。ジェイちゃんがいなくて、寂しかった? ここだけの話にするからちょっと言ってみて? 内緒! 内緒にするから!」


 レモがジェイとレオを両脇に抱えて戻ってきた。なにをしているのだろう。確か、私はジェイを返してこいと言ったと思うのだが。


「レモ、どういうことだ? もしかしてここでの待遇に不満があったりするのか? そういうのは行動じゃなくて言葉で示してほしいんだが」


「いえ、そういうのではありません。南門のところでジェイを放り投げて、『持って帰ってください』といったのですが、なぜか戦いになりまして。叩きのめしたままにしていいか分からなかったので、持って帰ってきました。指示をお願いします」


 抱えられているレオを見る。


「お前、何してんの? どうせ、ジェイを取り返しに来たんだろ? 連れて帰っていいからトランに帰ってくれないか?」


「……何の罠だ?」


「罠? 罠ってなんだ?」


「ジェイはアダマンタイトだ。簡単に返すわけがないだろう? それを返すということは何かの罠があるに決まっている」


 ああ、そういう。


「いや、罠なんてないぞ」


「信じられるか」


「なら言い方を変えてやる。お前らごときに罠なんて必要ない。戦いたければいつでもこの町を襲ってこい。まあ、大した損害を与えることも無く追い返されるだろうけどな」


 レオの眉間にシワがよる。怒っているのだろうか。私も食事を邪魔されて怒っているんだが。


「魔族だからといって、舐めすぎじゃないか?」


「捕まっておいて何を言ってる? レモは魔族の中でも弱い方だぞ? レモに勝てないようで、この町にいる魔族に勝てるとでも思っているのか?」


 ガリプトとルントブグ以外にも五人いる。挨拶されたときに見たけど、全員レモよりは強い。


「馬鹿な! あれほどの剣技を持っていて弱いだと! それにコイツは初めて見たはずの剣技をそのまま使ったんだぞ! いい加減な事を言うな!」


「ああ、そうか。相性が悪かったな。レモは一度見た技をほぼ完璧にコピーできる。お前が技を見せすぎたんだろう。相手の情報がない状態で戦うからそうなるんだ」


「そんな、馬鹿な……お前と戦った時だって、そこまで力の差は……」


 普段、私は能力を制限しているからな。もしかしたら勘違いさせてしまったのかも……まあいいか。関係ないし。


「えっと、それじゃレモ、二人とも南門の外へ放り出しとけ。後は勝手に帰るだろ」


「分かりました。では、そうします」


 ジェイが笑いながら「またねー」とか言ってる。もう来なくていい。さあ、シチューが冷めてしまう。早く食べよう。




「はろー。これが二度あることは三度あるってヤツだね!」


 今度はレモの他にヤトとエリザベートも一緒に来た。そして黒い狼が縛られてエリザベートに運ばれてきている。


 もうシチューは食べた。だが、ここからはリンゴゾーンの予定だった。おあずけをされたみたいでちょっとイラッとする。


「一応、どういうことか報告してもらえるか?」


 ヤトが頷いた。


「町の外で隠れていたのを捕まえてきましたニャ。南門でレモ様に会ったので、念のため、指示を仰ぎに来たニャ」


「ああ、もしかして、狼は前回みたいに離れて隠れていたのか? 同じ手で来るからヤト達に捕まるんだ」


 黒い狼はシュンとしている。ちょっとかわいい。


「状況は分かった。南門から外に放り出しとけ。多分、誰かが回収しに来るだろ。この町を攻撃しようとしない限りはもう放っておいていいぞ。明日も早い。コイツらに構っている場合じゃないからな」


 三人は頷くと、ジェイ達を抱えて食堂を出て行った。


 入れ替わるようにクリフがやってくる。すれ違いざまにジェイ達を見て不思議そうな顔をしていた。


「フェル、捕まえた奴らをどうするんだ?」


「邪魔だから南門の外に放り出す」


「なぜだ!? アイツ等がいる限り、ここは攻撃されるんだぞ!?」


「外部からの攻撃にはガリプト達がいれば問題ない。むしろアイツ等は牢屋にいれた方が危ないぞ。多分だが、あれは敵陣で破壊工作をする部隊だ」


「そう、なのか?」


「多分だけどな。アイツら、グリトニの町でも似たような事をしていた。勝てるならそんなことはしないだろうが、負けた場合はわざと捕まり、敵の誰かを操る。そういうのが得意な奴らと見た」


 体内の魔石さえ無事なら逃げ出せるわけだしな。捕まるということにそれほど危険性がない。


 それにジェイはふざけているが相手との距離感を無くすのが上手い。たとえ敵でも受け入れてしまう可能性がある。多分、素なんだろうな。ジェイには詳しい作戦を言わずに使っている感じなのだろう。


 そしてレオが持っているインテリジェンスソード。あれは簡単に相手を操ることができる。見た目が豪華だし、戦利品として扱われるだろう。誰かが手にした時点で作戦成功だから困ったものだ。


「アイツらは何度捕まえてもそのまま町の外へ放り出せ。絶対に抱え込むなよ。戦利品とか賠償金とかを考えて捕まえておくと、とんでもないしっぺ返しを食らうぞ」


「そ、そうなのか……分かった。これはガリプトさん達も知っているのか?」


「どうだろうな。ちゃんと聞いたわけじゃないが、ジェイを連れて帰って来たから分かっていないかもしれない。そもそもジェイ達のことを知らないだろうしな。あとで情報共有しておいてくれ」


「そうだな。了解した」


 これで落ち着いてリンゴを食べられると思ったら、クリフがジッとこちらを見ていた。


「何か用か? リンゴはやらんぞ。手持ちが少なくなってきたからな」


「そうじゃない。若いのに大したものだ、と思っただけだ。ガリプトさん達がフェルに従っているのがなんとなく分かった気がした」


 ガリプト達が従っているのは私が魔王だからなんだけどな。まあ、余計なことは言わなくていいか。だが、気になることがある。


「ガリプト達はさん付けで、私は呼び捨てなのか? 別にいいけど、ちょっとモヤっとする」


「……フェル様って言った方がいいか? 王としてこの町にいてくれるならいくらでも言ってやるが?」


「すまん。フェルで構わない」


「だろう? 私もフェルを様付で呼ぶとちょっとモヤっとする。もう終わったことだが、俺に代理を押し付けやがって、とかな」


「本当にすまん。今度、また酒を持ってくるから」


 一応クリフは納得してくれたようだ。ヴィロー商会にお願いしておこう。


 さて、明日も早い。早めに寝るか。

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