奪還準備

 

 よし、色々準備をしよう。まずは情報だ。女神教がリエルを連れ戻した理由を確認しないと。命の危険があるかどうかは分からない。だが、意識を乗っ取るような事をしているんだ。無事のままでいる可能性は低いと思う。


「メノウ、そこにいるか?」


『はい、もちろんです』


「私はお前の主人じゃない。だから、親友としてお願いしたい。メイドの力で女神教の事を探ってくれないか? リエルを連れて行った場所や理由、女神教の規模、その他、なんでもいいから情報が欲しいんだ」


 正直、情報収集はメイドの仕事じゃないと思うけど、メノウを見ているとそういう仕事も含まれている気がする。


 なんだ? メノウが硬直している?


「おい、メノウ、どうした?」


『……このメノウ、生まれ出でて今日ほど嬉しいことはありません。主人にメイドの能力を請われたのですから!』


「大げさだな。あと、主人じゃなくて親友って言ったよな? 話を聞いてたか?」


『もちろんですよ! 親友であり、主人なんです! 分かりました! メイド網を使って必ずやリエルさんの情報を得て見せます! それにメーデイアのメイド達はリエル様に町を救ってもらった恩があります! フェルさんに言われなくてもやってくれますよ!』


 メイド網ってなんだろう? それにテンションが高すぎる。でも、そうか。メーデイアの町ならリエル達が通る可能性が高い。その辺りで情報を得られると助かる。


「分かった。よろしく頼む」


 えっと、次は戦力が必要だな。私だけで戦ってもいいが、リエルを人質に取られているようなものだ。色々と対処するためには戦力があった方がいい


「アビス、従魔達は大丈夫か? 戦えるのは何人いる?」


『はい、命の危険はありません。ですが、戦えるほどではありませんね。戦えそうなのは、ジョゼフィーヌ達スライムとロス、アラクネ、青雷くらいでしょう。そうそう、戦闘力はありませんが、ライルも大丈夫です』


 ライル? 誰だ? 従魔にそんな奴いたか?


「ライルって誰だ?」


『ダンゴムシです』


 あいつ、そんな名前だったのか……そうか、ダンゴムシは魔物達を操れたな。スキルが使えれば、戦力になるし、何かに使えるかもしれない。


「ジョゼフィーヌ。ライル――ダンゴムシのスキル封印を解除できるか?」


『可能ですがよろしいのですか? 裏切る可能性もありますが』


「それで裏切る様なら私が始末する。スキルを戻してやってくれ。ただし、ロモンまで連れて行くことも伝えた上でだ」


『では早速対応します。可能性があるとは言いましたが、おそらく裏切ることはありません。それにライルもついて来ると言うでしょう。女神教徒に畑を荒らされて怒っていましたから』


 畑仕事が好きになったのかな。まあ、いいことかもしれない。


「分かった。当然戦える奴も全員連れて行く。私が村に着くまで力を温存するように言ってくれ」


『畏まりました』


 ジョゼフィーヌ達は宿を出て行ったようだ。アビスへ行くのだろう。


「よし、次は――」


『フェルちゃん、ちょっといいかな?』


「ディア? どうした?」


『うん、ジョゼフィーヌちゃん達は強いんだけどさ、女神教が使う破邪結界を使われると厳しいんじゃないかな。聖都はあの結界で守られてるんだよね。私が審問官だった頃の話だけど』


 そうか。それを失念していた。


 私のユニークスキル、百鬼夜行を使えば問題はないが、あれは魔力の消費が激しすぎる。私の力も跳ね上げるけど、一時間程度しか持たないから使い勝手が悪い。勇者と戦うことになった場合、タイミングによっては厳しくなるかも知れないな。


 なら、破邪結界の中でも普通に動ける奴らを呼ぼう。


「ディア、助かった。別の戦力も用意しておく」


『うん、よろしくね。あ、そうそう、私も行くからね』


「行くって、どこに?」


『話の流れから考えて聖都に決まってるでしょ? 最近は聖都に行ってないけど、一時期はずっといたからね、道案内できるよ』


 確かにそれは必要かもしれないな。それにディアなら護衛なしでも自分の身は守れる。余計な戦力を割く必要もない。


「そうか。なら期待してるぞ」


『そうこなくっちゃね!』


 ディアはニッコリと笑って指をパチンと鳴らした。


『私も行くよ!』


 ヴァイアが鼻息を荒くしてそんなことを言った。なんだかお怒りだ。


「ヴァイア、お前は――」


『行くよ!』


 食い気味に行くって言われた。いや、ヴァイアならぜひついて来てほしいけど、魔術師ギルドのグランドマスターになるんだから、そういう訳にはいかない。


 ニアの時と同じか、それ以上に危険だし、今回は連れて行く従魔も少ないから護衛が足りない。


「おい、ノスト、ヴァイアを説得――」


『ノストさん、ここで行くなって言ったら、魔術師ギルドのグランドマスターにはならないし、婚約も解消しますから!』


 なんとまあ。リエルのためにそこまで言うのか。


 ノストはヴァイアに向かって優しく微笑んだ。


『言いませんよ。だからヴァイアさんもそんな悲しいことは言わないでください。ヴァイアさんがどうしても行きたいというなら、私が必ずお守りしますから』


『ノストさん……!』


 うん、いいんだけど、緊張感を持ってくれ。あと、周囲の奴らも舌打ちするな。でも、ヴァイア達がずっと見つめ合っていても困る。


「んっん! 分かった、ノスト、ヴァイアをしっかり護衛してくれ。可能ならドワーフのおっさんに武具を作って貰い装備の性能を向上させろ。使い慣れない装備だと逆効果かもしれないから無理はしなくていいけど」


『はい、グラヴェさんと相談してみます。フェルさんが戻るまでに準備を万全にしておきますので』


「頼んだぞ。よし、次は――」


『真打登場』


『右に同じく』


 映像の位置的に見えないけど、宿の入り口が勢いよく開いた音が聞こえ、アンリとスザンナの声がした。厄介な奴らが来たな。


『フェル姉ちゃん。話は聞かせてもらった。アンリはいつでも行ける。村の皆を傷つけた挙句、リエル姉ちゃんをさらうなんて、お天道様が許してもアンリが許さない。皆のボスとして女神教に裁きの鉄槌を食らわせる』


『その通り。今回は誰がなんと言っても付いてく。村で待っているなんて無理。私を止めたければ、アダマンタイトを連れて来るといい』


 ものすごくやる気になってる。気持ちは分かるけどダメだ。


「アンリ、スザンナ。今回はかなり危険なんだ。お前達はいい子にして村で待っていろ」


『フェル姉ちゃんの言葉でも、それには従えない。はっきり宣言する。アンリは反抗期な上に悪い子。さらに闇堕ちして新たな魔王となった。止めたければ勇者を連れて来て』


 魔王は私だ。勝手に名乗るな。


『私は第二次反抗期。大人になる前の最後のワガママ。絶対に行く』


 アンリとスザンナって会わせちゃいけなかったのかな。なんというか二人そろうと強い。


「村長、二人を止めてくれ。私じゃ無理だ」


 村長は二人の前に屈みこんだ。目線を合わせているのだろう。


『アンリ、スザンナ君。絶対に危険な事はしないと誓えるか?』


「おい、村長、何を言って――」


『危険な事はしない。この魔剣フェル・デレに誓う』


 アンリは背中に自分の身長以上の剣を担いでいる。どう考えても振れそうにないんだけど。というか、剣が完成したのか。


『私はもういない両親に誓う。アンリを守るのは私の役目だから、危険な事はしないし、させない』


 スザンナの言葉に村長は頷いた。


 おいおい、まさかとは思うが連れて行けという話なのか?


『アンリ達の覚悟は分かった。なら、おじいちゃんと一緒に行こう。二人とも私のそばを離れないようにしなさい』


 アンリとスザンナがバンザイする。そして村長に抱き着いた。


「ちょっと待て。まさか、村長も来るのか?」


『はい。二人が危険な事をしないための監視役です。それに聖都で会っておきたい相手がいますので……まあ、そっちはついでです。本命はリエル君の救出ですよ』


 いや、そうじゃなくてな。観光じゃなくて戦いに行くんだけど。危険な事をさせたくないなら、そもそも連れて行くな。


 でも、なんだか村長の目が決意に満ちている感じだ。会っておきたい相手って誰なんだろう?


 それはともかく、言っても無駄そうだな。時間が惜しいから、この件は村に帰ってからにしよう。


「言っとくが護衛を付ける余裕はないぞ? だから村に帰るまで連れて行くのは保留にしておく……二人ともブーイングするな」


 よし、村の方はこんなものだろう。他にも色々お願いしないといけないが、先にお願いしておかないといけないところがあるから、また後だな。


「それじゃ念話を切るぞ。各自で色々準備しておいてくれ。私もすぐに村へ帰るから」


 念話を切って周囲を見るとテントにいる皆がこっちを見ていた。


「聞いていたと思うがリエルが女神教にさらわれた。取り返すために聖都へ行く。あと、女神教を潰す。忙しくなるぞ」


 ヤトとエリザベートは大きく頷いた。ロックは驚き、オルドは思案顔だ。


「先に連絡したいところがあるから質問があっても後にしてくれ」


 ドレアのチャンネルに念話を送った。


「ドレアか? フェルだが」


『フェル様? こんな時間にどうされましたかな? ウゲンの事でしたらロックから連絡が――』


「待て、それとは別件だ。ルハラにはオリスアとサルガナが来ているな?」


『ええ、来ておりますぞ』


「ドレア、二人をつれてソドゴラ村へ来てくれ」


『ソドゴラ村ですか? それはどんな理由でしょうか。いま、ルハラでは主要なポジションを任されておりまして、三人とも忙しいのですが』


「リエルが女神教にさらわれた。助け出すためにお前達の力が必要だ」


『なんと、リエル殿が? ですが、我々を集めるほどの戦力が必要かと言うと疑問に思いますが?』


 なんでさっきから行きたくないような事を言っているのだろう? もしかして研究しがいのある魔道具でも見つけたか? なら仕方ない。


「分かった。言い方を変える。魔王として命令する。オリスア、サルガナを連れてソドゴラ村へ来い」


 息をのむような感じの気配が念話を通して感じられた。まさかとは思うけど、跪いてないよな?


『無礼をお許しください。すぐにでも二人を連れて出発致します』


「明日でいい。私達も明日、ウゲンから出発する。私達が村へ着く前にいてくれ。距離的にはそっちが早く着くだろうからな」


『畏まりました』


「すまないな。これは魔族の案件ではなく、私個人の案件だ。魔王として命令できるような事ではない。だが、それでも力を貸してほしい」


『フェル様、我々魔族は全員フェル様の忠実な家臣。フェル様が魔王として命令されるなら、それがどんな理由であれ、応えるのが我々の役目。力を貸してほしい、などとは言わず、力を貸せ、と、そうおっしゃってくだされ』


 そういうのが嫌だったんだけどな。でも、今はそうするしかないだろう。


「分かった。なら魔王として命令する。リエルを助けるために力を貸せ」


『魔王フェル様の御心のままに』


 細かいことはソドゴラ村で伝えると言ってから念話を切った。


 よし、最後は魔王様に話を通しておかないとな。

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