破壊神
私は砂漠のど真ん中に立っている。
ピラミッドのある場所から西の方へ十キロほど移動した。魔王様が言うにはこの辺りで待機していてほしいとのことだ。
魔王様はピラミッドの中で闘神ントゥを動かすための対応をしている。準備は昨日のうちに整ってたが、起動するのにちょっと時間が掛かるとかおっしゃっていた。
しかし、ここで待つのは結構暑い。見渡しやすいように、砂が盛り上がっている高い場所で待機しているのだが、汗でちょっと気持ち悪くなってきた。
ジャケットを脱いで亜空間に入れる。シャツの腕をまくって、ネクタイを緩めた。そして髪の毛を後ろで縛る。
「【能力制限解除】【第一魔力高炉接続】【第二魔力高炉接続】」
うん。涼しい恰好をして、本気を出したらちょっと暑さが和らいだ。もしかしたら魔王モードだと熱耐性がついているのかもしれないな。これなら猫舌も克服できているのかもしれない。
そこへオルドがやってきた。
「ほう、それが封印していた魔王の力か。知識としては知っていたが、見るのは初めてだ。ふむ、今度、儂と腕比べをしてくれないか?」
「封印とか言うんじゃない。単に能力を制限しているだけだ。それに爺さん相手に力を振るう気はない。悪いがこの状態なら跡形もなく滅せられるぞ」
冗談ではなく本気でそう思う。この状態なら魔族達も圧倒できる。するつもりはないが、ウェンディと戦った時、それくらいの差があった。
「言うではないか。しかし、儂もこの状態は本気じゃないぞ? 儂も普段は力を抑えておる。いつか全力を出して、そのまま戦場で倒れたいものよ」
「魔族の中にもそう言うヤツはいるが、管理者との戦いで命を落とすなよ。お前は今回、私の露払いをするんだからな? 役目をちゃんと果たせよ?」
「わかっておる。この戦いでそんな真似はせん……お主との戦いがあるからな!」
「だからやらないって言ってるだろうが」
その後も「戦おう」とか言ってくるオルドを無視。何の意味もない戦いなんかするわけない。
それにそろそろ魔王様の準備が終わると思う。
「アビス、魔王様からの連絡は?」
「いえ、まだありません。ただ、離れていても情報伝達ができるようにして欲しいと言われました。いまドゥアトがその準備をしています」
「念話じゃダメなのか?」
「念話だと一対一でしか情報伝達できません。複数、つまり、全員が全員と話ができる状態にして欲しいとの依頼です……ああ、できたみたいですね」
ドゥアトが近寄って来た。そして何か小さなものを差し出してくる。私だけでなくオルドへも渡していた。
「これを耳に掛けてください。一度魔力を流せば、一日だけ本人の意思以外で外すことはできなくなります」
受け取ったものは耳に引っかけられるような形になっている。右の耳に掛けて魔力を流す。ピピッと音がした。
「これでいいのか?」
「はい。ですが、テストしてみましょう。オルド様、少しフェル様から離れてもらえますか?」
オルドは頷くと、渡されたものを耳につけてから距離を取った。
「オルド様へ何か話しかけてください。念話のように頭で念じてもいいですし、言葉に出しても構いません」
どっちでもいいのか。なら普通に話してみるか。
「オルド、聞こえるか」
ちょっと小さめの声で言った。今の距離なら普通聞こえないはずだ。
『うむ、聞こえるぞ』
うん、オルドの声も聞こえる。テストは問題ないということだな。
『フェル様、私の声も聞こえますか?』
「アビスか? すごいな、複数人で念話を共有しているような感じか。これならいちいちチャンネルを接続し直す必要もないな。今日だけじゃなくて普通に使いたい。後で何個か作ってくれないか?」
ドゥアトは首を横に振った。ダメと言う意思表示だろうか。
「これを作るにはかなりのエネルギーを使います。今はアダム様からエネルギー高炉の使用許可を得てますので可能ですが、本来の私なら作れないものなのです」
「そうなのか。それは残念だ」
ヴァイアなら似たようなものを作れるだろうがここまで小型化するのは無理だろう。オリハルコンとか使えば大丈夫かもしれないけど。
「あと、これをお使いください。私達は大丈夫ですが、砂が目に入ったら痛いですから」
ドゥアトはそう言って、目の周囲までぴっちりガードできるゴーグルを渡してきた。これはあれだな、スザンナがつけているゴーグルと同じだ。確かに砂漠で戦うなら必要かも。
そんなことを考えていたら、ここから西に五キロほどの場所で砂が噴き出た。砂柱だな。
オルドがその砂柱を見て曲刀を構えた。
「どうやらントゥが動き出したようだ。さて、分担は覚えておるだろうな?」
オルドの問いかけに頷いた。アビスとドゥアトも頷く。
魔王様は外装の破壊、私はコントロールコアの破壊、オルドはサンドゴーレムの破壊、アビスとドゥアトは私達の援護だ。
「思ったより、時間が掛かってしまったよ。準備は大丈夫かな?」
魔王様が転移されてきたようだ。
「はい、問題ありません。準備万端です」
「うん、それじゃ少し様子を見ようか。ントゥがどんな状態なのか確認しておきたいからね」
魔王様はそう言うと、砂柱が噴き出た場所のほうへ視線を動かした。
いつの間にか砂柱は収まっていて、その場所には大きな球体が浮いていた。金属でできているようだが、なんであんなものが浮くのだろう?
球体は全体的に白い。そこに二本の黒い線が交わっている。球体の全部は見えないが、線は球体を一周しているのだろう。黒い線で球体が四等分されている感じだ。リンゴをそんな感じに切り分けてもらうと美味しい。丸かじりでもいいけど……おっと、どうでもいいな。
その黒い線に沿って、赤いものが動いている。あれは何だろう?
その赤い物は黒い線の上を動いてたが、こちらの正面に来ると、動きが止まった。
「どうやらントゥがこちらに気付いたようだね」
魔王様がそんなことを言う。あれがントゥの目、という事だろうか。
そして頭に声が響いた。
『私を動けるようにしたのはお前だな? ……そうか、追放された創造主か』
「その通りだよ。ントゥ、君が大人しくスリープモードに入ると言うなら、僕達は何もしない。どうだい?」
『断る。私にはやらなくてはいけない事がある』
やらなくてはいけない事? 調整のことだろうか。
「何をする気だい?」
『人界の平和と安寧のため、人族を殺す。魔族はあてにならない。私が自ら人族の敵となり、人界をまとめてみせよう』
「君が魔族の代わりになろうというのかい? でもね、そんな方法で人族をまとめることはできないよ。勇者と魔王、つまり希望と絶望があったからこそ、いびつながらも人界は安定していたんだ。でも、人族にとって君は絶望だけだ」
『……そうかもしれない。だが、私は楽園計画のために創造主を殺した。もう、後には引けない。どうせこのままなら調整されてしまうのだ。なら、わずかな可能性に賭ける』
球体の周囲に三つの球体が浮かび上がった。その周囲に砂が集まっていく。そして巨大な人の形になった。
『創造主を殺したときに、私は管理者でも闘神でもなくなった。私は破壊神ントゥ。破壊と絶望をもたらす神だ』
ものすごい矛盾している。平和と安寧のために破壊と絶望をもたらすのか。それに破壊神? もしかしてディアと似たような思考でも持っているのかな。どう考えてもチューニ病を患ってる。
「そうか、残念だよ。ならちょっと痛い目を見てもらおうか」
魔王様がメテオストライクの魔道具を使用された。本当に大丈夫なのだろうか?
あれ? 何も起きない? いや、ントゥの周囲に何本もの青い光の柱ができた。ントゥはその光の柱に囲まれた感じだ。
その青い光の柱が徐々に細くなっていく。その光が無くなる直前に轟音が響き渡った。
爆風なのだろうか。あんなに離れているのに、ここまで風が吹いてきた。いかん、砂が目に入る。ゴーグルを装備しよう。
ゴーグルを装備して、ントゥの方を見ると、左腕が無くなっていた。巨人の外装がどれほどの強度なのか知らないが、相当な威力だ。私なら跡形もなく吹き飛ぶだろう。
しかもあれって威力を押さえているんだよな。どちらかと言うと、魔王様の方が破壊神だ。
「あ、フェル、コントロールコアが見えたよ。アレを壊してきてくれるかな?」
「ものすごく簡単に言う魔王様にちょっとイラッとします。魔王様、絶対に私がここに戻るまでメテオストライクを使わないでくださいよ?」
「あ、うん、ごめん。えっと、メテオストライクに関しては安心していいよ。そもそもこれは次に撃つまでエネルギーのチャージが必要だから、連発はできないんだ。チャージしている間、僕は動けないから、よろしく頼むよ」
ネックレスを付けてもらうだけじゃ割りに合わない気がするが、仕方あるまい。あとで追加の褒美を貰おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます