映像
サンダーバードを仕留めた。なかなか強敵だったが、私の敵ではないな。
そもそも、こっちにはヴァイアの作ったとりよせ君がある。空中から強襲をされていたらもっと手間取ったかもしれないが、地面にいる鳥に負ける訳はない。
一番気を使ったのは原型を残すことだ。本気で殴ったら食べられるところが吹き飛んでしまう可能性があった。かなり手加減しながら戦ったから結構時間が掛かったな。
しかし、デカい。食べがいがあるというか、アイスバードの五倍ぐらいデカい。そしてビリビリする。服に状態保存の魔法を使っておいて良かった。雷で服がボロボロになったら悲しいからな。
氷の上に横たわっているサンダーバードを見ていると、ハインが近寄って来た。
「フェル様、ほとんど原型を残したままの討伐、お見事でございます」
「時間は掛かったが、ほとんど原型を残せたと思う。大丈夫だよな?」
「こんなに綺麗に残す方が稀でございます。それにサンダーバードは肉以外にも羽や爪などが高値で取引されますので、かなりの金額になりますね。あと、冒険者ギルドへギルドカードを提出すると報奨金が貰えるはずです」
そういえば冒険者ギルドに討伐依頼があると言っていたな。いい臨時収入になりそうだ。食糧とかお土産を買おう。
「これはこのままクロウの屋敷へ持っていっていいのか? かなり大きいけど」
「はい、問題ありません。ただ、今日の昼食に間に合うかどうかは微妙なところですね。解体作業に時間が掛かると思われますので、夕食でないと提供が難しいかと」
これだけデカいなら仕方ないか。お昼はアイスバードを食べて、夜はサンダーバードを食べる。今日は鳥尽くしだな。
「フェルちゃん、ちょっとこっち来て」
ヴァイアが横たわった鳥の頭部付近に来るように手招きしている。どうしたのだろう?
そこに近づくと「ポーズ取って」と言われた。
「ポーズ? なにを言ってるんだ?」
「鳥さんを倒したーって感じのポーズ取ってみて」
なんだいきなり。しかしポーズ? さすがにディアみたいなポーズは取りたくない。仕方ない、スライムちゃん達がよくやるサムズアップをしよう。
右手の親指を立てて、ヴァイアの方へ突き出すと、ヴァイアが金属の板をこちらに構えて、魔力を流したように見えた。一瞬、その板が光る。まぶしい。
「フェルちゃん、もういいよ」
「なんなんだ?」
ヴァイアが金属の板を見ている。それをディアとリエルが両隣から覗き込んでいるようだ。
金属の板は念話用の魔道具か? なんで光ったのだろう?
「ほら、フェルちゃん、見て見て。よく映ってるよ」
ヴァイアから受け取った金属の板には、小さな私がサムズアップをしている姿で映っていた。映っている私の足元には鳥が横たわっていて、いかにも、私が討伐しました、という感じだ。
「なんだこれ? 絵……じゃないよな? こんなに精巧な絵を描けるわけがない」
ものすごく鮮明だし、ちょっと気味悪いぐらいだ。私って客観的に見るとこんな感じなのか。なんかすごい小さい。鳥が大きいから小ささが強調されている感じだ。それ以上に気にいらないこともあるけど。
「映像を保存する術式を考えてみたよ! 残念ながら魔力の消費が激しくて、私やフェルちゃんくらいしかできないけど。もうちょっと魔力消費を抑える方法を考えないとダメだね」
「どういう術式を考えたのかは分からないが、この映像をどうするんだ?」
「アンリちゃんとスザンナちゃん、あとメノウちゃんに送るんだよ。王都の様子を連絡してあげたいからね!」
この映像を送れるのか。それはすごいな――いや、待て、これを送る?
「ヴァイア、これは送らないでくれ。そうだ、もう一度同じことをしよう。別の映像にしてくれ」
「フェルちゃん? なんでそんなに慌てているの?」
「髪の毛がボサボサじゃないか。サンダーバードと戦って私も少し帯電しているんだ。こんな髪型の映像を送らないでくれ」
髪の毛が一部逆立ったり、アホ毛になったりしている。こんなものを送られたら笑いものになってしまう。ブラシで髪をすいてから映像を保存してほしい。
「さっきも言った通り、これは魔力の消費が激しいんだよね。今日はもう映像を保存できないよ」
「諦めたらそこで終わりだろうが。分かった。別の映像にしろとは言わない。せめて送るな」
「……ごめんね」
なんで謝ったんだ?
「映像を記憶した時点で自動で送っちゃうんだよね」
「なんでそういう術式にするんだよ?」
「う、うん、アンリちゃんからの催促が激しくてね。ちょっと改良しちゃった。ちなみにフェルちゃんが鳥さんと戦っている映像はずっとアンリちゃん達に送ってたよ? あれは視界を飛ばすだけだからあまり魔力が必要ないんだ」
千里眼の魔法ってことか? いや、そんなことよりも、私が戦っている間にそんなことしてたのか。なんだろう、ちょっとモヤッとする。
いや、ヴァイアに悪気はない。悪気はないはずなんだ。
「実は今もアンリちゃんと繋がっているんだ」
「もしかして今のやり取りもアンリ達に聞こえているのか?」
「うん」
しれっと言いやがった。本当に悪気はないんだよな?
仕方ない。諦めよう。サンダーバードと戦っていたところから知っているなら、髪が逆立っていても別に変じゃないだろう。それで笑ったら怒ればいい。
「これがアンリと繋がっているのか?」
ヴァイアは頷いてから金属の板に何かしら操作してから渡してきた。今度はアンリとスザンナが映っている。なんだこれ?
『あ、フェル姉ちゃんだ。アンリ達のこと、見える?』
どうやら声だけじゃなく、映像も相互で繋がっているようだ。あれかな、アビスが魔物トーナメントをやっていた時に使ってたモニター。あれの小さいヤツだ。
「ああ、見える。スザンナも見えてるぞ」
『こっちは二人でフェルちゃんが戦うところをずっと見てたよ。格好良かった』
『興奮した。いつかアンリも巨大な鳥と戦う』
どうやら二人には評判が良かったようだ。楽しかったのならそれでいいかな。私の髪型とか気にしていないみたいだし。
「そうか。お土産を買っていくからいい子にしていろよ?」
『うん。スザンナ姉ちゃんと一緒に村を抜け出そうとすると、メノウ姉ちゃんに阻止されるからいい子にするしかない。でも、いつか突破して見せる』
「それはいい子にしていないだろうが」
メノウは頑張ってくれているんだな。いいお土産を買って行ってやろう。そうだ、サンダーバードの肉をお土産に持ち帰ろうかな。メノウは多めに渡して、村の皆にはちょっとずつだ。
『ところで、フェル姉ちゃん。その髪型はイメチェン? それとも戦闘中に覚醒した? アホ毛は可愛いけど、ボサボサは微妙』
「帯電について村長に教わるといい。好きでこんな髪型をしているわけじゃない」
その後、アンリ達とちょっと話をしてから念話を切った。そしてヴァイアに板を返す。
私がアンリ達と話している間に、ヴァイア達は帰りの支度を済ませていたようだ。
ヴァイアが板を服のポケットにしまうとこちらを見た。
「じゃあ、戻ろうか。これでお昼には美味しい鳥料理が食べられるよ!」
「不測の事態はあったが、いい肉が手に入ったからな。昼も夜も楽しみだ。よし、帰ろう。ハイン、屋敷までよろしく頼む」
なぜかハインはボケッとしている。
「おい、ハイン? どうした?」
ハインの目の前で手を振る。一瞬ハインがびくっとなってからゆっくりとヴァイアのほうを見た。
「え? あ、はい。あの、ヴァイア様。屋敷に戻ったら作った魔道具を全部クロウ様へお見せください」
「はい?」
「ちょっと、色々と理解が追い付かなくて今はそれしか言えません。えっと、屋敷ですね。はい、先導しますので、付いてきてくださると助かります」
ハインはそう言うと、ふらふらと歩き出した。メイドとは思えない感じの歩き方だ。
多分、ヴァイアの作った魔道具に驚いているんだろう。ヴァイアも簡単にこういうの作ったり使ったりするからな。問題が起きないように見張ってやらないと。
一時間ほどかけて、クロウの屋敷に着いた。リーンにあったクロウの屋敷も大きかったが、ここはさらに大きいな。
随分と落ち着きを取り戻したハインに案内され、屋敷の入り口からエントランスへ足を踏み入れた。
「まず厨房へご案内いたします。その後に皆様のお部屋へご案内いたしますので」
そうだな。まずは昼食の準備が先だ。最優先課題。
ハインの案内で厨房に行くと、かなり大きな厨房に料理人が何人もいた。料理人でもかなりの魔力だ。なぜそれだけの魔力を持っているのに料理人なのか不思議だ。
ハインがアイスバードだけじゃなく、サンダーバードもいることを伝えると、ざわめきが起きた。
「フェル様、申し訳ありません。サンダーバードはこちらで解体しても問題ありませんか? 冒険者ギルドで解体するという方法もありましたが失念しておりました」
どうやら冒険者ギルドでもお金を払って解体することができるらしい。お金を取る分、解体作業もかなりの腕前だし、失敗した時の割り増し買い取り保証もあるそうだ。
ここでは無料だが、サンダーバードの解体自体が初めてなので、失敗する可能性があるらしい。ただ、失敗したらクロウが割り増しで買い取りをしてくれると思う、という意見だった。
「任せる。もともと肉以外はクロウに全部売ってもいいと思ってた。それにクロウには世話になったから、夕食に皆で食べてくれていいぞ。残りの肉だけ渡してくれ」
全長で十メートルぐらいの鳥だから、みんなで食べてもかなり余るだろう。
「よ、よろしいのですか?」
「もしかして、この屋敷にはかなりの人数がいたりするのか? 村にお土産として持ち帰る分が無くなるのは困るのだが」
「あ、いえ、肉の方ではなく、他の部位のことですが」
「食べられない部分は買ってくれるなら売るぞ。相場は分からないからぼったくるなよ、とクロウに言っておいてくれ」
ハインは「必ずお伝えします」と言って笑顔になった。料理人たちもなにやら気合が入っているようだ。
これはお昼が期待できそうだな。
その後、各部屋に案内された。昼食まで休憩していてほしいとのことだった。
ベッドに腰かけようとして、部屋にある大きな鏡の前を通りかかるとため息が出た。
あの髪型のままで町を歩いてしまったのか。泣きたい。
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